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命令を聞きました

 契約の首輪。奴隷が主人に一生従う事を契約する時に使う道具だ。

 俺は本で手に入れた知識しかないが、確か契約を結ぶと首輪は一生外れなくなって主人の命令には絶対に逆らえなくなるんだったんだよな。

 その願いが例え「死ね」という命令でも。


「じゃあ、契約するよ」


「はい、ナナハ様」


 俺はナナハ様の前に跪く。

 すると、ナナハ様は俺の首に首輪を付ける。

 ナナハ様が自分の右手の親指を噛んだ。

 噛んだ場所からポタポタと血が流れてくる。


「――奴隷の契約」


 そう言って血が出ている親指を、俺の付けている首輪に押し付ける。

 うっわ、痛そう。


「アッツイ……!」


 なんだ!? 俺は焼けるように熱い喉を掴む。

 しかし、そこには何もなかった。

 なぜか、先ほど付けた首輪すらなかった。


(奴隷契約失敗!?)


 いや、そんなの聞いたことない。


「だ、大丈夫!?」


「かは……ッ!!」


 い、息ができねぇ。

 俺は地面に膝を付ける。


『あなたは奴隷になりました』


 俺の目の前に文字が現れる。

 まるで、立体映写機で出来た文字を見ているみたいだ。

 その瞬間、俺の喉に激痛を与えていた熱さ消えて聞く。


「はぁ……はぁ……」


 死ぬかと思った……。

 奴隷契約、ハードすぎるだろ。

 もう少しこう、一瞬で終わるものを想像してたわ。


「大丈夫!?」


「大丈夫、です。少し、苦しくて、熱かった、だけ、です」


 俺は息を切らしながらも笑顔で返した。

 心配そうな顔で俺の事を見ているナナハ様。


「ごめんなさい。奴隷契約がこんなに辛いものだって知らなくて……」


「大丈夫ですよ……だから、そんな悲しそうな顔しないでください」


 ナナハ様、いや、奈々葉は俺の幼馴染みだ。

 奈々葉が人一倍責任感の強い奴だってことは知っている。

 俺の辛そうな姿を見て責任を感じているんだろう。

 奈々葉は俺の数少ない前の世界での友人だ。

 悲しい顔は見たくない。


「ありがとう……」


 本当に、変わらないな。

 俺は奈々葉を利用する気はあるが、奈々葉に悲しい思いをさせる気はない。

 むしろ、今度こそ奈々葉を守ってやりたい。




 馬車に乗り、ナナハ様の馬車に乗っている。

 そして、俺はなぜかナナハ様の膝の上に座っている。

 確かに、外面的な年齢ならおかしくはないかもしれないが、俺は奴隷だぞ?

 てか、恥ずかしい。


「ねぇ、最初の命令していい?」


「はい、何なりとお申し付けください」


 ナナハ様なら、無茶な願いはしないだろう。

 俺はそう思いながら、落ち着いた声で返した。


「名前を教えて」


「ミーナです」


「ミーナ、ね」


 あれ、名前ってさっきも言わなかったっけ?

 俺は不思議に思い、首を傾げた。


「ごめんね。不思議に思ったよね。さっき名乗ったのにって……」


「いえ、奈々葉様が聞きたいというのなら何度でも」


 俺がそう言うと、奈々葉は嬉しそうにパタパタと足をばたつかせる。


「ごめんね。さっき教えてもらった名前が本当の名前なのかなって少し疑っちゃった……」


 足を落ち着かせて申し訳なさそうな顔でそう言う奈々葉。

 なるほどな。確かに奴隷が契約前に本当の名前を主人に教えるとは限らない。


「いえ、それは仕方のない事ですよ」


 奈々葉は良かったと胸を撫で下ろした。


「ねぇ、ミーナ。もう一つ命令していい?」


「はい、いくつでも構いませんよ?」


 ナナハ様は奴隷の俺に対しても気を使ってくれている。

 前の世界から気を使う性格だったが、この世界に来ても全然性格が変わってないのもすごいな。

 てか、ナナハ様は前の世界から姿が変わっていない。

 俺が死んで生まれ変わってから10年近く経ってるはずなのに……。

 もしかして、あっちとこっちは時間の流れが違うのか?


