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 その日の夜、約束通りこの街の遥か上空へやって来ると、銀髪天使がぽつりと佇んでいた。

 きらめく夜空の下、天使の輪っかが場違いに輝いていた。


「お待ちしておりました、ルクス様。さて、行きましょうか」


「どこに?」


「世界の中心にあるダンジョンです。そこを攻略すれば、きっとこの世界の神様に会えるはずです」


 付き合うって神様に会いに行くってことか。

 今夜付き合ってなんていうから、何だろうと思ってたけど、予想通りだったな。うん。マジで予想通りだったなー。


「その神様は武人ですから、そのダンジョンを攻略すれば、ほっては置かないでしょう」


 なるほど。

 神様に会いに行くために、ダンジョンを攻略すると。


 ダンジョンとは世界中に存在する不思議な迷宮だ。モンスターがうじゃうじゃといる場所だが、宝箱にはたまにとても貴重なものが入っていて、一攫千金を狙う者は多い。

 なぜダンジョンが存在するのか? ということについては本によってさまざまな説があるが、“神が与えた人類への試練”という説が一般的だ。そのためダンジョン攻略を専門とする冒険者は特に“挑戦者”と呼ばれている。

 そしてその挑戦者たちの夢は世界の中心にあるダンジョン“世界迷宮”を攻略することである。世界迷宮を攻略した者は未だかつておらず、階層攻略記録は21階層までだ。ダンジョンの階層数は攻略して初めて分かり、その数はダンジョンによってまちまちだ。易しいダンジョンの方が階層数が少ないとは言われるが、とても危険なダンジョンなのに階層数が3しかないものや、ダンジョン初心者レベルでも攻略できるのに階層数が50もあるようなものもある。

 もちろん世界迷宮は攻略されていないので、攻略となると未知数だ。俺のチート能力を使えば人類の最高記録の21階層までは行けると思うけど……


 ちなみに世界の地図はこんな感じ。


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~~~~~~~~~陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸~~~~~~~~~~

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~~~~~~~~~陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸~~~~~~~~~~

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~~陸陸陸陸~~~~~~~~~~~~~~~~~~陸陸陸陸~~

~~陸陸陸陸~~~~~~~陸陸陸~~~~~~~~陸陸陸陸~~

~~陸陸陸陸~~~~~~~陸〇陸~~~~~~~~陸陸陸陸~~

~~陸陸陸陸~~~~~~~陸陸陸~~~~~~~~陸陸陸陸~~

~~陸陸陸陸~~~~~~~~~~~~~~~~~~陸陸陸陸~~

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~~陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸~~~~~~~~陸陸陸陸~~~~~

~~陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸~~~~~

~~陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸~~~~~

~~陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸陸~~~~~~~~陸陸陸陸~~~~~

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 世界には5つの大陸があって、中央にある小さな大陸を、4っつの大きな大陸が囲んでる。南の大陸が一番大きいのは確かだけど、この図が正確かどうかは分からない。江戸時代レベルの世界なので、伊能忠敬がいなかったら正しい地図がないのも仕方ないところだ。

 ダンジョンは中央の大陸に集中的に存在して、それ以降は距離が離れれば離れるほど、ダンジョンの数は少なくなる。

 海の中にもダンジョンはあるらしいが、ほとんど攻略された例はないみたい。


「じゃあ転移をお願いしてもいいですか?」


 移動方法は俺の転移なんだね。まあ普通に移動したら、それだけで朝になっちゃうから当然だけど。


「ちょっと待って、今から千里眼飛ばすから」


 転移は一度行ったことのある場所にしか行けない。ただし一度見たことがある場所や千里眼で見たところがある場所なんかも、行ったことがあるという扱いになる。

 世界迷宮の方角は分かるので、その方向に千里眼を飛ばして探す。

 ん~、暗くて全然見えない……


「あのー、もしかして行ったことがないんですか?」


「うん、ないね。ずっとモブとして生きてたから」


「……まさか、千里眼を飛ばして見て回ることすらしてないなんて。本当にルクス様は変わってますね……あ、別に悪い意味で言ったわけではなくて、ただ純粋に驚いたと言いますか」


