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 ルーチェとの夢から戻り、自分の部屋に転移すると、なぜかまだ天使と女神がいた。


「……あれ? なんでまだいるんだ?」


『そりゃいるでしょ。まだお話は終わってないんだし』


 俺の中では終わってるんだけどな。

 女神がどんだけわめこうとも、妹を作る気はない。


『てか、夢って何? どういうこと?』


「よく分かりませんが、わたくしの予想では前世の記憶があることを隠しているのでは?」


『あー、確かに。そういう転生者は結構いるらしいね』


「ええ、ええ」


『でも君の場合は別じゃない? そんだけの力があれば、この世界のすべての奴らが敵に回っても何の問題もないし。そもそもそれだけの力を持っていながら、いまさら前世の記憶があるなんて言っても焼け石に水という感じだよね?』


 焼け石に水って……俺の存在が悪みたいな言い方だな。

 そもそもこの世界中の奴を一人で倒せるだけの力があったとしても、じゃあ世界を終わらす魔王になるかと言われればNOだし、自分や家族の身に危険が差し迫った時に露払いができればそれでいい。


「確かに前世の記憶があることは隠してるけど――ちょっとその前にこの場所で話すのはやめよう。またルーチェを起こしちゃったらまずいし、誰かに見られるか分からないし」


「どこに行きますか?」


 天使が尋ねた。


「転移します」


「分かりました」


 そうして転移した場所はこの街の遥か上空。

 さっきも上空にはいたけど、今はそれよりもさらに上空で、下から絶対に見えないほど高い位置だ。


『うへー、すごい場所に転移したねー。別にどこだっていいけど』


「わたくしにとっては、むしろ天に近い位置の方が居心地がいいですね」


 銀髪天使の頭上にあるリングは、心なしかさっきよりも輝きが強くなったように思える。


『で、夢ってどういうことなの? 前世の記憶を誤魔化すために、記憶の消去でもした?』


「そんな体に悪そうなこと絶対にしないって! 実は俺、こんな力を持ってることも隠してて……それでいろいろ普通じゃできないことして夢と誤魔化したんだ」


『えー! 力を隠してるの? じゃあ、力を使うのは夜の間だけってこと? あ、そっか! 転移能力があるから別に問題ないのか! 私、君の規格外さに気付いてなかったよ』


「いや、夜の間もあんまり能力は使わないけど……」


 ピアノの練習のための防音と、その分の睡眠を埋め合わせる《不眠》のスキルだけだ。


『ええええええ?? じゃあ何? 胸の躍る冒険譚とかは何もないわけ? 魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりはしないの?』


「してないね」


『マジか』


「わたくしも驚きました。神に匹敵するほどの力を持ちながら、その力を全く使っていないだなんて……」


 見ると、二人とも本当に唖然という風に、口をぽかんと開けて茫然とこちらを見ている。


『じゃ、じゃあ、もしかして、この世界の神とまだ会ってない、なんてことないよね……?』


「え? 会ったことないけど」


 むしろどうやったら、会えるんだ。


「まずいですよ! 転生してからもう5年以上経つのにまだ神様に挨拶してないだなんて、アルムティーシャ様の悪い噂がまた増えてしまいます!」


『い、いや~、まさかこんなに力を使わずに生きるなんて思ってなかったしさ。これじゃあここの神は君が転生してるって気付いてないんだろうね…』


 は、はぁ……


「神様に挨拶をしないといけないの?」


「そうです。ルクス様は招待状を受け取られましたから、なるべく早く招待主、つまり神様ですね。その神様に挨拶に行かないといけません。正確には、行く習わしがあるっていうべきですか」


『不文律だからね。私の財布にはダメージないし。君も行かなくったって、別にちょっとここの神からの心証が悪くなるだけだから。そもそも君ならここの神に勝っちゃうんじゃない?』


「どうでしょうか。ここの神様はかなりの武人として知られていますから、ルクス様でも厳しいかもしれません」


 は、はぁ……

 武人の神様ねぇ……怖そう。行きたくない。


『あれ? でも、ということは君は自分の前々世を知らないの?』


「そうだね」


 確か、前々世はこの世界で偉人をやってたんだっけ? そんな設定があった気がする。


『はぁ……妹を作ってもらうために何か餌で釣ろうと思ったけど、君の様子と見てると無理っぽいねー。はぁ、もういっか。レーレシア、最終手段を使ってもいいから』


「分かりました」


 え? 最終手段?


「最終手段って?」


『君には関係ないことだよ。妹の件はこっちでなんとかするから』


 関係ないといわれると余計に気になる。

 まあでも妹の件で何度もぐだぐだ言われるよりかは百倍マシだから……これで俺が気になって何度も聞いたらそれこそ立場が逆転だしね。


 女神の姿が消えた。

 銀髪の天使は女神が映っていた黒い板をどこかに仕舞い、ぺこりとお辞儀をした。空中でお辞儀ってちょっと違和感があるな……でも綺麗なお辞儀だった。


「ルクス様も今日は付き合っていただきありがとうございました。あと今夜もお付き合いください。この地点で待ってます」


 え? 今夜?



 *



「にぃに! 今日見た夢、ホントにすごかったんだよ!」


 今日のルーチェは朝からこんな調子だ。

 夢のせいで少しルーチェの睡眠時間が削れてしまったけど、特に問題なさそうに元気いっぱいだ。


「ドラゴンが炎を吐いて怖かったんだけどね、にぃにが守ってくれたんだよ!」


「へー」


「でね! その後はドラゴンさんと仲直りして、ドラゴンさんの上に乗って空を飛んだの! ホントに下の森が大きくて……ちょっと怖かったけど、にぃにに抱き着いたら怖くなくなったよ!」


 ルーチェが楽しそうに報告してくれるので、こっちまで嬉しくなる。

 夢と称してまたルーチェとの旅に行こうかな? うん。少しぐらいならバレないよね。


「あとね、おねえちゃんの様子も見に行ったんだよ! 夢だからどんなこともできるの!」


「へー、メルカ姉の様子はどうだった?」


「ん~、おねえちゃん! って感じのままだったよ!」


「そっか~」


 ルーチェの頭をなでなでする。


「えへへ~、あと板の中に人が入っている不思議な夢も見たの! しかもそれが女神なんだって、面白いでしょ!」


 ルーチェの中ではあの二人は完全に夢の扱いになっているようだ。良かった良かった。

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