幼馴染でした
「――その子、金貨二百枚で買うわ」
オーディション会場が騒然となる。
斯く言う僕も驚きを隠せずに口を開いてアホな顔をしている。
なぜ、こんなことになっているかというと10数分前に遡る。
俺はオークション会場という場所の舞台の袖に居た。
俺より先に売られた奴らは大体金貨二、三枚で売れていた。
山奥で育ってきた俺は金貨の価値がどのくらいなのか分からないが、金貨十枚で「おぉ」と会場が沸いていたから、一枚でもそれなりの金額なんだろう。
「――さて、次の商品はプラチナブロンドの美しい髪を持つ幼い少女です!」
おっと、俺の番か。
俺は舞台袖から出て舞台に上がる。
舞台に上がった俺は予め指示されていた場所に立つ。
舞台袖からでも分かっていたが人多いな。
ぱっと見でも200はいると分かる。
「おぉ……」
「これは今日一だな」
俺を見ると会場にいる男どもがざわつきだす。
自分で言うのもなんだが俺は美少女だ。
お前らの気持ちは分かるぞ。
俺も俺並みの美少女が売られてたら、どんな手を使っても買おうとするだろうし。
「それでは、時間も惜しいので早速オークション開始です」
「――金貨十三枚!」
「金貨十五枚」
「金貨二十枚!!」
金貨二十枚と裕福そうな男が言うと周りの客も「おぉ」と声を出す。
それにしても、男しか落札しようとしてこないな。
別に仕方ないと割り切ってるが男に抱かれるのは嫌だな。
しかも、俺の体はまだ子供だ。壊れなきゃいいが。
俺は入札してくる男たちのいやらしそうな顔を見る。
このロリコンどもめ!
「――その子、金貨二百枚で買うわ」
『――!?』
金貨二百枚。後ろ側にいるフードを被った女性の言った桁違いの額に会場中が唖然となる。
斯く言う俺も驚きすぎて口を開いてしまう。
に、二百枚。金貨一枚が前の世界で言う一万ほどだとしても二百万……。
「ほ、他に入札する方は……いませんね。フードの方! 金貨二百枚で落札です!!」
もしかして、今のフードの人は貴族なのかもしれない。
でも、貴族なら奴隷じゃなくしっかりとした従者を雇うはず……。
もしかして、虐待趣味のある人とかか?
「ほら、貴方も舞台から降りて」
「あ、はい」
俺は舞台から降りる。
舞台から降りるとスーツ姿の女性が居た。
この世界にもスーツとかあるのか。
「貴方のご主人様が待合室でお待ちですよ」
「ご主人様……」
そうか。奴隷だからご主人様って呼ばないといけないのか。
俺はスーツ姿の女に案内されて待合室まで来た。
この中にさっきの女が居るのか……。
「ナナハ様、奴隷を連れて参りました」
「分かったわ。奴隷の子だけ通してちょうだい」
「かしこまりました」
お、俺だけか。
なんだか、緊張してきた。
「し、失礼します」
俺はドアを開けて待合室の中に入る。
すると、中にはフードを被った女性。
つまり、俺のご主人様が居た。
「……」
俺のご主人様が俺の顔をじっと見ている。
なんだ、何かついてるか?
「これから、よろしくお願いします」
取りあえず、社交辞令的な感じて俺は言った。
やっぱり、日本人だったころの名残なんだろな。
「え、えぇ……」
俺のご主人様が俯いて戸惑ってしまう。
もしかして、俺のご主人様ってコミュ症なのか?
だからフードをして顔を見えないようにしているのか?
「あの、ご主人様?」
「ナナハ……」
「え?」
「ご主人様じゃなくて、ナナハって呼んで」
あぁ、そういう事か。
「分かりました。ナナハ様」
必殺、満面の笑み。俺は自分の可愛さを理解している。
自分の可愛さを利用しない手はない。
もし、俺のご主人様が虐待趣味を持っていたとしても、俺は諦めない。
復讐するまで死ぬ気はないんだ。
使えるもの全部使って生きる。
まずは媚びを売る作戦だ。
「か、可愛い……」
よし、手応えありだ。
奴隷はペットのようなものだ。
俺は、可愛い愛想のいいペットを目指す。
そうすれば、簡単に殺されるようなことはないだろう。
「あ、あなたの名前を教えて」
「お、私はミーナです。ナナハ様は?」
あっぶね。一瞬、「俺」って言いそうになった。
「私は水月奈々葉」
「え……」
俺は聞き覚えのある名前に一瞬可愛い表情をするのを忘れる。
「ど、どうしたの?」
水月奈々葉。俺はその名前を知っている。
知っているどころか、知り合っている。
水月奈々葉は前の世界での、俺の……。
「ナナハ様。その、フードを脱いでいただく事は?」
「えっ、あ、うん」
ナナハ様は少し戸惑いながらフードを脱ぐ。
「これで、いいかな?」
「……」
やっぱりだ。
俺はナナハ様……いや、奈々葉の顔を見て確信する。
日本人特有の黒髪に、中々に整った顔、顔の右側にある泣きぼくろ。
その全てが、元の世界での俺の幼馴染である水月奈々葉と一致していた。
「ご、ごめんね。黒髪なんて気持ち悪いよね……」
そして、それと同時に俺は奈々葉がなぜフードを被っていたか理解した。
この世界は髪の色を容姿の一部としている。
この世界基準で美しい髪の色はブロンドやアッシュなどの明るい色だ。
逆に黒や茶の髪は嫌われる傾向がある。
奈々葉は綺麗な黒髪をしている。
それはこの世界では醜さの象徴のようなものだった。
「いえ、とても綺麗な髪だと思います」
これは利用できる。俺はそう思った。
奈々葉がどうして、この世界にいるかは分からないが、一つだけ分かっている事がある。
奈々葉はこの世界では物凄い金持ちだ。
金とは権力の象徴。金を持っているものに媚びて悪い事はない。
奈々葉には悪いが俺の事は黙って利用させてもらう。
こいつの性格は概ね理解しているし、ここまで利用しやすい環境もない。
「ほ、本当に?」
「はい、ナナハ様の髪は美しいと思います」
俺は微笑みながらそう言った。
罪悪感はあるが、これも復讐の為だ。
利用させてもらうぞ。奈々葉。