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 時が流れるのは早いもので、今日は3歳の誕生日だ。


 愛しの妹ルーチェとの日々はとても充実したものだった。

 ルーチェが泣けば、俺も泣き、

 ルーチェがハイハイすれば、俺もハイハイし、

 ルーチェと一緒に風呂に入り、体をチェックする。


 赤ちゃんがいつハイハイできるようになるのか、いつ歩けるようになるのか、いつ話せるようになるのか。

 そんなこと全く知らなかったので、すべてルーチェに合わせた。お母さんは『二人同時にできるようになるなんて、仲がいいのねぇ~』なんて楽しそうに言っていたので全く問題なかった。


 いや~、しかし、ルーチェが最初に話した言葉は何だと思う?

 いや~、思い出すだけでにやけが止まらない。

 なんとね! 『にぃに』って言ったんだよ! もう嬉しすぎてあの日はずっと変な顔になってたな~


 毎日さりげなく、お母さんにばれないように『にぃに』って自分のことを指して教えていた甲斐があったよ。努力の勝利である。


 双子なので、今日はルーチェの誕生日でもある。

 食卓には普段見かけないような豪勢な料理が並べられ、子供たちは目を輝かせている。


「ルクス、ルーチェ、3歳のお誕生日おめでとう。

 これまでは赤ん坊だったが、これからは“貴族の子供”として生きることになる」


 今日のお父さんはいつもより少し真剣なように感じる。


「貴族は3歳になったら何かを習うんだ。そして稽古に励み、一芸に秀る者になれ。

 これから長くとも一か月の間にどの道に行くか、決めてもらう。なあに、難しく考えなくてもいい。自分のやりたいこと、やってみたいことをたくさん頑張れるってことだ」


「パパ、そんな難しい言葉を使ったら、伝わらないわ」


 ママがぽつりと言う。


 案の定、ルーチェは難しい顔をしている。

 俺はルーチェの頭を撫でる。


「ルーチェ、お父さんの言うこと、分かんなかったよね?」


 妹は首を振って、


「ううん、なんとか分かった! つまり~、ルーのやりたいことをやるってこと!」


「おお! すごいすごい! 流石はルーチェだ!」


「にぃにはパパがなんて言ったか分かったの?」


 俺は首を振って答える。

 すると「えへん!」と胸を張るルーチェ。ドヤ顔のルーチェもかわいいなぁ。




 次の日。俺たち双子はこれから極める一芸を決めるため、まずはメルカ姉(8歳)の練習を見る。


「ルクス、ルーチェ見ててね! 水よ、集いて玉となり、我が標的を打ち倒せ! ウォーターボール!」


 メルカ姉が呪文を詠唱すると、どこからともなくメルカ姉の頭上に水の玉が現れて、それが少し先にある土人形を破壊する。


「すごい! すごい!」


 ルーチェは楽しそうにメルカ姉を褒める。メルカ姉も誇らしげな様子だ。

 しかし水魔法の先生は不機嫌そうだ。

 

「メルカさん、魔力を込めすぎですわ。弟さんたちの前で良いところを見せたいのは分かりますが、どんな時も平常心ですわ」


「うっ……」


 その言葉に視線をさまよわせるメルカ姉だったが、突然目の色を変えて突然詠唱をし始めた。


「お姉ちゃんがさっきのよりももっとすごいの見せてあげる! いくよ! 水よ、集いて槍となり、我が標的を貫け! ウォーターランス!」


 水の槍が一直線に土人形に刺さる。


「どう!? お姉ちゃんはすごいでしょ!?」


「うんうん!!」


 ルーチェは首を縦にものすごい速度で振る。顔を真っ赤しているけど、興奮してるだけだよね? 大丈夫だよね?