「その、作った喋り方を止めて」


「えっ……」


「だから、その喋り方。無理してるでしょ?」


 な、なんだと? 俺の演技があっさり見破られた。

 俺は驚きのあまり作り笑いを忘れてしまう。


「これからは、私の前では作った喋り方と表情をしないこと」


「あ、あぁ、分かった」


 なっ! 俺は「はい、分かりました」と言ったはずだ。

 なんで、『私』じゃなくて『俺』の口調になってるんだ。

 これが、奴隷契約の力か……。


「ふふっ、ミーナ。男の子みたいな喋り方するのね」


 クスッと笑いながら奈々葉が言った。


「な、なぁ、一ついいか?」


 だめだ! 口調が完全に俺だ。

 これじゃ、媚を売る作戦に支障が出る。


「いいわよ」


「いつから、俺が作った喋り方をしているって思ったんだ?」


「ふふっ、俺って」


 俺の喋り方が面白いのか笑う奈々葉。

 確かに、俺の様な美少女が俺口調を使ってたらギャップで笑うかもな。


「そうね。正確に分かったのは馬車に乗るあたりだけど、会った時から何となく違和感は感じてたわよ?」


「そ、そうなのか……」


 奈々葉の感の鋭さが凄いのを忘れていた。

 そういえばこいつ、昔俺が嘘つくたんびに見破ってたっけ。


「奈々葉……様」


 俺は喋り方が戻ったせいでナナハ様ではなく、奈々葉と言ってしまう。

 流石にこれはマズイだろ。世間体的にも、媚売り作戦的にも。

 主人を呼び捨てにする奴隷なんて漫画の中でしか見た事ない。


「奈々葉でいいわよ」


「だけど……」


「奈々葉でいいわ。あなたには奴隷らしい奴隷になって欲しくないし」


 奴隷らしい奴隷になって欲しくない? どういう意味だ。

 いや、そこは今どうでもいい。

 今重要なのはこのままじゃマズイって事だ。

 このままじゃ、媚売り作戦どころか。俺が幼馴染みの俺だってバレる可能性がある。


 とりあえず、敬語だけでも使えるようにしてもらわないと……。


「奈々葉」


 俺が敬語だけでも許可してもらおうと奈々葉の方を見ると。

 奈々葉が俺の方に顔を寄せてきている。

 俺は一瞬ドキッとして体をビクッと動かしてしまう。


「あなたには、私の『家族』になって欲しいの」


「家族……」


 奴隷なのに、家族?

 奈々葉の言葉を聞いた瞬間、俺は一つの仮説にたどり着く。


(もしかして、奈々葉はこの世界でボッチ? だから、寂しさを紛らわすために俺を買った? それなら、奈々葉の言葉の意味も理解できる。そもそも、奈々葉この世界ではブサイク判定になる綺麗な黒髪の持ち主。その上、奈々葉はコミュニケーションが苦手だ……)


 俺は、自分の仮説が十中八九当たりだと思う。

 これは、逆に素の俺で甘えに行った方が好感度が高いんじゃないか?


「でも、俺は奴隷……」


「運命を感じたのよ」


「運命……?」


「私、昔好きな男の子が居たの……でも、私の所為で死んじゃったのよ……。申し訳ないなんて軽い気持ちじゃなかったわ。死にたくて生きたくなく、私は自殺したわ」


「――!?」


 好きな男!? 自殺!?

 奈々葉の口から放たれる衝撃的な言葉の数々。

 てか、奈々葉ってそんな病むタイプだったのか。


「あなたの目……その彼にそっくりなの」


「俺の目が?」


「えぇ、基本的にやる気がなさそうなのに、ちゃんと一本の芯が通ってる目。私の愛した。『幼馴染み』の彼にそっくりな目なの……」


 ……ファッ!?

 ちょっと、待ってくれ!

 幼馴染み!?

 奈々葉の幼馴染みは俺しかいないはず。

 つまり、奈々葉が好きで、自殺した原因の奴って……。


(――俺!?)


 え、嘘。てか、俺の死んだ原因が奈々葉?

 あれ、完全に俺の不注意……。


 もしかして、奈々葉の奴。

 俺が死ぬ前に奈々葉んちで飲んだから、それが原因だと思ってるのか!?

 俺が酒を飲んで、酔ってたから死んだと思ってるのか!?


「ど、どうしたの、そんなに驚いた顔して?」


「い、いや、衝撃の新事実にびっくりしただけ」


「あっ、確かに、いきなり死んだ幼馴染みに似てるって言われても驚くは当然ね」


 そこじゃねぇよ!

 俺は心の中で綺麗に突っ込む。

 あぁ、俺はなんで前の世界でこいつに告白しなかったんだ。

 完全に両思いだったんじゃねぇかよ。


「え、なんで、次は落ち込んだ表情……」


 あぁ、表情も隠せないから感情がだだ漏れだ。


「気にしないでくれ」


「そ、そんな訳いかないわ! 私はあなたと家族になりたいの。ほら、膝枕してあげるから! 少しは落ち着くと思うわよ?」


「膝枕……」


 奈々葉の膝枕……。

 いや、今はこれからどうするか考えないといけないだ。

 そんな誘惑には負けない。


「――頭も撫でてあげるわよ?」


 ……。人とは、誘惑に勝てない弱い生き物である。

 俺は奈々葉の家に着くまで、奈々葉の膝枕と頭なでなでをしてもらった。

 男は本能に逆らえないのだ。


 今は女だけど。

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