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「ここが世界の外……通称『外世界』と呼ばれるところだね」


 そこは不思議な場所だった。

 草原の上に、扉だけが点々と存在しているような場所。


 かと思えば、次の瞬間には、全く別の光景となる。

 深海の中、大小さまざまな魚が泳ぐ。

 魚たちはゆったりと漂うように泳いでいる。


 神様の言葉を思い出す。


『だって世界の外って文字通り、どの世界にも属してないから世界の外なんだよ……つまりどの世界の法則にも縛られていない場所なんだから』


 光景はころころと変わっていく。

 眩しい日差しの中、たくさんのシャボン玉が浮かんでいる。


「え? つまりどういうこと? 外世界って……」


「外世界には何もないんだよ」


 神様が答える。


「外世界には本当に何もない。空間や時間すらない。師匠の場合、スキル《完全体》【特】があるから何事もなくいられるけどね……本当なら、常に自己定義し続けないと存在が霧散しちゃうんだよ」


 ?

 分かるようで分からないような話だ。


「何もないってことは、別の見方をすればなんでもあるということになるんだよ。だから外世界ではなんだってできる」


 神様はそう言って、いつの間にか目の前にあった扉を開けた。


 俺と神様はその中に入る。

 するとどこかの世界の中へ入った感覚があった。


「ここは刑務所のためだけに作られた世界」


「作られた?」


「うん、世界警察が威信をかけて作り上げた世界だよ」


 そこは巨大な役所のような場所だった。


 神様は受付の天使とやり取りする。

 そして、これから天使レーレシアさんと面会できるようだ。


 数分後、レーレシアさんと面会する。

 薄いガラス板を挟んで、俺とレーレシアさんは向かい合って座る。神様は俺の横に立っている。


「ルクス様、申し訳ございません」


 冒頭、銀髪天使は頭を下げた。


「ルクス様が良い気分にはならないとは思いました。ですが、アルムティーシャ様のためには仕方なかったのです……それも、こうして悪行が白日の下にさらされ、無意味なものとなってしまいましたが」


 確かに良い気分にはならないな。


「てか悪行って? 白タイツの警察官は不正申告って言ってたけど」


「ええ。まあルクス様とは全く関係のないことです。ルクス様の転生の案件が舞い込む前に、給料の水増しをしようと企んだことがあって……それが今頃になってバレたということです」


 まあ、そんなことだろうとは思ったよ。

 自己中女神が女神らしくなさ過ぎて、なんかだいたい分かってしまうという。


「それと……あまり考えないようにしていたけど、レーレシアさんがこんなことした理由って、やっぱり?」


「お察しの通りです。特性《妹》をなんとかして満たそうとした結果です」


 やっぱりか。


「それで、中古品の生体装置を3つ買い、件の場所に設置しました。お金は全くありませんでしたから、本当に安い中古の生体装置です。それでも3つありますから、どれか一つは正しく動いて下さい、という希望で行いました……それで生き残っている妹さんはいましたか?」


 レーレシアさんは申し訳なさそうに聞く。


 ……うん、それは予想外だった。

 あの緑色の液体の入った装置は、中古品で、正しく動くかも心配なものなんだったんだね。いや考えてみれば当然か。あの装置が安いとは思えないし。


 レーレシアさんの質問に答える。


「いや、一応、3人とも生きてたけど……健康かどうかは分からない。《解析》を使っておけばよかった」


「そうですか! 全員死なずに生きていますか! それは良かったです」


「まあ、誰かが死んでいたら、怒ったかもしれないけど……全員無事だし、良かったのかな?」


「はい、とても良かったです」


「……それで、ここに来たのは聞きたいことがあったからなんだけど。育てる上での注意点があったりする?」


「えーと、まずルクス様の母と私の子供だって言うのは、分かっていますか?」


「うん」


「流石ですね。で、そうなると天使とヒューマンのハーフとなるわけですが、特性としてはかなりヒューマン寄りになります。種族としての格では、天使の方が上で……別種族の間に子ができる場合は、基本的に格が下の方に合わされるものですから。例えばゴブリンとヒューマンの間でしたら、その子供はほとんどゴブリンになります。いくらか頭が良くなる程度でしょう。

 とはいっても、天使とヒューマンの格は、ゴブリンとヒューマンほど離れてません。私みたいに天使の輪や翼が生えることはないと思いますし、性的な面も女性で固定になりますが、寿命はかなり延びるのではないでしょうか? あと魔法適正も通常のヒューマンではあり得ないレベルになると思います」


 ん?

 性的な面も女性で固定?


「よく考えたら、レーレシアさんって女性? でもお母さんとの子ができているよね……」


「はい。天使という種族にはオスやメスという概念は存在しません。その気になればたった一人から子供を作ることもできますが……弱い子供が生まれやすいので、子作りの際には複数人で作るのが一般的です。天使という種族にとって子作りとは、概念的なものですので」


 うん。

 ちょっと待ってね……


 えーと、子作りは複数人?


「もしかして3人で子作りするなんてことあるの? 血がつながった親が3人みたいな?」


「ええ、ありますよ。というかほとんど大抵、2人か3人で作りますね。天使の記録では過去に100人以上で一人の子供を作ったという例もあるらしいです」


 100人で子作りとは。

 もうわけわかんないよ。


「外世界で活動できる種族は、どの世界法則にも縛られないがゆえに、概念的な存在になるしかありません」


 うん、もういいよ。その話は。

 話を戻そう。


「それで、赤ちゃんたちを育てる上で注意することって? 寿命が延びることと、魔法の才能がすごいってことくらい?」


「えーと、そうですね。寿命が延びると言っても、成長速度は変わらないと思いますが、もしかしたら通常よりも早くなるかもしれません。これはちょっとよく分かりません。天使は1年で大人となりますが、それがどれくらい入ってくるのか……とりあえず、外見がヒューマンと同じで、性別は固定。寿命はどの程度かは分かりませんが延び、魔法適正はかなりすごいかな、と予想を立てることくらいしかできません。実際、天使とどこかの世界の人との間に子ができるっていう話はよく聞きますが、ルクス様の住む世界のヒューマンとの間にできた子というのは多分、ほとんど例がないと思いますし」


 そう言ってレーレシアさんはちらりと神様を見た。


「確かにそうだね」


 神様は首を縦に振る。


「自分で言うのもあれだけど、ボクの世界の人間は格が高い方だから、レーレシアさんの予想よりももっと天使の特性がでるかもよ?」


「え、じゃあ、もしかして頭上に輪っかとか、背中に翼が生えたりとか?」


「う~ん、流石に外見はヒューマンのままだと思うけど」


 神様もあんまりよく分からないらしい。

 まあ、それは成長してみてからのお楽しみってことかな?


「レーレシアさん、教えてくれてありがとう」


「いえいえ、私にできることはこれくらいしかなくて心苦しい限りです」


「そろそろ行くよ」


 知りたいことは知れたし。


「あ、ルクス様! 最後に一つだけ。もしお時間があれば、アルムティーシャ様とも面会していただければと思います。伝えておきたいことがあるらしいです」


 自己中女神が?


「ん~、まあ、分かった。じゃあね」


 俺たちは部屋を出て、受付に行く。

 なんか気になるし、女神と面会しようと思ったのだが……現在『地獄の更生プロジェクト~ドルオタVer~』を受けているらしく、面会できるのは俺たちの世界基準で一カ月後らしい。


 まあちょっと気になるから、と思って、予約しいつもの世界へと戻ったのだった。


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