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海辺の危険生物

よろしくおねがいします。


目を開けて見えたのは、あいも変わらない石造りの天井だった。

声は出ない。いや、出せはするが、それはあー、とか、おー、みたいな母音ばかりで、周りにいる大人たちに自分が成人した日本人だ、なんて伝える術はどこにもない。

たまにやってくる赤い服や緑色の服を着た人達がお粥みたいなべちゃべちゃした物を運んできては、食べさせてもらっていた。朝と夕方には胸元をひらひらさせた男性と、一見地味だがそれでも他の人達とは身分が違うんだろうと分かるようなドレスに身を包んだ女性が、愛おしそうに見つめてくる。そんな暮らしをしてかれこれ1年と半年、くらいがたとうとしていた。そう、僕は今赤ん坊として暮らしている、何故僕が今こんなことになっているか、それを語るにはまず僕がまだ青年だったころの話をしなくてはならない。





あの時の僕は桃がおいしい県の私立大学に通っていたしがない学生だったのですが、夏の長期休暇を利用してハーレーで英語も分からないのにアメリカを横断していました。自分探しと称し、きっとこれからもこうして世界中をこのハーレーで旅して行くんだろう、そう考えていたんです。しかし西海岸を旅していた時、事件がおこった。

その日は記録的な猛暑で、とてもじゃないけど運転ができるような環境ではなかった、しかし不幸中の幸い(今にしてみれば不幸だが)として、目の前にはきらきらと輝くサンセットビーチが広がっていましたた。浮かれた僕はレンタルの水着に身を包んで現地のサーファーやギャルと交流のようななにかを楽しんでいた。

渾身の勇気を振り絞って現地でガイドをしている風の青い目とブロンドの髪が綺麗なお姉さんをお茶に誘ってみたりしたが、「I can’t speak Japanese.」の一点張りというかなり丁重な方法で断られもした。

そうやって交流を楽しみながら海を泳いでいた時、足がつくか否かという場所にある岩陰、どうも岩とは思えない動き方をする何かを見つけました。

好奇心からその動く何かに近づくと、最初は潮か何かに揺られるボールだと思ったそれは、すぐに生き物だと分かった。黄色と茶色の二色に分かれた虎のような模様が全身を包み、そこに不規則に乗った青い斑点、瓢箪のように縦に伸びた頭からは8本の触手が伸びていた。色こそ過激だったが、それは日本人である僕にはなんとも馴染み深い生物だった。そう、蛸だ、よく見る水蛸は黒っぽい色をしていた気がするが、まあザリガニも日本とアメリカでは色が違うしこんなものなのだろうな、と勝手に納得した僕は、もう既にこいつをどうやって食べようかという事で頭がいっぱいになっていた。

そこで僕はどうでもいい知識を思い出してしまいました、ええほんとに、してしまいました。

キリスト教圏では蛸は気味悪がられている。

インターネットで得た知識にそんなものがあり、こんな奇抜な蛸を陸に持っていったらきっとみんなびっくりするだろうな、なんてことを考えてしまったのです。

そこからは早いもので、蛸が油断した一瞬の隙をついて足の付け根部分を摑取りにして、とりあえず足の着く浅瀬に移動してからどう登場しようかを考えたが、やっぱりここは肩に乗せるべきだろうという結論に帰結し、奇抜な蛸を肩に乗せて僕は海岸までの浅瀬を歩いきました。

結論から言えば当初の驚かしてやろうという悪戯は大成功ですよ、僕の肩に乗っている蛸を見るや否やブルー何とかオクトパス?って叫びながら逃げていくんです。僕はここまで欧米人は蛸が嫌いだったのか…なんて能天気に考えていたんですが、その時です、肩に何かに噛まれたような、何かに刺されたような鋭い痛みが走ったんです。

向こうの方からさっきのブロンドのお姉さんが走って来て、腹の奥底から出ているような怒号が響きました。

「君!それはヒョウモンだこといってテトロドトキシンというふぐと同種類の毒を持っているの!しかもヒョウモンだこはふぐと違い唾液中にその毒を蓄えていてふぐと違ってさわることすら危険なの!いますぐそのヒョウモンだこを投げ捨てなさい!」

遅すぎた注意、そして僕の軽率な行動と無知さを棚に上げ、僕は最後の力を振り絞って人生最後の言葉をのこしました。

「日本語ペラペラじゃん…」



こうしてぼくは死にました。


海洋性生物と異世界転生等に詳しい友人監修のもと深夜テンションで出来たものをお送りしたいと思っています。

ヒョウモンだこは小さい見た目ながら唾液にふぐと同じ毒を持つ危険生物です、海辺で見かけても絶対に触らないようにしましょう。

ヒョウモンだこの雌は1度に50個近い卵を産み、6か月近くその卵を抱えたまま過ごして卵が孵ると絶命するそうです。

次回は本当に異世界します。

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