覚悟
どうも
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
俺は縮めるを解除し、図体を大きくして殴りかかった。大きくなった方が威力が高くなるかもしれないと、半ば直感的に感じていたのだ。
しかし、俺のそんな閃きもリスにとっては些細な事。いや、それどころか食べる事ができる量が増えて嬉しいとばかりに顔を輝かせている。
ブゥンッッ!!
俺の拳が唸りを上げる!普段の労働で培われた俺の筋肉がかなりの威力を生んでいたのだろう。利き手でない左手だが、リス程の大きさの敵を倒すには十分なものだった。
…当たれば、なのだが。そう、俺の渾身の一撃はリスに掠る事もなく、アッサリと躱されてしまった。そして躱した勢いそのままに俺の左腕の上でダンスを踊り始めた。
…舐められている。俺はそう感じた。冷静になればこの圧倒的実力差の中、舐められても仕方がないと思えた筈だ。そして無様にも逃げ出していれば…
しかし決めてしまった事は戻らない、変わらない。ただその結果を従うしか道は無い。
右手でなぎ払おうとしたのだ。アドレナリンで痛みを強引に打ち消し、指が無くとも腕で薙ぎ払えばどうにかなると。
刹那、俺はバランスを崩して地に伏した。余りにも勢い良く振りすぎて転んだ訳ではない。片腕が失われてしまったのだ。
なら腕はどこに行ったのか?答えはお残しは良くないとばかりにリスに咀嚼されている口の中だ。
「う、腕…俺の腕が…い、嫌だ。死にたくない。喰われたくない!クルナクルナクルナクルナクルナクルナ!!!」
俺は腕から血を垂れ流しながら、リスから必死に逃げた。先程までの慎重さも無く、自分を縮めて隠れやすくする訳でも無く、ただひたすらに逃げ続けた。
しかし限界はやって来る。人間は血を無くして動き続ける事はできない。俺は再び地に倒れてしまった。血まみれの俺が顔を上げると、ここまでわざわざ追いかけてきたのだろう。悪夢ともいうべきリスが此方を覗いていた。少しずつ…少しずつ…ゆっくりと俺の方に迫って来る。
身体は動かない。リスは俺を逃がすつもりはないようだ。交渉するものもなく、そもそも通じる相手ではないだろう。…詰みだ。俺はこの時ハッキリとそう認識した。
ああ、ここで終わるのか。今まで楽しいことなんて何一つなく、希望を持っては打ち砕かれ、今だってこんなに苦しみながらも誰も助けに来てくれない。
…なぁ、おい。どうしてお前はそんなに残虐な笑みをしてる?せめて一思いにやってくれよ。死ぬ時まで安らがせてくれないのか?
…あれ?なんで涙が出てくるんだ?死ぬのが怖いからか?痛いのが嫌だからか?こんな奴に殺されるのが悔しいからか?
ああ、そうか、
俺は生きたいんだ。
この期に及んで俺は生きることを渇望してる。今まで生きてきていいことなんて何一ついいことなんてなかった。楽しいこともなかった。それでも俺は生きたいんだ。
その時、俺の脳裏に魔物を倒し続けた男の物語に出てきた言葉が思い出された。当時、自分にはできず有り得ないと馬鹿にしたその言葉を。
「スキルは持ち主の心の強さに呼応する。己のスキルを信じ、スキルに身を委ねるんだ。そうすればスキルは思いに応えてくれる…か」
思わず口から溢れ出した言葉がもし、もし本当なのならば、俺にもまだ望みはあるんじゃないか?今まで力が発揮できなかった理由が、ハズレスキルと言われてるからダメ、ハズレスキルだから使えないと思い込んでいた事だとするならば。
人に例えるなら、やる前からお前には無理だ。お前はどう頑張ったって結果を残せる筈がない。と言われているようなものだったとするなら。
俺はかなり酷いことをしていたと言える。俺なら確実にやる気がなくなってしまう。いや、俺じゃなくてもきっとそうだろう。
…すまない。俺は今まで酷いことをしてきたのだろう。命の危険が出てきたから謝るなんて浅ましい上に余り気持ちの良いものでもないだろう。
でも、その上で謝らせてくれ。すまない。どうか話を聴いているのなら、応えてはくれないだろうか。今までの俺の行いは短慮が過ぎたものだった。
例えここで応えてくれなかったのだとしても俺は恨まない。ある意味因果応報だからな。でも、もし俺を許してくれるなら、赦してくれるのなら、見せてくれないか?
スキル『縮める』がハズレスキルなんかじゃないってことを。他者に誇るべき素晴らしいスキルなのだということを!
リスが俺に向かって飛び掛かってきた。気合いを入れろ!覚悟を決めろ!行くぞ!!
あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!
「『縮める』!!」
ブクマ増えてて嬉しかったです。
ありがとうございます