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 その女の子は、とても活発そうな印象だ。

 小麦色の肌に、橙色のショートヘアで前髪の一部をゴムで縛っている。

 服装はワンピースなのだが、丈は短く、色は明るい。


「もしもし、本物ですかっ!?」


「ふむ、吾輩を疑うか……ならば見せてやろう! 吾輩の美を!!」


 ざばっ!

 ブリーは黒ローブを脱ぎ捨てる。


 現れたのは、ブリーフ一丁のボディ。


「これこれ、本物なのです!!!」


「これほど素晴らしい筋肉、ブリー様をおいて他におりますまい」


 女の子と手を繋いでいる恰幅の良い男は感心している。

 ひげが長く、喋るとひげも揺れる。


「ブリー様、息災でしょうか。Sランク冒険者には無事になられましたかな?」


「ああ、お陰でSランクになれた。礼を言うぞ」


「いえいえ、ブリー様のお力があれば、我が国の出来事がなくともSランクにはなれたでしょう。わたくしども、ブリー様のSランクのなるための功績に名を刻めたこと、心より嬉しく思っております」


 大きな男は「ふぉっふぉっふぉ」と笑い、続ける。


「そちらのお子さんは、ブリー様の子息様でしょうか? 子育てにはここ、ルハザの王都がおすすめですぞ」


「いや、違う。この方は、吾輩のある――」


 俺はとっさにブリーの口をふさぐ。


 ちょっと今、俺のことを主って言おうとしたよね?

 ブリーが英雄と言われている国でそんなこと言ったら、もうどうなっちゃうか。


 俺は小声で「ブリー、俺が主っていうのは隠す方向で……」と伝える。

 ブリーは小声で「……じゃあなんと偽るんだ?」と返すが、うまい設定が思いつかないのでスルー。


「ふぉっふぉっふぉ。やんちゃな子ですな。我が不肖の娘もやんちゃで困っております」


「ふんふん、別にやんちゃじゃないです!」


 やんちゃって……と思ったが、言われてみると確かに、俺はブリーの頭に飛びついたような格好になっちゃってるな。


「それでそちらのスタイリッシュな方も、ブリー様の親類ですかな?」


 恰幅の良い男は、尋ねた。


「違うよ! う~ん……ブリー君はただの友達かな?」


「そうでしたか、ご友人でしたか。それは失礼いたしました」


「いいよいいよ、気にしないで」


 神様が神様カミングアウトしなかったのはありがたいけど……

 なんか俺がブリーの子供なのは確定みたいな雰囲気になっちゃってる。


 はぁ、もうブリーの子供設定で妥協する?

 なんかブリーの子供って嫌だけど、仕方ないのかなぁ……


「しかし……ブリー様にご子息様がいることは存じ上げておりませんでした。

 やはり大切なご子息様を育てるのは、ここルハザの王都ですぞ。おすすめな理由は、二つ。

 まず、治安がいいこと。大切な子供を育てる上で絶対に外せない条件ですが、なかなかこんな単純なこともできていない街は多いですから。ここ王都は、地上と直接は繋がっておらず、地上に出るには他の地下都市を経由するしかありません。他の地下都市とつなぐ8カ所の門には厳重な警備が敷かれ、危険人物は入ることができません。また王都全体が魔法障壁によって守られていて、転移も不可能です」


 転移が不可能って……

 俺たちここに転移で来たような……まあ、神様だからなんでもありなのかな?


「先の悪魔襲来の時も、ここ王都への被害はゼロでしたし……まあ、そのせいでブリー様の功績を過小評価している王都民が多いのは皮肉なことです。他の都市にあるブリー様の像は、もっと大きく目立つようなところに置かれているのですが……」


 他の都市にも、これあんの?

 しかもこれより大きいの?


 目の前の像は等身大くらいの大きさだけど、なかなか存在感がある。やっぱりブリーフ一丁で刀を構えてるのはヤバいって! うん……王都が正解なような気がする。これ以上大きく目立つようになったら、ウザいと思うし。


「えーと、何の話をしていたんでしたっけ? そうそう、子育てにおすすめな理由でした。治安については話したので、もう一つの理由についてですね。それは教育レベルが非常に高いことです。

 まず、我が国の誇る王都には、世界中から優秀な研究者が集まります。やはり何と言っても、潤沢な予算が出るところが大きいのでしょう。どれだけ優秀な方であってもお金がなければ、才能は埋もれてしまいます。その点、ここにある大学は我が国が直接資金を出すことで、常に十分な設備が整っています。

 そして上がしっかりすれば、下も付いてくるもの。高等学校、普通学校、小学校も素晴らしいものだという自負があります。また、それぞれの学校の教員になるためには資格が必要で、すべての学校には質の高い教師しかおりません」


 へー。

 まあ、俺にはほとんど関係のない話だ。学園を出た後、高等学校に進学するのならここも候補に入るかもね……とはいえ、学園卒業したらもう15歳でしょ? その年になったら、日本に戻ってもいいかもしれない。


 でもちょっと、ひげ男の言い方が引っかかるな。

 “我が国”って……なんか偉そう。


「偉い人なの?」


 聞いてみる。


 その恰幅の良い男は、「ふぉっふぉっふぉ」とひげを揺らして、


「我は、この国の王ですぞ」


 と答えた。


 王様だったのか……

 あれ?

 じゃあ、その横にいる女の子は?

 もしかしてお姫様?


「しかし、いやぁ、我ひとりだけ話過ぎてしまいましたな……ただブリー様がここにお住まいになれば、ルハザとしてこれほど素晴らしいことはございません。ぜひ検討していただく」


「あの、じゃあ、その子は?」


 会話の流れがおかしいがごり押しで聞く。

 てか、国王様がしゃべりすぎなんだって! 校長先生かよ。


「えとえと、私ですかっ?」


 さっきから会話に全く参加する気がなさそうに、あくびをしたり、きょろきょろと周りを見たりしていたその子は、少し驚いたように、自分を指さした。


「うん」


「えむえむ、6歳です!」


「えむえむ?」


「エムと呼んで! あなたは何というのです?」


「俺はルクス、6歳。よろしく、エムちゃん」


「るくるく、私と同い年なのです!」


 エムちゃんは俺に近づいて、手を出す。

 握手ってことかな?


 俺も手を出すと、案の定、がばっと取られ、握手になる。


「もうもう、これは友達ですね!」


「う、うん」


 そしてエムちゃんは俺の手を握りしめたまま、歩き出した。


「エムンテ、どこに行くんだ?」


「ぱぱぱぱ、私、友達とおうちで遊ぶのです!」


 エムンテ?

 それに、ぱぱぱぱって……とりあえず、パパってことでOK?

 やっぱりエムちゃんはお姫様なんだね。


「皆さん、もしよろしければ我が王宮に招待いたしますぞ」


 国王はそう、ブリーに言う。

 ブリーはこちらに目線を送るので、俺は頷いた。


「ふむ、では吾輩も行こうか」


「ボクも行くよ!」


 そして俺たちは、空中に浮かぶ道を歩く。


「エムちゃん、エムンテって……」


 そう聞いてみると、エムちゃんは不機嫌そうに顔をゆがめた。


「うわうわ、実は私の名前です……変です……」


 どうやらエムちゃんは自分の名前が好きじゃないらしい。

 エムンテっていう名前が変かどうかはよく分からないけど……もちろん日本人でそんな名前だったら変だと思うけど、ここは異世界だし、それも火山国家ルハザでの名前だ。俺が分かるはずもない。


「じゃあ、エムちゃんって呼ぶよ!」


「るくるく、そうしてください!」


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