 そうやって言うレーレシアさんの表情からは気遣いが見て取れる。どこぞの自己中女神とはえらい違いだ。


「んー、確かに、ちょっとこの世界のことを知らなさすぎかも。領主館の図書室の本を全部読んだだけだし……でもなんだかんだ毎日暇してないんだよね」


「そうなんですか。ルクス様はこの世界に興味がないわけではないんですね」


「うん、興味はあるけど……千里眼を飛ばして世界各地を見るのって楽しい? ルーチェと一緒なら楽しいかもしれないけど」


 勉強と同じだ。

 英語や歴史、数学や生物。興味がないわけじゃなかったけど、じゃあ実際に勉強をするかと問われれば答えはNOだ。だって面倒だし。前世もルーチェと一緒だったら、楽しく勉強できたかもしれないけどね……


「なるほど、そういうものですか」


 ん? あれか?

 レーレシアさんと話しながら世界迷宮を探していたが、見つけたっぽい。月明りを頼りに目を凝らしながら探してたけど、よくよく考えると千里眼で目を凝らすってヤバい奴だな……


 この目なら特性《視覚強化》【特】のおかげで魔力とか赤外線とか見えるんだけど、《千里眼》は別口らしい。

 夜になると使いにくいね。千里眼の意外な弱点だ。

 でもまだ晴れてて良かった。曇りとか雨とかだったら全く何も見えなかったはずだ。


「転移するけど、準備は良い?」


「お願いします」


 転移をすると、目の前に天に伸びる棒のような塔が見えた。世界迷宮である。


 中に転移できるかな?

 と思って千里眼を飛ばしてみるが、案の定はじかれた。ちゃんと攻略するしかないか。


 地上に降りて、塔の入り口の前に立つ。

 扉はなく、中を覗くと真っ直ぐな廊下が見えた。薄暗いが真っ暗と言うわけではないようだ。


「行きましょうか」


 レーレシアさんとともに世界最難関と言われるダンジョン世界迷宮へと足を踏み入れたのだった。



 *



 ダンジョンは不思議な空間だ。

 モンスターは死ぬと、消えてなくなってしまう。質量保存則はどこへ行った!? と突っ込みたくなる。ダンジョンの外にいる魔物は、死んでも死体が残るんだけどね。


 世界迷宮は流石、世界最難関というだけあってか、すぐにスキル《気配操作》【特】とスキル《隠形》【特】が通用しなくなった。

 10階層くらいまではモンスターたちに気付かれずに移動できたけど、まずレーレシアさんが気付かれるようになり、15階層になると俺にも気付かれるようになった。ちなみに、この二つのスキルは他人に使うと効果が半減する。


 俺は《格闘術》、レーレシアさんは弓で戦う。


 レーレシアさんは弓使いであり、やっぱり天使は恋のキューピット的な感じなのかなって初め思ったけど、実際は全然恋のキューピットって感じじゃなかった。弓の威力はホントに高くて、一撃でモンスターたちを屠っていくのだ。


 俺だって負けてない。見た目とのギャップは俺の方がひどいと思う。だって傍から見たら、5歳児がモンスターを次々に殴りつけているわけだし……

 スキル《格闘術》【特】、スキル《身体強化》【特】、スキル《魔纏》【特】を重ね掛けする。

 《身体強化》と《魔纏》は使用魔力量に応じて効果が変わるので、特性《魔力》【神】にぴったりのスキルである。 


 特性《魔力》【神】

 魔力の保有量、回復力、操作能力がすべて神レベルになる


 スキル《身体強化》【特】

 魔力を消費して、身体能力を向上させる


 スキル《魔纏》【特】

 魔力を纏った部位を強化する


 《身体強化》と《魔纏》の違いは分かりにくいが、《身体強化》は体全体の強化であるのに対して、《魔纏》は体の一部分だけである。例えばこぶしにだけ魔力を纏わせたり。俺の場合は魔法が使えるので属性魔力の付加も可能だ。《火魔法》の派生スキルに《炎纏》というのを使う。てかこれがあれば《魔纏》は必要ないんだけど……そう考えると《魔纏》の存在価値なくね? ってなる。せっかく《魔纏》を持ってるのにそれじゃあもったいない! ということで《炎纏》も《魔纏》も使う技を考えてみた。それが――