「ルクスは? ルクスもお姉ちゃんすごいと思うでしょ?」


「まあ……そうだね」


「えへへ、ルクスにも褒められた!」


 メルカ姉はとても嬉しそうにしているが、その後ろには無表情の先生の顔が……


「………………メルカさん、また魔力の込めすぎですわよ。それに魔法を使うときは事前に教えてくださいと何度も言ったはずです。今はまだ大丈夫ですが、大きくなればそれだけ魔法の威力も上がります。そしていつかお母さんやお父さん、兄弟をあなたの魔法で傷つけてしまうかもしれません。

 今日は罰として水魔法の使用禁止とします」


「え!? ひどい! ルクスとルーチェにいいところ見せようとしただけなのに! それに今日はまだまだ始まったばかりだよ!?」


「自分の行いのせいだと、反省してください」


「がーん! そんなのおかしいよ! ね!? ルーチェ! ルクス! お姉ちゃんのためになんか言ってよ!」


 メルカ姉は泣きそうになりながら、俺たち双子を見る。

 こういうとき、子供ならどうやって返すのだろうか。逡巡していると、隣から愛らしい笑い声が聞こえてきた。


「きゃはははは! おねーちゃん、おもしろ~い! きゃはははは!」


 ルーチェはメルカ姉の真っ青な顔をみて楽しそうに笑っていた。

 救いはないらしい。

 メルカ姉、ご愁傷様。




 次はガロン兄(6歳)の練習を見る。


 そこには上半身をむき出しにしたマッチョマンと、同じく上半身を裸にしたガロン兄が槍を振っている。汗をかきながら、素振りをしていて……体育会系だね。


 隣のマッチョと比べると少しかすむが、ガロン兄の体格は6歳児とは思えないほどにすごい。身長は8歳のメルカ姉を超えているし、上半身裸なのでその筋肉が露になっている。胸筋や腹筋がちゃんと見えていて、腕も子供とは思えない太さだ。


 しかしルーチェの中では、ガロン兄はそういう人として割り切られているのだろうか?

 ガロン兄の子供離れした肉体にはまるで目も暮れず、「あれって槍っていうんでしょ!? ランスっていうんでしょ!?」と興奮している。


 俺はルーチェの頭をなでながら、ルーチェには槍はやらせたくないな、と思う。マッチョになって欲しくはないし。


「おう! 坊主たち! 見学だったな!」


 マッチョマンが俺たちに気づき、やって来る。


「これが何か分かるか?」


「やりー!」


「そうだ、嬢ちゃん。よく知ってたな」


「えへへー」


「お前らの兄のガロンは、槍の練習をしている。よし、ガロン! 何かカッコいいことやってみろ!」


 そう言われて、ガロン兄は槍の素振りをやめてこちらを向いた後、大きく息を吐き、息を吸う。


 直後、超高速の3撃。

 後からものすごい風がやってきて、ルーチェはかわいく「おっとっと」とバランスを崩しそうになる。


「ガロにぃすごい! 槍がみっつになったよ! すごいすごい!」


「……」


 常人の目にはガロン兄の技は、一瞬槍の穂先が三つになったように見えるだろう。

 ガロン兄は黙って素振りを再開した。その様子は心なしか満足げだった。


「ルーも振りたい!」


 ルーチェはマッチョマンの持っている槍を触ろうとする。


「嬢ちゃん、いい心構えだ! よし、これを持ち上げられるか?」


 マッチョマンは自分の槍を地面に置く。

 ルーチェはそれを持とうとするが、びくともしない。


「んー! んー!」


「がはは! どうだ? 重いだろ?」


「ううう……」


 ルーチェが涙目になっている。

 おい! マッチョ! 俺の愛しの妹が泣きそうになってるんですけど!? 絶対許さん!


「ちょ!? 泣くなよ!? こんなの持ち上げられる子供はいないんだから! ちゃんと子供用の槍を用意してあるからな」


「ううう……」


 マッチョマンが二本のミニチュアサイズの槍を持ってきた。


 それを俺とルーチェに一本ずつ渡す。


 ルーチェはすぐに機嫌がよくなり、ミニチュアの槍を振る。

 楽しそうで何よりだ。

 これならマッチョマンの減刑を考えてやってもいい。


「坊主! 坊主は槍を振らないのか?」


 槍を受け取ったまま何もしない俺を見てマッチョマンは声をかけてきた。


「……振らない」


 俺は答える。より正確に答えるなら、『振ると不都合が発生するので、振らない』である。

 つまりどういうことかというと……


 転生ボーナスで得た399個の【特】レベルのスキルや特性。

 そのうちの一つにスキル《槍》【特】というものがあって、技術的なことを言えばこの世界に一人いるかいないかという境地に達していることになっている。つまりそんな俺が槍を振ってしまったら、『ルクスは天才だー!!!』ってもてはやされて次期領主ということになってしまかもしれない。それは不都合だ。


