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メトロノーム  作者: 海土竜
第二章 四層大騒乱
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メトロ大階段

 大地ガイア教は近年活発化している新興宗教団体の一つに数えられるが、少し前までは名も知られぬ小さな集まりで過激な事はせず細々と活動していたらしい。それが急に大規模な勧誘活動を始め信者を増やしているという。その裏にはマスタード・プルーの取引が絡んでいるともっぱらの噂だった。


「大地と一つになるって言ってる連中ですよね。何でもより大地に近づくため下層に降りようとしたりする連中まで出て来てるった話っすよ」


 地面を掘り進んだ地下の街で暮らしていると言うのに周りは人工物の床に天井、土の地面なんてものは記憶の片隅にしか残っていない。これではそういう教えが広まるのも仕方がないか。


「あまり深く係わると碌でも無いものが出てきそうだな。とりあえず沢渡洋平を見つけたら、無理にでも引きずって連れ戻すのが正解か」


「そうっすね、美人の彼女をほっとく奴に係わりたくありませんけど、紗栄子ちゃんの友達を紹介してもらえれば結構期待できそうっすからね」


 紗栄子の友達は食堂の娘・若菜だろうというつっこみはこの際黙っておく事にした。


「派手に勧誘しているのなら、そこから当たってみるべきか」


「確かメトロ大階段で良く勧誘しているって話ですよ。あの辺は学生も多いですからね」


 普段はそこに近づく事をあえて避けていた。

 三層から地上まで吹き抜けになっている空間を螺旋状に階段が取り囲んで地上に建つ高層ビルへと続いている地上と地下の街の接点とも言うべき場所で、多くの商店が並び最先端の流行を求める若者たちが多く集まる場所であったが、その形状から地上のごみを捨てる穴であるかのようで地上部分に建つビルも地下から登る内側と地上の入り口から続く外側の二重構造になっていて動物園の檻の中にいるかのようでいい気分はしない場所だった。

 それでも幾重にも枝分かれしながら伸びる階段を照らし穴の底まで降り注ぐ地上の光は、幻想的な美しさを備えていた。


「……嫌な場所だ」


 この場所を避けていたのは降り注ぐ太陽の光を恨みがましく見上げると、物陰からはい出した生き物が空を見上げてその光にたじろぐように闇の中に戻って行く様を思い浮かべてしまう気分になるからだった。


「何かお困りでしょうか? 光も水も土も神の作り出した尊いもの、思い悩む必要など無いのです。神はそうあるものとして全てを作り上げたのですから」


 早速来たか。しかし若い学生や地方から出て来たばかりと思しき相手ならいざ知らず、この街の闇にどっぷりつかった相手に声を掛けるとは、誰彼構わずも極まれりだな。


「あんたが穴の中で教えを説かされてるのも、そうあるものなのか?」


 古風な修道女のような格好をしている女性に嫌味はあっても話を続けられるように返事をした。なるほど、客引きをさせられているだけあって中々の美人で服の上からでも分かる体のラインはスタイルも良いと窺える。それに幸せから遠そうな表情も時間があれば少しくらい話に付き合っても良いと思わせるに十分であった。


「私は思い悩む人々の心が少しでも軽くなればと、皆さまにお話ししているのです。誰かに説かされている訳ではありません」


 心が軽くなって財布も軽くなるのか? 新興宗教何てどれも似たようなもんだろうから同じ話を何度も聞いているほど暇ではない。早いところ話を切り上げて目的の相手を見つけないとな。


「なぁ、あんた。大地と一つになるって言ってる大地ガイア教って知ってるか?」


「はい、私どもが大地教です。ですが大地も天も水も空気も人も自然の一部であり、共に生きて行くのが大地教の教え。混ざり合い一つになるのではなく別々のものとして互いを理解して生きていくのです」


 いきなりビンゴとはついている。勧誘の文面が多少違うのは気にするほどの事でも無いな、後はこの美人のシスターについて行けば勧誘した若者たちを集めている場所まで辿り着ける。


「なるほど、お互いを理解して生きていく。いいですな」


「分かってもらえましたか!」


「是非とも、もっとお話を聞きたいが立ち話もなんですし……」


「それでは教会の方まで来てください、ご案内いたします」


 ……軽いものだ。

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