14
現れたのは、12歳くらいの中性的な少年(もしくは少女?)だった。
左手に包帯が乱雑に巻かれていて、右目に眼帯が付いている。
マントを棚引かせ、謎のポーズを決めている。
「その魂の色は、我が半身にして師匠に相違ない。
さあ! 今宵は宴と行こうじゃないか!」
は、はぁ……
何を言っているのかよく分からないが、レーレシアさんを吹き飛ばしたのはこいつのはずだ。
チラリと確認すると、レーレシアさんは倒れていて、意識がないようだ。
一撃でレーレシアさんを戦闘不能にするなんて、こいつ、とんでもないな。
てかこいつ何者だ?
ダンジョンのモンスターとして、人間がいることってあるのか?
もしそうだとしても、ボス戦直後の次の階層に進む道にこんな強敵を配置するなんて、意地悪すぎる。
「さあ! 再会の宴だ!」
直後、豪勢な料理が現れた。
それはとてもおいしそうで……歓迎されてるっぽい?
でもレーレシアさんを吹き飛ばしたのは、こいつなわけだし……
「あの……あなたは一体?」
聞いてみた。
「それは難しい質問だな。まあ、まずは座ってくれ、師匠」
師匠?
よく分からないが、とりあえず言われたとおりに座ってみた。
椅子は俺用のお子様サイズの椅子で、シートの位置がテーブルに近い。この体にはぴったりの大きさだ。
「乾杯」
その少年(もしくは少女?)も座り、グラスを掲げてそう言った。
俺もつられて、同じようにグラスを掲げて「乾杯」と言う。
「一般的に、ボクが誰かと問われれば、この世界の神ってことになるけど――」
神様だったのか……
それなら納得だ。こんなところにいきなり現れたのも、レーレシアさんを一撃で倒したのも。
「――師匠にとってボクは半身であり、同時にボクにとって師匠は半身でもあるんだ。師匠とボクは魂に定められし盟友だからね」
「は、はぁ……師匠って俺のことでいいの?」
「そうだよ、師匠。師匠と僕が魂に定められし盟友だって教えてくれたのも、師匠だし。この服装もかつて師匠がコーディネートしてくれたものなんだ」
神様は席を立ってクルリと一回転した。
黒髪に端正な顔立ちなので、様にはなっているが……
……うん、ザ・中二病って感じの服装だね……前々世の俺は何を考えていたのだろうか?
「えっと、ソウルメイトって何? てかなんで前々世の俺は、神様も知らないようなことを知ってたんだ? 前々世の俺って人間だよね?」
聞きたいことが多すぎる。
神様にこんなに不躾に聞くのは……って思いつつ、でもせっかくの聞けるチャンスだし、聞いておこう。
「師匠は人間だ。結局、普通の人間と同じように過ごして終わった人間だった。表面上は本当にしがない農民だったけど、その裏ではもっと高次元な戦いを繰り広げていたんだ。特に平行世界との調和が乱れて全世界に暗黒界の入り口が大量発生するという未曽有の危機を未然に防いだのは、師匠の功績の一つだ。
ボクと師匠の出会いは、師匠が14歳の時だった。当時のボクはとっても低次元な存在で、人間の街で暮らす遊びをしてたんだ。そんなとき『初めまして、魂に定められし盟友よ。結婚してください!』って言われたんだ。
ボクも分からないけど、師匠はその時にはもう、遥か高みにいたようだ」
……。
「……それで、あなたは何と答えたんですか?」
「オッケーしたんだ。ちょっとでも面白そうだと思ったら、即行動してたから。当時のボクは」
ええ……
もう、わけわかんないよ。
「師匠はすごいんだ。空に浮かぶ雲の配置や、虫の鳴き声から見えざるものを感じて、『……終焉の時は近い、か』なんて呟いたりするんだ。ボクはそんな師匠の下で生活して、高次元の存在に至ったんだ。
最初の頃は師匠の同志たちと高次元な戦いに身を投じていたんだ。なぜか偏狭な農村に高次元の戦士たちが集まっていて……でも彼らは『もうそろそろ妄想ごっこはやめて現実を見ようぜ』って言って低次元な世界へ行ってしまったんだ。その頃から師匠も疲れた顔を見せることが多くなって……結局『魂の浄化のためには、一度死なねばならぬ。しかし我らは魂に定められし盟友、再び相まみえる定めにある』って言って死んじゃったんだ。ボクは神だから、ボクの力を使えば不老不死にもなれる! って告白しても意味はなかった……」
お、おぅ……
何と言えばいいのやら……
もしかして中二病だったりする?
いやでもこれを聞くのは憚られる……
「師匠、そんな居心地悪そうにしなくてもいいよ。師匠が憶えていないは当然のことなんだから! それにボクたちの魂は深いところで繋がっているんだから、記憶なんて低次元な話はどうだっていいんだ。聞きたいことがあれば僕が答えるしね!」
ん、このプリンうまいな。
え? 聞きたいことはないか、だって?
んー、なんかいろいろ聞きたいことがあった気がするけど……あ、そうだ。
「レーレシアさんを――そこにいる銀髪の天使を吹き飛ばしたのはなんで?」
「あー、それは、アレが許可なくボクの世界に侵入してきたからだよ。まあ師匠を連れてきてくれたっていう一点を持って、生かしておいてあげてるけど……」
「え、不法侵入なんだ……」
「だって天使って原則下界に降りちゃダメだし……アレが目を覚ましたら、説教した後、ボクの世界から追い出すよ」
右目の眼帯を抑えながらクククと嗤う神様。その姿には、何にも怖いところがない。
そいやぁ、武神だとか言ってたけど、全然威圧感がないし、怖くもない。良かった良かった。
「じゃ、そろそろ帰るよ」
用事は済んだ。早くルーチェの隣で寝たい……
「え!? 師匠、もう帰っちゃうんだ!? なんで!?」
「良い子は寝る時間だよ」
「なるほど! それが現況の因果律においては重要であると……」
「まあ、そんなところだ」
適当に同意しておく。
「じゃ、さいなら~」
俺はベッドに転移した。