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「おお! 主、戻ったか!」
薄暗い地下の一室に戻る。
ブリーは外世界でに居られるだけの力がないので、こうしてお留守番を任せていたのである。
「まあ、レーレシアさんから聞いた内容は、良い方の予想通りかな?」
天使の特性はほとんど出ず、ヒューマンと同じ外見らしいし、良かった。
ヒューマンの上位互換みたいな存在っぽいし……
「それでこの3人の赤ちゃんだけど、ブリーの子供ってことにして火山国家ルハザで育てようと思ってる。どう?」
「もちろん、いいぞ! 主のためになるなら、吾輩にとってこれ以上光栄なことはない!」
「じゃ、今から行こうか」
火山国家ルハザの王都、トルネード型の王宮の前に転移する。
夜なのに昼のように明るいのは、昼夜逆転しているからだ。
「ん……これは英雄ブリー様ですか」
門番が怪訝そうな目を俺たち3人に向ける。
俺はブリーに「国王に会いたいって言って」と小声で言う。
「吾輩、国王殿に面会したいのだが、よろしいか?」
「えっと、まずは本人確認をしたいのですが」
「ああ、いいぞ」
ブリーは懐から冒険者カードを出す。
二人の門番のうち、片方が冒険者カードを受け取り「確認いたしますので、少々お待ちください」と言って王宮の中に入る。真ん中の大きな扉は閉まったままで、使ったのは横にある小さな扉だ。
「えー、Sランク、ブリー様ですね。これはお返しします」
戻ってきた門番は丁重に、その冒険者カードをブリーに手渡す。
「係りの者が現在、面会可能か確認に行っております。それまでの間、王宮の中でお待ちになられますか?」
門番は尋ねる。
ブリーがこちらを見るので、俺は「そうしよ」と小声で伝えた。
「ならば、そうさせて貰おうか」
ブリーは堂々と言って、冒険者カードを黒ローブの中に仕舞った。
門番は王宮の門を開ける。
中にはメイドの少女がひとりいて、ぺこりとお辞儀をする。
「お客様、お部屋へと案内いたします」
メイド少女は上品に歩く。
俺たちはそれについていく。
流石、王宮の中なだけあって、とてもお金がかかっていそうだ。
廊下の一面はガラス張りになっていて、中庭の様子を見ることができる。
「ん? あれは……エムちゃん?」
中庭に見覚えのある姿が見えた。
俺と同い年で6歳のお姫様。小麦色の肌に、オレンジのショートヘアの活発そうな女の子エムちゃんだ。この前来た時には、一緒に遊んだ。子供の世界で友達になるのは早いので、すでに友達と言っていいと思う。
エムちゃんもこちらに気付いたようで、遠くからでも目を輝かせたのが分かった。
とてとてと駆ける。中庭から出て、俺のほうに走ってくる。
「うお」
「るくるく、来てくれたのです! 歓迎するのです!」
「ありがと」
「えむえむ、来てくれたらまたぬいぐるみ遊びしようと思ってたのです!」
「じゃあ、ぬいぐるみ遊びしよっか」
「はいなのです!」
*
そして俺とエムちゃんは、ルハザ王都の南にあるスライム天国に来ていた。
え?
ぬいぐるみ遊びじゃなかったのか、だって?
女心と秋の空。
エムちゃんの興味はすぐに別のことに移ってしまうのだ。「えとえと、やっぱりスライム天国に行きたいです!」と突然言ったのは驚いたけど、俺は子供じゃないしエムちゃんに合わせた。
ちなみに護衛は3人もへっついてきている。その中にブリーや神様は含まれていない。
ブリーと神様は国王様と赤ちゃんのお話でもしていることだろう。きっと国王様がマシンガントークをしているはずだ。う~ん……ご愁傷様です(汗)
「るくるく、来て、なのです!」
エムちゃんは自分の体よりも大きいスライムに抱き着いている。
スライムと言っても、通常のスライムとは異なる。ハニースライムという、安全なスライムだ。
「おお……これがスライムか……」
俺もスライムに抱き着いてみた。
よくよく思い返してみると、初めての経験だ。
せっかく異世界にやってきたのに、スライムをこうして抱きしめたこともなかった。倒したこともないな……
異世界に来たのに全然異世界らしいことしてないのでは?
気付いてしまった……
一芸のピアノは日本でもできることだし。最強のチート能力群も、全然使っていないような。転移も神様がやってくれることが多いし……あれ? 本当にほとんど使ってないのでは?
いや……別にいいんだけどね。
将来暇な時間ができたら、チート能力群をふんだんに使ってみてもいいかも。今は子供ゆえ、フリーになる時間が夜しかないし……最悪、日本に戻るって時の前に世界一周の旅をして最後の思い出を作った後、日本に帰ってもいい。もちろん何もしなくてもいい。
俺は真に自由なのだ。
スキル《不老》【特】や《完全体》【特】のお陰で時間的制約はないと言ってもいい。だからマイペースでいいんだよ。うん。
むぎゅぅ……
スライムは少しひんやりしていて、すべすべで、ぷるぷるでとっても抱き着いていると気持ちがいい。
「幸せだなぁ~」
頭を空っぽにして、ぼーっと抱き着く。
「るくるくのスライムの方がよさそうです! えむえむも抱き着くのです!」
エムちゃんは俺の抱き着いているスライムに一緒に抱き着く。
スライムは十分大きく、6歳児が二人抱き着いても全然余裕だ。
「ふわふわ、気持ちいいのです~」
「そうだな~」
二人でまったり抱き着いていると、他のスライムたちが寄ってくる。
「うんうん、え? 上に乗せてくれるのですか!?」
なぜかスライムとの意思疎通に成功したらしい。
「るくるく、スライムさんたちが上に乗せるよって言うのです! 乗るのです!」
「う、うん」
スライムたちの中でも小さいのに乗り、順々に大きなスライムへと乗っていく。
「ひえひえ、ちょっと怖いのです! 足がすくむのです!」
実際は2メートルほどの高さだけど、6歳児からしたらかなり高く感じる。
「るくるくも、怖いのですか?」
「ま、まあね」
エムちゃんは足元を見ながら怖がっているが、満面の笑みで、一向にやめようとしない。
あれだな。エムちゃん、ジェットコースターとか好きなタイプだな。
……よく考えたらこの世界にはジェットコースターってないな。
ルハザの王都くらい発展してたらジェットコースターくらいあっても不思議じゃないし、エムちゃん喜びそうだから、作ってもいいかもね。これからは赤ちゃんたちを育てるから、ルハザ王都にもよく来ることになるだろうし。
スライム天国は予想以上に楽しかった。
国王様に無茶苦茶話しまくられて、ちょっと疲れた様子のブリーと神様が迎えに来たので、その場はお開きとなった。
ルーチェとの夢は明日だ。