「ミラクルパーンチ!」


 俺の必殺技を受けて、モンスターは全部吹っ飛び、消え失せた。


「ルクス様、その技の威力は本当に凄まじいですね……」


 レーレシアさんも褒めてくれた。

 まあ、俺のチート能力をふんだんに使った独自の技だしね。


 ミラクルパンチは、こぶしに6つの属性魔力を纏いパンチを叩き込む技だ。

 文字にするとたったこれだけの技だけど、実はかなりの技量が必要だ。


 まず火・水・風・土・光・闇の魔法が使えなければならない。

 そしてこれらをひとつのこぶしに込めるのに必要なのが、ベースとなる《魔纏》と潤滑油となる《賢者》だ。

 以上8個の【特】スキルに加え、特性《魔力》【神】が重要なのは言うまでもない。パンチには、スキル《格闘術》【特】とスキル《身体強化》【特】も使っている。


 こんなミラクルパンチが弱いはずがなかった。

 まさに必殺。ボスが相手でも、これを使えば一撃だ。まあ現状は、使用魔力はMAXじゃなくて、かなーり抑えてるんだけど、それでも一撃で倒せてしまっている。


「ここが22階層のボス部屋ですね……攻略できれば、ルクス様は新たな伝説となられるわけですか」


 レーレシアさんはボス部屋の大きな扉を見上げながら言った。


「いや、ならないから。冒険者ギルドに報告するつもりないし、そもそもこんな5歳児が言って誰が真に受けるんだ」


「じゃあわたくしが一緒について行きましょうか」


「レーレシアさんはコスプレ少女扱いかな。もちろんそんな人の言葉を真に受ける人はいない」


「……。コスプレ少女ですか」


「だって天使なんておとぎ話の存在だし」


「……」


 レーレシアさんは何か言いたそうにしていたが無視して、ボス部屋を開ける。

 中に入ると、扉は勝手に閉まり、5メートルはありそうな巨大なミノタウロスがそこにいた。

 右手には巨大な斧を持っている。


 《危機察知》は働かない。まだまだ楽勝か。


 俺は即座に瞬間移動からのミラクルパンチを、ミノタウロスの側頭部に叩き込んだ。

 ダンジョン内でも短距離転移なら使用可能であり、やっぱり瞬間移動系能力は強すぎると思う。簡単に致命傷を負わせられる。


「ギャアアアアアア!!!」


 ミラクルパンチを喰らったミノタウロスは立ち上がり、咆哮した。

 マジかよ。ミラクルパンチを喰らってもまだ生きているとは……


 俺は再び瞬間移動をし、至近距離からミラクルパンを放った。

 ミノタウロスは宙を舞い、突然停止したかと思うと、ガラスのように割れて、消えた。


 ふぅ……次はもっと魔力を込めようかな?


「ルクス様、まだまだ余裕がありそうですね」


「うん。だけどだんだん確実に強くなっていってる……これホントに攻略できる? 正直1000階層くらいあったら無理だと思う」


「そうですね、余裕がなくなってきたらやめましょう。こんなことに命を懸けるのは馬鹿らしいですし」


 さらっとダンジョン攻略に命を懸けてる人をディスったね……

 まあ、俺もレーレシアさんと同じ意見だけど。


「さて22階層へ行きましょうか」


 新たに出現した22階層へ続く道へ、レーレシアさんは歩く。

 早くルーチェと一緒に寝たいな~って思いつつ、俺もその後を追う。


 ドガッ という音がした。


 その直後、弾丸のような速度で、何かが道の先から現れた。それは俺の横を通り、大部屋を横切り、入り口の扉に打ち付けられた。

 それは銀髪の天使だった……


 俺は即座に理解した。

 レーレシアさんが何者かに吹き飛ばされたということを。


 扉に叩きつけられたレーレシアさんは、そのまま重力に従い、力なく地面に落ちた。


 22階層へ続く道から、その犯人は現れた。


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