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メトロノーム  作者: 海土竜
第三章 偽りの仮面
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蛇紋の依頼 1

 ゴーグルに青のコードを差して……、いや、赤い方か……。

 分厚い説明書を見ながら複雑な電子機器と格闘しているのは、情報屋の蛇紋じゃはんから依頼が入ったからだ。とりあえず配線は繋ぎ終えたし後はゴーグルを装着するだけだが、……真っ暗で何も見えん。


「砂文字所長、準備出来ましたか?」


「真っ暗だぞ? どうなっている」


「先にこっちの電源を入れるんですよ」


 パチンと何処かのボタンを押したような音がすると、暗闇の向こう側から赤や青の光の粒が線になって向かってくる。ものすごい速度で移動しているような錯覚に思わず足元がよろけそうになったが、手をついてバランスを取ろうにも地面と平行な位置もよく分からず妙な気分になるだけだった。

 最近はこういうものが流行っているのか、しかし蛇紋までこんなゲームをしていたとは意外だったな。


「妙に眩しいな……」


 目の前に広がる映像が街の風景を写し出すと、しっかりした地面を踏みしめた感覚や周囲の物音が伝わって来る。そして妙に強い光に足らされていてる気がする。光源の調整不足だろうかと手をかざして影を作りながら上を見上げると、そこには真っ青な空があった。


「砂文字所長、上手く入れましたか? どうしたんです空なんか見上げて」


 思わず見惚れずにはいられない程、青く澄んだ空だった。遥か昔の空気の澄んだ世界の空を再現しているのだろうか。


「いや、何でもない。うまく繋がった様だ……、お前、水上か? なんて格好しているんだ」


 間違いなく水上の声で話しかけてきたその相手は、白い仮面のヒビの間から目を覗かせているホラー映画の怪人を思わせるような姿で思わず身を引いて返事をした。


「そうっすよ。最近はこういうのが流行ってるんすよ」


「そうなのか?」


 それとなく辺りを見回してみると周囲を歩いている人の格好もかなり奇抜ではあるが、それと比べても水上はかなり浮いた格好にも見えた。


「僕よりも所長の白Tシャツに短パンの方が目立ちますよ、何かなかったんですか?」


「何かって何も持ってないからな……、うわっ何だこいつは」


 何が着る物があるのかと説明書を取り出そうとしていると、直ぐ隣に巨大なぬいぐるみのようなものが立っていた。


「それ、エルノーちゃんですよ」


「そうなのか? 何でこんな気持ち悪いサイズになっているんだ?」


 二頭身か三頭身とでも言えば良いのだろうか、背丈は普段の彼女のまま頭の比率を変えたために横に大きく広がっていて、何とも人間離れした生き物にしか見えなかった。


「VRじゃなくて端末で操作する別ゲームのキャラクターだからですよ」


 言われてみれば元々持っていた水上と違ってエルノー用の機材は用意していない。普段遊んでいる端末のゲームをやっているという訳か。


「専用の機材が無くても入れるなら、こんなものつける必要はなかったんじゃないのか?」


「蛇紋さんが送って来たくらいですから、何か依頼に関係するのかもですよ」


 そう言われてみればエルノーのキャラクターでは動きも限られているようだし、頭の上に何やら吹き出しのようなものが出るだけで声を出して喋れないようだった。

 何が書いてあるのか読み取ろうとしても雲のようにすぐ形を変えて消えてしまい、会話するのも一苦労しそうな代物だった。


「エルノーは、何て言っているんだ?」


「それは怒っているエフェクトですよ」


 急に脛に痛みが走った。どうやら現実でエルノーに蹴られたらしい。ゲーム内で足を庇う様にさすったが、現実には動いていない訳だしこの動作に何の意味があるのだろうと疑問に思わないでもなかった。


「動けない相手を蹴るなんて酷いぞ、エルノー。……このゲーム中に強盗にでも入られたら、笑い話にもならんな」


「慣れれば両方見れるんですけどね。それより蛇紋さんの所に向かいましょうよ」


「ああ、そうだな……」


 まったく厄介な依頼を押し付けられてしまったものだ。それも朝からすごい剣幕で断るタイミングも無かったからな。


「砂文字! 砂文字居るんでしょ? 出なさいよ!」


「なんだ?」


 勝手に繋がって騒ぎ立てている通信機に欠伸まじりに答えたが、相手はその返事に満足したのか早口でまくし立てて来る。


「もう腹が立つわ。私のお菓子の家に、落書きをした奴がいるのよ!」


「おかしな家? 火炎放射器で燃やされでもしたのか?」


 蛇紋の事務所は悪名高い黄泉横丁にある。並んでいる他の店からしても非合法な商品を取り扱っているし、客もそう言うものが必要な連中だ。看板に突き刺さった銃弾やナイフも飾りの一部でしかないような場所で怒りをあらわにする程の落書きには見当もつかなかった。


「私の店はおしゃれな建物で有名なのよ! 落書きした犯人は許さないんだから!」


「いつから返り血と銃弾で飾られた建物がおしゃれと呼ばれるようになったんだ?」


「VR用の通信機を送ったから、それ使って直ぐに着て頂戴。地図もつけておくからすぐに来れる筈よ、詳細は店の方で話すわ」


 という訳で、送られてきたゲーム機を使ってやって来たこの場所が、蛇紋のお菓子の家らしい。

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