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 ほんとに死ねばいいと思う。

 お母さんを悲しませるようなことをするお父さんには、失望したよ。


 亜人に愛人か。

 ヒューマン至上主義はダメだ! って偉そうに言ってたけど、そう言ったのも、もしかしてその愛人のせいなんじゃないの? そう考えると、お父さんがゴミクズにしか思えなくなってくる。お母さんの前でヒューマン至上主義はダメだって声高らかに言うなんて、お母さんの気持ちを完全に無視してるよ。


 スキル《千里眼》【特】でお父さんの様子を盗み見る。

 今は領主館で何やら書類仕事をしているようだ。隣に美人秘書を侍らせているが、ヒューマンなので愛人ではなさそう。


 ……でも、毎日こんな美女を引き連れて仕事してんの??

 なんかずるくね。


「にぃに、ルー頑張って来たよ! ルーはダンス苦手だけど、頑張ったんだよ!」


「うん、ルーチェは偉いね」


 自分のことは棚に上げて、ルーチェの頭をなでなでする。


「えへへ! やっぱりダンスは得意かも!」


 そんなにお兄ちゃんのなでなでが嬉しいかい?

 それならばもっと過激にしてやろう!


「こちょこちょこちょこちょ」


「いやっ、ふへへ、くすぐったい! あはははははは、くすぐったいって!」


「こちょこちょこちょこちょ」


「足の裏はダメだって! あっ、あへへへへへ~、にぃに、やめて~、死んじゃう~」


 こちょこちょをやめると、ルーチェはぐったりと床に倒れた。

 うん、ルーチェは反応が良いから楽しいね!




 ご飯を食べてお風呂に入り寝る。

 常時、スキル《千里眼》を発動しお父さんの監視を忘れなかった。


 そのおかげで愛人はすぐに見つかった。

 俺は直接面識はなかったが、どうやら愛人はサキュバスの女の子のようだ。黒い小さな翼に、黒くて細いしっぽを持つのがサキュバスの特徴だ。この子はサキュバスの特徴通りの容姿で、小柄な体に釣り合わない巨乳を持っている。


 仕事を終えたお父さんは、領主館から出て、近くの高級レストランでそのサキュバスと落ち合い、一緒に中へ。

 その時点で腕を組んでいて、もういいかなって思ったけど、愛人だと確定したわけじゃないので監視を続けた。スキル《読唇》【特】を使って、レストランでの会話を聞くと、どうやらそのサキュバスは一年ほど前に領に雇い入れた新人らしい。


 そして食事を終えたら、ラブホへ。

 いやこの世界だと娼館と言った方がいいか。娼館では、男が一人で来てそこにいる女の子を指名して一晩を共にするっていう使い方が主流だけど、カップルで来て行為をする部屋を借りるという使い方もある。


 まあ、このサキュバスが愛人確定だね。

 自分の部下を愛人するなんてゴミだし、ヒューマン至上主義がなんとか~とか言って亜人をより多く雇ったのもなんかこのためだと思うとひどすぎる。


 とりあえずスキル《呪術》【特】を使って、お父さんの股間が立たなくなる呪いをかけておいた。

 お母さんを悲しませたのが赤の他人だったら殺したかもしれないけど、どれだけゴミクズでもお父さんだし、殺すのは憚られた。ということで息子を封印しておいた。そもそもそいつが元凶なわけだし。


 ベッドの上で自分の股間が反応しないことに、お父さんは絶望した表情になってたが、ざまあみろ!




 次の日、俺はすがすがしい朝を迎えた。


「にぃに、何かいいことあったの?」


「やっぱ、悪い奴をやっつけるのはいいよなって思うんだ」


「?」


 何を言っているか分からず、ルーチェは首をかしげるが、ルーチェには説明しない方がいいだろう。

 人の悪いところを知るのには、まだまだ早すぎる。


 お父さんにかけた呪いは、いまのところ解呪するつもりはない。

 これで愛人は作れなくなったが、解呪したとたん愛人を作った、では意味がないのだ。それにお母さんは悲しんだままだし。お父さんがしっかりお母さんに謝ってちゃんと反省をするのなら、解呪してやってもいいかもしれない。






 その日の夕方。

 早々と体術の訓練を抜け出した俺は、家の周りをぷらぷらと歩いていた。


 裏で大事件(特にお父さんにとっては)が起きたわけだけど、今日もいつも通りの一日だった。

 いや~、平和だな~。


「あの~、アイミンっていますか?」


 話しかけてきたのは、どこかで見たことのある少女。

 小さな黒い翼に、細長く黒いしっぽを持つ。小柄なのに肉付きがとても良い。


 お父さんの愛人のサキュバスだ!


