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メトロノーム  作者: 海土竜
第二章 四層大騒乱
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四層大騒乱

 何度も折れ曲がる長い階段を駆け下りる。階層が下がるにしたがって一層当たりの高さの増える地下都市は四層だと十数階程度になる。直接ベースフロアまで駆け下りるのは息が上がったが武装組織や犯罪者が勢力争いを繰り広げている途中階で戦闘に巻き込まれでもしたら逃げる場所も無い。上の階層のようにきっちりとした道がある訳ではなかったが幾分ましではある。

 建物の間を抜ける通路を走り、突き当たった低い建物の屋根に跳び上がると、頭の上で銃声が響いていた。犯罪者同士の小競り合いかそれとも公安が動き出したのかと、通信に耳を傾ける。


「……教祖安土が十一区方面に逃走……」


 安土の逃走を聞いた時は軽く驚きはした。要塞と言ってもいいだけ立派な本拠地を作っておきながら公安が踏み込む前に逃げ出したのか。しかしこれで大聖堂の方は残された下っ端の信者だけになる。軽いものだと思った瞬間続けざまに聞こえてきた通信に耳を疑った。


「……教祖安土がC-3通路を通って八区方面に逃走中……」


 どうなっている? まるで正反対の座標が報告されている。そしてさらに別の場所が告げられた。


「……F-B-12から七区方面へ移動……」


 複雑に立体交差した通路が続く四層と言っても混乱しすぎだった。俺のやるべき事は変わりはしないと走り続けようとしたが、通信の示した通路はたった今通って来た場所であった。

 何が起こっているのかというより、まず脳裏に浮かんだのはこのまま進めば逃走する安土と鉢合わせする。それは避けたかったが引き返しでもすれば、公安の部隊と鉢合わせするより最悪な結果が待っている。ならば多少無理でも正面に居る相手を強行突破するしかない。

 前方の建物の影に人の気配がする。緊張に喉が鳴ったが構わず空間から銃を引き抜くと物陰に居る相手を射線上に捕らえられるように飛び込んだ。


「公安の犬ども、俺のシャドウダンサーを喰らいやがれ!」


 叫んだのは建物の影でライフルを構えていた大男だった。銃口が交差した瞬間、火花が飛び散り男のライフルが弾け飛ぶ。


「砂文字てめぇ! 公安の犬になりやがったのか!」


 頭蓋骨を撃ち抜いた銃弾という趣味の悪いデザインの刺青の入った腕を押さえながら叫ぶ男に目もくれず走り抜けた。

 名を知られているとは後々厄介な事になりそうだが出来る事なら係わりたくはない相手だ。奴らはこの辺りを縄張りにしている武装集団ブラッドバレット、自分の銃に名前を付けて命のやり取りをゲームと勘違いしている頭のおかしな連中だった。

 引き返し口を封じておいた方がよかったかもしれないが無駄な時間をかければ公安や他の連中と出くわす可能性が高くなるだけだ。それに一人二人じゃ済まなさそうだしな……。


「ヒャッハー! ここは通さねぇぜ!」


 口を開く前に引き鉄を引け。順番に路地から飛び出して奇声を上げる連中を止まらずに数人倒す。縄張り争いの激しい四層で今まで絶滅しなかったのが不思議なくらいだ、と考えていると奴らのアジトらしい壁に囲まれた建物と頑丈そうな鉄の扉が見えて来る。瞬間、考えるより先に地面を蹴って真横に飛んで建物の隙間に体を押し込んだ。

 今まで走っていた通りの地面で無数の弾丸が炸裂する。扉の向こう側の窓に機関銃が備え付けられていたのだった。


(あんな物どうやって手に入れたんだ?)


 跳ね上がった脈拍を抑えようと意識を集中する。銃を持って暴れるだけの連中が、どこから大掛かりな兵器を仕入れたのかは気にしても仕方がないが、真直ぐな通路の先に備え付けられた機関銃を突破して走り抜けるのは容易な事ではない。建物の上に登っても隠れる場所がなければ自分から的になりに行くようなものだ。

 そうなると後は上手く公安の連中と鉢合わせずに引き返せるか、だ。予想できる限りのルートを思い浮かべながら通信に耳を傾けると、聞きなれない単語が飛び込んで来る。


「七区から八区メトロベースにて、TALOSを起動します。退避してください……」


 人間の肉声ではなく合成音声によるアナウンスが繰り返されていたが再び乱射される機関銃の炸裂音が詳細を聞き取らせまいと邪魔をするがそれ以上聞く必要も無かった。その直後路地から覗く通りを銃弾をものともせず猛スピードで転がり抜けた直径一メートルほどの球体が分厚い金属の扉へと激突した。

 球体はそれ自体で転がっている訳ではなく、左右から車輪のような大きな輪っかに挟まれてそれが回転して進んでいたが鉄の扉にぶつかると金属を引っ掻く甲高い音を立てて更に速く回り出し、生じた熱で鉄板を焼き切ってしまった。

 武装組織鎮圧支援機タロス――市街戦に特化した対人兵器だ。


「公安の奴らなんてものを持ち出しやがる!」


 低い屋根へよじ登り建物の上を伝って、細い電気配線用のパイプの上を足音が響くのも気にせずに走り抜けた。下には物音に気が付いて上を見上げる余裕がある者などいるはずも無かったが。

 建物のような複雑に入り組んだ場所に入るとタロスは球状から芋虫のような形になって天上や壁を走り回って生き物を殲滅する。さながら巨大な虫にたかられるようで視覚的にも戦意を喪失させられるのは良くできているとしか言いようがなかったが、公安がここまでするのは教祖一人を捕らえるためではないだろう。


「厄介なタイミングに重なったもんだ……」


 愚痴の一つでも言いたくなったが無人兵器とその対応に追われる武装集団では何を言っても同じだろうと、ここからでは天井からぶら下がるシャンデリアのように見える大聖堂へと急ぎ向かった。

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