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告白しました

 俺は目を覚ますと知らない天井を見る。

 寝起きの回らない頭で状況を整理する。

 俺は奈々葉の奴隷になって、奈々葉の家に来て、奈々葉と風呂に入って……。

 そうか、俺風呂で倒れたんだ。


「おはよう。もう夜よ。お寝坊さん」


「ごめん」


 奈々葉が優しく微笑みながらベットに寝ている俺を見ている。

 やばいな。奈々葉の体に興奮していたのはさすがにバレただろう。

 いつかはバレると思ってたがこんな早いとは。


「ねぇ、正直に答えて……ミーナは女の子が好きなの?」


「……はい」


 俺も結構努力はした家にあった絵本とか肖像画とかで男に好意を持てるように頑張った。

 でも、俺の内面的な部分は前の世界と全く一緒だった。


「そ、その、私とかは……?」


「ん?」


「だから、私とかにも……その、意識しちゃう?」


 コテンと首をかしげる奈々葉。

 俺はそんな可愛い仕草に頬を赤らめてしまう。

 なんだこの可愛い生き物は。


「あ、あぁ……本当にすまない」


「え、なんで謝るの……」


「折角、大金を払って買った奴隷が女に興奮する変態だ……気持ち悪いだろ?」


「え、え……」


「だが頼む! 捨てないでくれ! 俺にはお前が必要なんだ奈々葉! なんでもする。命令というなら靴だって舐める……! だから!」


 俺はベットの上で土下座をする。

 奈々葉は驚いたような顔をしているが、知ったことじゃない。

 俺は捨てられるわけにはいかないんだ。

 復讐を果たすまでは、絶対に!


「な、何か勘違いしてるよ。私は別に気持ち悪いって思わないし……むしろ、嬉しいかも……」


 奈々葉が俺の頭を撫でる。


「私、人に好きになってもらった事ないから」


「奈々葉……」


 違う。俺は、俺は好きなんだ。

 お前の事が、前の世界から。

 だから、そんな悲しい顔しないでくれ。

 俺は口から出そうになる言葉を押し殺す。


「奈々葉!」


「え、どうしたの!?」


 俺はベットから出て奈々葉の方を掴む。

 俺は奈々葉の事が好きだ。

 前の世界から、今の世界でも。

 そして、今回は前の世界みたいに思いを伝えないまま死なない。


「俺は、お前が好きだ――!! 一目惚れだ!! 主人とか奴隷とか関係ないんだ!! 俺は、お前のために生きたい!!!!!!」


 この言葉は前の世界の『俺』ではなく、この世界の『ミーナ』の言葉だ。

 前の世界の『俺』は奈々葉に、こんな思いをさせて死んでしまった。

 前の世界の『俺』は奈々葉に告白する資格がない。

 だから、俺はミーナとして奈々葉に告白する。

 今回は、絶対に悲しませない。


「――え……」


 驚い顔をして固まってしまう奈々葉。

 そりゃそうなるだろう。

 でも、今伝えないと絶対にダメな気がした。


「あ、あの、その、ミーナ……ごめん……」


「……そう、だよな。すまない。さっきのは忘れてくれ……」


 今の俺は女だ。

 俺の記憶が正しければ奈々葉に同性愛の気はない。

 俺の二回目の恋は終わった。


「え、いや、そうじゃ――」


「ナナ様、夕食の準備が整い……なんですかこの空気?」


「カナムラ……空気読んでよ」


「私、風系統の魔法は使えますよ?」


「そういう話じゃないわよ……」


「それよりも、魔王様が『早く飯にするぞ!』と言ってうるさいので早く行きましょう」


 俺は傷心で俯きながら、食堂に向かう。

 前の世界では告白なんてしたことなかった。

 だから、もちろん振られるのも始めてだ。

 やばい。泣きそうだ。俺ってこんなに涙もろかったっけ……。


「ほら、ミーナ様も行ってしまいましたよ?」


「あ、ミーナ!」


 俺は逃げるように速足になる。

 前の世界で振られれば吹っ切れると言ってる本があったが、あれは嘘だな。

 吹っ切れるわけがない。

 涙が出てくるし、息が荒くなるし、頭がグラグラする。

 こんなの、どうやって吹っ切れるんだよ!!