 しかしなぜこんなところに? しかもアイミンと知り合いなのか?


「エルフ先生なら、家にいると思うよ」


「呼んできて貰ってもいいかな?」


 言われた通りエルフ先生を呼んでくる。


「リリスじゃん、どうしたの?」


「アイミン! 実は相談したいことがあって……」


 二人は親しげな様子だ。


「エルフ先生、このサキュバスと知り合いなの?」


「ええ、私の友達のリリス。この街には二人で来たのよ。それから私はあなたたち双子のピアノの先生をしてて、リリスは領に勤めているわ」


 サキュバスの少女リリスは「うんうん」と頷いた後、俺の方を見る。


「えっと……君、呼んできてくれてありがとね。アイミンと秘密のお話をしたいから」


「ルクスくん、先生、リリスと二人でお話しするから」


 え? 俺が邪魔者な感じ? すごく気になるから、俺も一緒にお話ししたい。

 俺はエルフ先生の細い足に抱き着く。4歳児なので許される行為である。


「俺も一緒に聞く!」


「えーと、リリス、この子にも聞かれてダメな内容なの?」


「この子って……」


「次期領主様の息子様だけど」


「う~ん、まあ、いっか」


 リリスは少し悩んだ後、そう言って話し出す。


「あのね、今の私の彼のアレが立たなくなっちゃって」


「「は?」」


 エルフ先生と俺は唖然として、固まる。

 しかしその意味はエルフ先生と俺では違うだろう。


「いや、だから……彼と昨日ヤルつもりだったんだけど、彼のアソコが立たなくて」


「は?」


 エルフ先生は、驚きで固まっている。


「それをね、アイミンに治して貰いたいな~って思ってね」


 エルフ先生に何の用で来たのかと思ったら、俺がかけた呪いのことか。しかし、エルフ先生に解呪の力があるのだろうか? それにその内容って4歳児が聞いていい内容なのか……?


「いやいやいや、明らかにルクスに聞かせちゃダメな内容でしょ!? あなたは何を考えてるの!?」


 案の定、エルフ先生はそう言う。


「え~、一番重要なことはぼかして言わなかったんだけど……」


 リリスはそういうと、アイミンにふわりと近づいて、その耳元で小さく囁く。


「だって、その彼は次期領主様なんだから」


 まあ俺には聞こえてるんだけどね、特性《五感強化》【特】を持っているので余裕である。


「は? リリス、それ本当なの……」


「うん」


「不倫なのはわかってるんでしょ」


「うん」


 リリスは悪びれもなく頷く。


「アイミンだって分かるよね? サキュバスにとってオスは生きる上で必要なものだって。オス分が足りなくて辛かったときに、彼が助けてくれたの。彼だって妻が妊娠して溜まっていたみたいだったし、ウィンウィンって関係じゃない? サキュバスはヒューマンとの子をなすことはないし」


 エルフ先生は、そのサキュバスを睨む。


「あのさ……知ってる? その彼の奥さんは、今は妊娠してないってこと」


「うん、その話は彼から聞いたよ」


「そもそも妊娠していようがいまいが、結婚している人とそういう関係になっちゃダメだよ……彼女は悲しんでいるのに」


「別に。それは彼の責任で、私には関係ないし」


 俺はエルフ先生の足にしがみつきながら、黙っている。だって、話しかけるタイミングがないし。

 ふいにエルフ先生に頭を撫でられる。

 ん? と思った直後、エルフ先生に魔力が集中し、周囲の温度が急激に下がる。


「氷魔法《アイシクル・ジェイル》!」


 氷の檻が地面から現れ、リリスを囲う。


「ちょっと!? アイミン! 何するのよ!」


「それはこっちのセリフよ。自分がしたことを反省しなさい。リリス」


「なんで? 私、悪いことなんてしてないのに」


 リリスは本当に自分は悪いと思っていない風だ。

 エルフ先生の目は冷たい。


「リリス……あなたはホント、体の関係さえもっと真摯になれたら、最高に良い子なのに……」


「私はちゃんと相手の同意があるときにしか、やらないよ?」


「相手の同意があっても、その相手に妻がいるって知ってるんなら、あなたも同罪です。ちゃんと彼女に、マリアに謝って下さい」


 エルフ先生……マリアって言っちゃったよ。マリアとはお母さんの名前である。今まではずっと“彼女”とか“彼”とか一応俺にも分からないように気を使っていたのに。

 まあ実際はバレバレどころか、リリスがここに来た理由の元凶でもあるんだけどね。


「ルクス君、マリアを――お母さんを呼んできて貰ってもいいですか?」


「うん!」


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