奴隷になりました
ドナドナドーナ。
俺は、うろ覚えになっている前の世界の歌を思い出す。
この歌って確か牛が市場に売られに行くストーリーだったはず。
「なぁ、これってどこ向かってるの?」
「今から行くのは、奴隷市場だぜ」
奴隷市場に連れて行かれている今の俺にぴったりの歌だ。
「今更逃げようとしても無駄だぜ? お前を逃したら俺がお頭に殺されちまうかんな」
「別に逃げねぇよ」
馬車に乗るのは初めてだが、結構乗り心地悪いんだな。
俺は初めて乗る馬車にケツを痛めながら奴隷市場とやらに向かう。
奴隷か。できれば可愛い女の子の奴隷になりたいな。
俺、なんでもしちゃう。
もし、ロリコンの男に買われたら……考えるのやめとこ。
「お前、本当に子供なのか? お頭の前でも堂々としてやがるし、魔法で若返ってる女騎士なんてないよな?」
「ないない。もしそうなら、お前ら皆殺しにしてるから」
「い、言ってくれるじゃねぇか。口は災いのアレなんだぜ?」
「口は災いの元だろ?」
「あ、そう、それ」
こいつ、バカだなぁ。
てか、本当にケツがイテェ。
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奴隷市場に着いた。
中に入ってみると意外に綺麗だ。
受付もしっかりしてるし、暗い顔しているのは奴隷くらいだな。
「こいつ、今日中に出品できるか?」
「はい、可能ですよ」
出品か。完璧に物扱いだな。
別にいいけどさ。
「では、私に着いてきてください」
私に向かってニコッと微笑む受付嬢。
盗賊の男は「じゃあな」と言って出て行ってしまった。
俺は受付嬢に言われた通り着いて行く。
通されたのは薄暗く、先ほどの場所とは真逆の小汚い部屋だった。
その部屋からは幾つも泣き声や後悔、懺悔の声が聞こえてくる。
あぁ、奴隷の部屋って感じだな。
「ここでオークション開始をお待ち下さい」
オークションか。
十年ぶりくらいに聞く単語だ。
どの世界でも、人はそういうのが好きなんだな。
「う、うぅ……ママァ……パパァ……ごめんなさい……ひっぐ………うぅ…お家、帰りたいよぉ……」
俺の隣の席の子がボロボロと涙を流している。
今の言葉から考察するに、俺と同じように親を殺されて連れてこられたか。
逆に親に売られたかのどっちかなんだろうな。
「はぁ……仕方ない……」
このまま横で泣かれてても、こっちの気が滅入るだけだ。
「ねぇ、君、なんで泣いてるの?」
「う、うう……」
女の子は目から出る涙を止められず、俺の質問に答えられる状態じゃなかった。
こんなに涙流して、脱水症状にならないか心配だな。
とりあえず、落ち着くまで様子みるか。
――10分後
――20分後
――30分後
――1時間後
「ひっぐ……ママぁ……」
「――ふぅ……泣き止めやぁぁぁぁああ!!!」
「ひっ……!?」
女の子が怯えたような顔をする。
そして、周りで暗い顔していた奴らも俺の方を向く。
「なんでそんなに泣いてられるんだよ!? なに、お前の目は貯水タンクにでも繋がってるんですか!? それに聞いてりゃ『ママぁ』だの『パパぁ』だの! もう少し詳しく喋れや!! 要点が全然分かんないんだよ!!」
「な……なんで、そんなに……怒って……」
「怒るだろそりゃぁよ!! 黙ってりゃ横でビービービービー泣きやがって! こっちまで気が滅入るわ本当に!!」
「ごっ、ごめんなさい……」
「他の奴らもそうだ! こっちが黙ってりゃ暗い顔しやがって! なんだ? てめぇらは全員今から死ぬんですか!?」
普段は冷静な俺でも、流石に堪忍袋の緒が切れた。
俺の嫌いなものベストスリーに入る『鬱な空気感』に一時間耐え切っただけでも褒めて欲しい。
「だ、だって! これから売られるのよ!!」
俺の正面の方に座っていた女が立ち上がり、俺の目の前まで来て言った。
なんだ、少しは言い返せる気力のある奴もいるじゃんか。
「はぁ!? だからなんですかぁ!? 売られるから全部諦めて、全部捨てて、魂の抜けた人形さんにでもなるつもりなんですかぁ?」
「ほ、ほとんど、その通りでしょ!!」
女は涙目になり、かすれた声で言った。
「言い訳してんじゃねぇぞ!? お前らは人間だ! 人形にはなれない!!」
「で、でも……」
「でも、も何もない!! お前らの選択肢は二つだけだ! 全力で生き残るか、全力で死に急ぐか。お前らはどうしたいんだ!?」
「……い、生きたいわよ! 当たり前でしょ!!」
俺は女の顔の目の前まで近づく。
正直、こいつらの気持ちは分かる。
こいつらも理由は違えど、悲劇を経験しここに来ている。
それこそ、死んだほうがマシだと思ってる奴も少ないくないだろう。
だが、それが死んでいい理由にはならない。
「じゃあ、生きろよ!! 諦めた顔してんじゃねぇよ!!」
「で、でも……私は家族も、友人も見殺しにして……そんな権利」
「権利だぁ!? そんなのあるわけねぇだろ! むしろ、この中にそんな立派な権利を持ってる奴がいたら俺の前まで出てこい!!」
「――!?」
俺の発言に全員が目を反らす。
こいつらの言っている事は全部言い訳だ。
死にたいけど死ねないから言い訳しているだけだ。
自分に生きる権利がない。
そんなの、俺も持っていない。
親を殺され、その親に死体を火に焼べた。
「お前らに権利なんてない! 死んでいい権利すらな!!」
死ぬってのは逃げ道だ。
絶望するのも、泣くのも、懺悔するのも、逃げ道でしかない。
生きることから、頑張ることから逃げてる奴が権利だなんだ語ってんじゃねぇよ。
「頑張って生きて、それから懺悔や後悔しやがれ!!」
「……」
女は何も言い返せずに、唖然とした様子で俺のことを見ている。
他の奴らの顔も、大体そんな感じだ。
「カッコ、いい……」
隣に座っている女の子がそう呟く。
「い、以上だ……」
やっちまった。
なんだ今の厨二発言! この世界初の黒歴史が出来ちまった……。
なんだよ『死んでいい権利すらな(キリッ)』って!
恥ずかしい! 凄まじく恥ずかしい!
「――オークション開始で……なんですかこの空気?」
知らせに来た受付嬢が首を傾げる。
俺は、知らん顔をするが背汗がやばい。