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15


 この世界の神様と出会ってから一週間が過ぎた。

 俺のモブライフは特に変わることなく、ゆったりまったり過ぎていく。


 最近のピアノは、いつもの練習だけじゃなくて、作曲もしている。

 エルフ先生曰く、『作る側からの視点を持つことで、楽曲に対する理解が深まる』ということらしい。


「ルーチェさん、いい曲ですね。どこか安心感があります」


 ルーチェがこの一週間で作った曲を披露すると、エルフ先生は満足げに褒めた。


「えへへ、夢の中でね、にぃにとドラゴンに乗って空を飛んだんだよ! そのイメージで作ったの!」


「最近、ルーチェさんがよく話していた夢のことですか」


「うん!」


 ルーチェは、俺との夢が本当に楽しかったようで、いろんな人に話していた。

 夢にしては鮮明に覚えすぎじゃない? というツッコミはなぜか出ず、お母さんは『やっぱり子供は記憶力が良いのねぇ~、ママなんか夢の内容なんてほとんど覚えていないわ』って言い、エルフ先生も『ルーチェさんの記憶力は凄まじいですね』と全く疑う様子もなかった。




 俺の方は、と言うと、前々世の自分がイメージだ。


 前々世の自分……神様の話をまとめると、自分視点はこんな感じになるのかな?


 まず中二病な俺は、一目惚れをする。

 いきなり結婚を申し込むがなぜかオッケー。

 しかし幸せだったのは、自分が中二病だったころまで。中二病を卒業すると、中二病になってしまった嫁だけが残った。彼女のことは好きだが、痛い中二病なのだ。

 中二病を卒業したかったが、普通の口調にすると彼女が悲しむので、心は卒業しているのに中二病を使い続ける。

 彼女は自分自身のことを神だと告白し、不老不死にしてやる! って言いだすが――


 あれ?

 前々世の俺って、その嫁が本物の神様だってこと知ってたのかな?

 ただの中二病発言だと思った可能性がある気がする……


 あとあまり考えたくはないが、前々世の性別って女かもしれないよな?

 神様の外見は少年にも少女にも見える……まあ外見は12歳ぐらいだから、結婚なんてしたら、日本だったら犯罪だけど。ショタかロリコンか……前々世の俺ってヤバない?


 いろいろ気になる部分もあるし、そもそも前々世の自分のすべてを表現するなんて土台無理な話なので、『嫁を中二病にしてしまった、元中二病の男』っていうところをイメージして作曲した。


 うまい音を見つけるのに苦労したけど、でもホント自分でもよくこの音を見つけられたな、と思う。

 感慨に浸りながら、流れるようにピアノを弾いた。


「すごい……今までに聞いたことのないような独特な雰囲気の曲ですね」


「にぃに! カッコイイのに、不思議かも」


 俺の作った曲は結構評判が良かった。




 ピアノの後はプールに入ろう! ってことになり、

 エルフ先生が土魔法と水魔法を使って、かなり広めのプールを作ってくれた。


 今日は暑い夏の日。絶好のプール日和だ。


「にぃに! えい!」


 ルーチェが小さな手を目一杯に使って、水をかけてくる。


「やったなあ」


 俺はルーチェに水をかけ返す。スキル《器用》【特】が発動したらしく、ルーチェのかけた量とは比べ物にならないほど、多い水がルーチェにかかった。


「きゃはは!」


 大丈夫か!? と焦ったが、楽しそうに笑うルーチェを見てほっとする。

 ルーチェは自慢の白髪を濡らしながら、とても楽しそうにさらに水をかけ返してきた。


 ざばーん!


 ものすごい音がしたと思って見てみると、マッチョが、肉体美を見せつけるポーズをとっていた。このマッチョ、我が家ではお馴染みのガロン兄の槍の先生である。


 プールに入っているのは俺たちだけではない。

 エルフ先生は、浅い部分と深い部分と超浅い部分を作ってくれて、俺たち双子がいるのは浅い部分だ。


 深いところでは、マッチョとガロン兄が“肺活量を鍛えるトレーニング”と称して、水の中に一分くらい潜ったりしていた。なぜかその中にサキュバスの少女が見えた気がしたが、気のせいかな?


 超浅いところでは、エルフ先生とお母さんと弟のカシオがいる。

 弟のカシオはもうすぐ2歳だ。この前はまだお腹の中にいたはずなのに、いつの間に大きくなったんだ? 親戚のおばちゃん状態である。


 ぴちゃ。


 む。よそ見をしてたら、ルーチェに水をかけられた。


「えい!」


 さらにかけてくるルーチェ。俺はかけ返す。


「「きゃははは」」


 そして笑い合う。

 うん、ルーチェとの水の掛け合いは楽しいね。ルーチェはいい笑顔だ。


「えい! えい! えい!」


 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ。


「どりゃっ」


 ビチャッ!


 きゃははは。


「にぃに、量多い! 仕返しするの!」


 ぴちゃ。


正鵠(せいこく)(とき)、我が意匠はここにあり」


 !?


 この口調、この声色……まさか!!