「お、そんなに勢い良くどうしたのだ?」


「ナル……」


 食堂に着くとナルナガが居た。


「ひぐ……っ。ナル……」


「ぬ、な、なぜ泣いておるのだ!? 我、何かしたか!?」


「奈々葉に……振られだぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「ぬおっ!?」


 俺はナルナガに抱きつく。

 誰でもいいから泣き付きたかった。

 ナルナガは一瞬だけ驚いた顔をしたが、こういう状況になった事があるのか慣れたような手つきで俺の頭を撫でてくれた。


「そうか。ぬしは見た目と違い手が早いのだな……もう少し時を待ってから申し込めばいいものを……」


「だっでぇ……、今じかないど思っだんだもん〝!!」


「それで振られたんだったら脈なしだったということだろうな」


「ああああああああ!!!!」


 俺はナルナガの胸に顔を押し当てて無く。

 俺の目からは崩壊したダムのように涙が溢れる。

 だって、あんまりだろ。もう少し励ましてくれよ!

 この悪魔!


「み、ミーナ! 酷いよ先に行く、な、んて……」


 食堂の入り口の方から奈々葉の声がする。

 俺は一体どんな顔で奈々葉を見ればいいんだ。

 てか、なんで俺はあの時に告ったんだ。

 あの時の俺をぶん殴りに行きたい。


「お、おい! ナナ!! 馬鹿なことはやめろ!!」



「――ぬしはていあんけいよついごす」



「聖剣を構えるな! 呪文を唱えるな!」


 俺は涙を拭いて奈々葉のいる方に振り向く。

 すると、そこには光り輝く剣を構えた奈々葉が居た。

 そして、ナルナガがそんな奈々葉を見て、ひどく怯えていた。


「――魔王、貴様は調子に乗りすぎた。私の大切な物に手をかけた。それがお前最大の大罪だ」


「わ、我を倒しに来た時と同じことを言うな! というか、前の時より殺気がすごいんだが!?」


「この剣は命だ。この聖剣には私の汚れた命が籠っている。恨みや、悲しみ、偽善で固まった私の命だ」


「お、おい、冗談はやめろ! 別に我はミーナを誘惑したとかそんなんではない! だから、必殺技を決める時の決め台詞的なのをやめるのだ!!」


 俺はこのままナルナガに抱きついていたらまずいと思いナルナガのそばを離れる。


「おい、逃げるなミーナ! そもそもこれはお前の――」


「魔王。お前の力を剥奪する!!!」


「もう、剥奪されてるのだがぁぁぁああああああ!!?」


 剣から溢れる光に包まれるナルナガ。

 悲痛の叫び声をあげながらのたうち回る。

 おそらく、さっきの光は魔物にすごく効果のあるものなんだろう。

 俺も少しだけ触れてしまったが、なんともない。


「だ、大丈夫ミーナ! ナルに何かされなかった!?」


「いや、むしろナルが何かされた気が……」


「アギャアアアア痛い痛い!!」


 転げ回るナルナガ。

 なんか、ごめん。

 俺は心の中で謝罪をする。


「あ、魔王様がのたうち回ってる。写真撮っとこ」


 カナムラがカメラらしき物でナルナガを撮る。

 この世界、カメラなんてあったのか!?

 というか、撮らずに助けてやれよ。


「良かった……何もされてないみたいね……はぁ……」


 安堵のため息を漏らす奈々葉。


「ガァァァァああああ、あ、やばいこれ本当に死ぬ!!」


 悲鳴をあげのたうち回るナルナガ。


「いい顔ですね魔王様〜」


 そんなナルナガを撮るカナムラ。


「なんか……どうでもよくなってきた……」


 そんな、カオスな状況に俺は告白を断られとなどどうでもよくなってきた。

 よくよく考えてみれば、俺は今日からここに住むわけだし。

 奈々葉と一つ屋根の下だ。

 付き合う必要ないな。


「ビギャアア――!!!」


 俺はのたうち回るナルナガに手を合わせ「ごめん」と小さく呟いた。

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