プロローグ
はじめまして。
この世界にはスキルという謎の力が存在する。生まれた時から一人につき一つ必ず持っていて、様々な効果を発動する。
それらは神に与えられたという説も有れば、人間が魔物に対抗するために自ら進化して手に入れた能力という説もある。
魔物とはこの世界に存在する凶暴な生き物であり、様々な種類の魔物がいる。強さも種によって様々であり、強い魔物はほとんど災害である。
おっと、話を戻そう。だからこそ人々はその力を絶対視し、活用する。そしてそんなスキルの中にも優劣が存在する。当然だ、スキルは千差万別なのだから。
そしてそれはそのまま人の中の優劣に繋がってしまう。差別なんて無い方がいいだろうが、生まれてしまうのも仕方ない。スキルの力が絶対視されている中でそれらに優劣が付いてしまっているのなら、それがそのまま流れてしまうのも道理だ。
…少し分かりにくいかもしれないな。分かりやすく説明しよう。この世界には当たりスキルと呼ばれるものと、ハズレスキルと呼ばれるもの、また、そのどちらでもないスキルと、三種類存在する。
当たりスキルは(強い)(便利)(高い応用性)の三拍子が揃っており、歴史の偉人や英雄、はたまた世紀の大犯罪者が持っていたとされるとんでもなく強力なスキルだ。
ならハズレスキルはどうなのだろうか?…字の通り(弱い)(不便)(使えない)と酷い有様だ。歴史に名を残すどころか、場所によっては奴隷身分に落とされた場合もあったらしい。
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おっと…どうやら今、ハズレスキルを授かった赤ん坊がこの世に産み落とされたようだ。
いかなる運命を歩むのか、それは神のみぞ知る…いや、それとも………
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「ほら、しっかりと薪を割るのよ!いいわね?返事は?…素早く返事しなきゃいけないっていつも言ってるじゃないの!まったくこれだから無能は…」
とんでもない早口でアラサーぐらいの女が耳鳴りがしそうなくらい高い声で俺に語りかけてくる。…俺の母親だ。
俺の名前はクロムウェル。他所から人が来た事ないくらいの田舎の村に住んでる男だ。と言ってもまだ成人してないが。
そして俺が母親にこんな風に当たられてる事だが…これが日常だ。
嫌になってしまうが、別にこれは俺の母親が異常なんじゃない。俺の住んでいる村の住人は皆こんな態度を取ってくる。…ホントクソみたいな村だな。毎日そう思ってる。
でも残念ながら他のところに行っても同じ扱いになるだろう事は見えてる。それどころかもっと酷くなるかもしれない。
え?原因?勿論俺は悪い事なんてしていない。こんな扱いになっているのは偏に俺のスキルのせいだ。
俺の持っているスキルは『縮める』。効果としては俺自身を縮めたり、触れている物を縮めたりすることが出来る。
けど、それだけだ。魔物と戦うこともできないし、他の人にはできない何かが出来るわけでもない。そもそも縮めた所で感謝されるような事なんてほとんどない。
そして世間ではハズレスキルに分類されている。昔の偉い人がこのスキルは凄い!これはダメ!みたいな感じで選んだらしいが、酷い迷惑だ。ハズレスキル持ちというだけで人間ではないみたいに扱われる。
だからあんまり得意でもない薪割りなんかをさせられてる。もっとも、それのお陰で筋肉はついたけどな。でもそんな事で調子に乗ってはいけない。
実は昔、無謀にも魔物を倒そうとした事があった。理由としては魔物を倒していると、身体が強くなるという事を聞いたからだ。
具体的に言うと、魔物を倒し続けて最強になった男の物語を。スキルだけじゃない、肉体的な強さも兼ね備えていたそうだ。そんな話を聞いて、俺はスキルに頼らずにやって行ける道があるんじゃないかと思ったんだ。もっとも、実在する人物かどうか分からないくらい昔のお話らしいが。
しかし、魔物を倒して強くなるというのは実際にある話だ。そしてその結果はというと…
甘かった。魔物としては弱い部類の相手だったが、死に掛けた。不意打ちで後ろから木の棒で殴り掛かったが、ダメ。何をしてもダメで、最後には砂で目くらましをして這いつくばりながらも逃げた。
大きな怪我がなかった事だけが不幸中の幸いといった所だったのだろう。それ以来、俺はそんな無謀な事はしていない。
そして、そんな事を思い出しながらも薪を割り、他にも様々な雑用を日が沈むまでし続け…今日も俺の一日は終わりを迎えた。
読んでくださりありがとうございました。
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