 俺は18歳か20歳になったら日本に帰るつもりである。もちろんできればこっちの世界にも戻って来たいが、地球の魔力事情がどうなっているのか分からない以上、日本に行ったきり帰ってこれないという可能性もある。そういうことを考えると将来領主にはぜひガロン兄になってもらって、俺は個性埋没ただのモブとして生きていきたい。

 最悪俺がいなくなってもみんなの心のダメージが少しでも少なるなるように、こうやって子供が多い家庭になるように転生ボーナスを振ったわけだしね。だってもし一人っ子だったとして、そのたった一人の子がいなくなったら親はどう思う? 悲しすぎると思います。


 話を戻そう。

 スキル《槍》【特】を持っているので、槍を振ることはできない。一時的に下手な演技をすることはできるかもしれないが、俺の極める一芸を槍にするつもりはない。だって徐々に上手くなっていく演技をするのって難しすぎないか?

 同様の理由で、水魔法もだめだ。スキル《水魔法》【特】のせいである。というか戦闘系は基本的にメジャーっぽい奴は全部取ったので、多分俺が選べそうなものはない。


 ……あれ? 俺、実は極める一芸がない!?




 その後は厨房を見せてもらって、料理長と今日の昼食を一緒に作ったが、俺はほとんど何もしていない。

 だってスキル《料理》【特】があるからね。下手なことはできない。


 昼食を食べて、午後、知らない人が来て、どんなものがあるか教えてくれるようだ。

 俺ら双子はお母さんと一緒に、その男の話を聞く。


「これは剣、これは槍、これはハンマー、これは弓、これは杖、これはスコップ。いろいろな武器があるんだ」


 男は魔法のバッグからたくさんの武器を出して紹介していく。


「あの!」


 俺はずっと聞きたかったことを聞く。


「戦いには関係ないことは何がありますか!」


「ん~、まず生活にかかわってくるものとして……料理、裁縫、あと鍛冶とか」


 全部【特】のスキル持ってる。


「他には?」


「建築とか」


 持ってる。


「歌を歌うとか」


 これもスキル《歌唱》【特】を持ってる。


「金属加工や木材加工、家具作りなんかとか」


 スキル《加工術》【特】、スキル《制作術》【特】ともに持っている。


「あとはそうだな~、ちょっとマイナーだけど釣りや水泳なんかとか」


 持ってる……あはははははは。


 ことごとく持っているんだが……おかしいな。399個の【特】の中で戦闘系スキルは約250個。《頑強》や《器用》、《記憶力向上》といった特性系が約100個。非戦闘系スキルはだいたい50個くらいしか取ってないと思うけど……


 あれ?

 50個ってもしかして十分多い?

 ……うん、よく考えたら50個って多いな。399個あるうちの50個だからあんまりとってないっていうイメージだったけど。


「水彩画や油絵なんてのもある」


 それも持っているよ……


「あとは、ギターやピアノ、トランペットとか」


 それも持って……ぅん?


「それだ!!」


「うお!? びっくりしたぁ。君、どうした?」


 ステータスオープン。確認。よし、ない!

 楽器系はギターしか持っていない。やっぱりあんまり取ってなかったんだよ。楽器系は一つの楽器につき一つのスキルだから楽器の数だけスキルの種類があるっていうね。だからほとんど取らなかった。前世ギターは少し弾いたことがあったのでそれだけ取ってみたけど、他はスルーした。それが今ここで生きている。


「ピアノか、トランペットをやる!」


「あらあら、実はお母さんの一芸はピアノなのよ。館にピアノがあるから弾いてみる?」


「うん!」


 俺は子供らしい返事をした。


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