 ぎぎぎ。

 最悪の想像を脳裏に巡らせながら、ぎこちない動きで後ろを振り返ると、案の定だった。


 水の上に立ち、謎のポーズを決める少年(少女)。

 左手に包帯、右目に眼帯を付け、マントを棚引かせていた。


「な、なんでいるんですか!?」


「ボクはこの世界の神だからね。この世界の中なら自由自在なんだ」


 いや、そういうことを言ってるんじゃなくて……


「にぃに、どうしたの?」


 あーあ。

 ルーチェにもバレちゃったでしょ。どうすんだこれ。

 夢でごり押しできるか? しかしここから俺たち二人がいなくなったら、みんな大慌てだ。しかし時は一刻を争う。今はルーチェしか気付いてないようだし、やるしかないか?


「にぃに何かいるの?」


 はっとなってルーチェへ振り返ると、まっすぐ俺を見ている深青の瞳があった。

 それは明らかに神様の方ではない。


「もしかして気付いてない?」


「ちゃんと師匠以外には姿が見えないようにしたんだ。だって、わざわざ力を隠してるっていうことは、それが高次元の因果律に干渉するためとしか考えられないし」


 おお。

 理由は無茶苦茶だけど、どこぞの自己中女神&天使とは大違いだ。

 理由は無茶苦茶だけど……


「気付いてない? どゆ意味なの、にぃに」


「あー、あれだ。ちょうちょがいた気がしたんだけど、気のせいだったみたい」


 うん、我ながら良い言い訳だ。


「ちょうちょ!? いたの!?」


「いや、気のせいだったよ……」


 それでもルーチェはきょろきょろと蝶を探す。

 いや、ホント苦し紛れに言っただけだから――


「いた! にぃに! ちょうちょ、いたよ!」


 ええ……

 その蝶はさっきまではいなかったはずなんだけど、見計らったようにこっちに飛んで来ていた。


「どんな時もエンターテインメント性を欠かさないのが、高次元の戦士(ハイ・イグジスト)としての嗜みさ。師匠の妹さまのために蝶を呼び寄せたんだ」


 そう言った神様はまた謎のポーズを取る。

 初めて神様がちょっと格好良く見えたよ……


 ざぶざぶとプールの中を歩き、蝶を追うルーチェ。


 うん、ルーチェはちょうちょが好きだからね。ルーチェに嘘を付いたみたいにならなくてよかったよ。


 俺は神様にしか声が聞こえないように防音魔法を使った後、


「あ、そういえば神様に聞きたいことがあったんだ」


「師匠の質問なら何でも答えるよ!」


「えーと、前々世の俺って、男だった? ……まさか女だったり?」


 とても気になっていたことを聞く。

 うん、別にどうでもいいことなんだけど、気になるからね。


「男だよ!」


「ロリコン確定かぁ――あっ!」


 ルーチェ! そっちはダメだって!


 そう思ったが、すでに時は遅し。


「あっ!」


 ルーチェが水の中に落ちる。プールの深い部分に入ってしまったのだ。

 早く助けないと!

 本当は転移して一瞬で助けたいが、みんながいるところで能力を使うわけにはいかない。どうしよう……能力を使わないのは時間がかかりすぎるし、スキル《水泳》【特】をばれないように使うか?


 逡巡している間に、


 さぶーん!


 ルーチェはお姫様抱っこされて、持ち上げられる。


「ぷはっ!」


「大丈夫?」


 リリスが助けてくれたみたいだ。

 ルーチェはお姫様抱っこされたまま、危なげなくプールの外へ運ばれたのだった。そういえば、リリスって実は近接タイプなんだよね。


「ボクが手を貸すまでもなかった。師匠の妹さまは愛されてるみたいだね」


 神様は言う。


「そうだな……ホントに……とても良いことだ」


 みんなから愛されながら成長することで、優しい良い子になると思う。


 三つ子の魂百まで、というが、性格は一度決まればもう変わらない。だからこそ、ルーチェにはひねくれない純真な心を芯に持ってほしい。

 いくらチート能力を貰っても、根本的な性格は変わらないのだ。


 こんな子供の時期の出来事なんて大きくなったらほとんど忘れているだろう。

 だからといってこの時期はどうでもいいかと問われれば、全くそんなことはないと答える。むしろ性格が決定される上で、非常に重要だと思う。


 プールの外で話すルーチェとリリスをぼんやり眺めながら、そんなことを思うのだった。


「……師匠、さっきの話の続きだけど」


 神様が見計らったように、口を開いた。


「師匠がロリコンなんて、そんなことないから。ボク、この体は人間基準で言うと大体12歳くらいだけど、師匠と結婚したのは師匠が15の時だし。それ以降は人間らしく、ちゃんと肉体年齢を進めたから!」


 なるほど、ずっと3歳差か。それならロリコンとは言えないか。

 しかし――


「――じゃあ、自分が神だと告白したのは?」


「師匠が25の時だよ……師匠がはやり病で倒れて。ボク、初めて自分が神様だって、人間に告白したんだ! なのに師匠は逝ってしまったんだ」


 察した。


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