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6.Epilogue

 事件から数日後。

 私はムッシュとテーブルをはさみ、エスプレッソをすすっていた。

「それはそうと僕は今朝ね、とてもこわい夢を見たんだ」

 ムッシュはそう言った。

「こわい夢? それはまたどんな夢だい?」

 私は特に興味はなかったが、受動的にそう返事をした。

「いやね。僕はいつものようにこの屋敷で、今まさにそうしているように、君と喋っていたんだ。会話の内容までは覚えていないけれど、取り留めの無いものだったと思う……」

「それで?」

「それだけさ」

「……? それのどこがこわい夢なんだい?」

 私はそう言った時、ぼんやりとした言いようのない気味の悪さを感じていた。

「僕は夢の中でとても楽しい時を過ごしていたんだ。いつも君と過ごしているのと変わらないと言っても差し支えの無い時間をね。目が覚めるまで、それが夢だとはそれこそ夢にも思わなかったさ。もし僕が、例えばポーの『早すぎた埋葬』の主人公の様に急に意識を失ってしまうというような発作を持っていたのならば、おやいったいいつの間に気絶してしまったのかしらなんて思ったかもしれないね」

「……」

 私はムッシュの言葉に沈黙しか返さなかった。

「さて、そこで問題だ。私が今いるここは……、いいや。君が今見ているのは、現実かな。それとも、夢だろうか――」

 ――そこで私の目は覚めた。






 I thank the great Poe.

     Kimura Naoki


 

あとがき



 読んで下さった方、ありがとうございます。

 不快感を与えてしまっておりましたら、申し訳ございません。


 よくご存知の方はもうお気づきでしょうが、当小説はエドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe)さんの『モルグ街の殺人(The Murders in the Rue Morgue)』をオマージュしたものです。

 最初の推理小説として名高い作品であり、後の探偵小説の基盤を築いたと言っても過言ではない名作でしょうが、まだ推理小説としては完全にアンフェアと言えるものでした。

 そこで読後にふと、これをトリックをそのままにフェアな推理小説を目指してオマージュするというのは面白いのではないかと思い、執筆に至りました。

 自信の未熟さは嫌というほど心得ているつもりではありますが、いかがだったでしょうか。


 原作にも興味を持って頂けましたら、短編で比較的読み易すいと思われますので、ネタバレはしてしまいましたが是非ともお読み頂ければと思います。

 余談ですが、私が読んだ短編集の中では『黒猫(The Black Cat)』が一番好きでした。鮮やかな短編です。本を選ぶ際の参考になれば幸いです。


 それでは改めまして――。

 偉大なるPoeさんに。

 今この瞬間までに私と関わって下さったすべてに。

 そしてなにより、読んで下さった貴方様に。

 ――ありがとうございます。






【参考文献】

『黒猫/モルグ街の殺人』Edger Allan Poe、訳者/小川高義(2006)株式会社光文社






二〇一九年 四月一〇日  着想・執筆開始

二〇一九年 四月二二日  脱稿

二〇一九年 四月二八日  最終加筆修正

二〇二〇年 四月一二日  4 誤字修正「最期の材料」→「最後の材料」

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