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チョコレート・アレルギー

作者: 如月十六夜

僕はチョコレートが大嫌いだ。



あんな芳醇な香りと甘ったるい柔らかな口解けのスイーツなんて大嫌いだ。


今日が聖ヴァレンチヌスによる恋人同士の記念日だなんて知ったこっちゃないさ。


小学校や中学校に通っていた頃は、それはもう見苦しいほどに放課後ギリギリまで残ってさ、あの大嫌いなチョコレートを貰えないかと必死に取り繕って。


勿論、貰えないことが多いかったけれど、僕は毎年僕だけにチョコレートをくれる女の子がいる事を知っていた。


大嫌いなチョコレートをくれる女の子のことを好きになるわけがない。どうして僕だけに嫌がらせをするのか理解できなかった。


僕にチョコを渡すとき、彼女は僕を笑うんだ。


毎年毎年、心外だったね。揶揄うくらいならくれなきゃいいのに。


所謂思春期の頃ってさ、色々なことが恥ずかしくなって色々な人を避けてしまう時期があるじゃないか。


僕もその一人だったんだよ。




2月13日、僕はその女の子に僕は甘いものは嫌いだからな、と言ってやった。


女の子は、うん、わかった。と頷きその日は別れた。



通学路の花屋にはチョコレートコスモスが並び、コンビニでもこんな場所で誰が買うのかわからない高級そうなチョコレートが並んでいるのを横目で見ながら帰った。



次の日、放課後には僕の大嫌いなチョコレートをたくさん持っている女子の群れが人気男子に集まる。


生まれも育ちも違うから、そもそも嫉む気にもならない。この日特有の心地よい甘い香りが教室に充満し、うんざりする。もらって何が嬉しいんだろう。



でも、そんな僕にもあの女の子はチョコレートを渡そうとした。

クラスの男女は、僕と女の子を揶揄う。

それが恥ずかしくって、



「甘いものは嫌いだ。」



この日も僕は同じことを言って、女の子を突っぱねた。



そのまま席を外し、少し時間をおいて教室へ戻るとその女の子はもう居なかった。


初めてチョコレートの受け取りを拒否してしまった。


毎年僕だけに嫌がらせをする女の子。僕を揶揄うため毎年僕だけにチョコレートをくれる女の子。

僕は罪悪感に駆られて帰宅後に電話をかけるも、繋がらない。何度か掛けなおしたけれど、どうやら電源を入れていないようなんだ。



次の日、僕は珍しく。直接謝ろうと思って早めに学校へ行くと、教室は昨日とは打って変わって重苦しい空気で一杯だった。

それは緊急で集められた全校集会でも同じ空気だった。

昨日はバレンタインデーだったんだぜ、この光景を見て誰が信じられる?



彼女の携帯には、繋がらなかったんじゃない。壊れて(・・・)いたんだ。



結局、僕は彼女に謝ることはできなくなった。





僕は帰宅後、カバンの中身をひっくり返すと中から可愛くラッピングされたチョコレートと、小さな赤い封筒にハートのシールで封をした手紙が出てきた。



手紙を読まずに、乱暴に包装を解き、中のチョコレートを齧ると、かなり苦めのカカオの仄かな良い香りが口いっぱいに広がった。

苦みの中の甘さを強調しようとしたのか、塩気が途中から合わさってきた。



僕は、チョコレートが、大嫌いだ。

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