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お風呂で会いました

『よくも……よくも、私達を燃やしたわね。ミーナ』


『俺たちはお前を許さない』


『お母さん……お父さん……!』


 目を覚ますと死んだはずのお父さんとお母さんが枕元に立っていた。

 ベットから飛び上がり、二人の前に立つ。


『なんであなただけ幸せそうにしているの』


『なんでおまえだけ愛されようとしている』


『あなたは……私たちを忘れようとしているの?』


『ち……違う! 俺はお母さんとお父さんの仇を……!! あいつらを殺すために!!』


 だから、俺は奈々葉を利用するために……!

 愛されようと愛想を振りまいているのも……全部……全部、演技なんだ……。

 俺が、二人のことを忘れるなんてことはない。あいつらへの怒りを忘れることはない。


『だったら、早く』


『そうだ、早く』


『早く……早く早く早く……仇をとって。私たちを燃やしたミーナ』


 ……お母さん。


 ……ごめんなさい。





 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎





 俺は息を荒立てながら目を覚ました。


「夢……」


 隣からは奈々葉の寝息が聞こえる。

 カチカチと時計の音の方に目をやると、今は夜中の三時。

 自分の荒い呼吸を整えると、寝汗の酷さに気づく。

 お風呂に入るか……。


 奈々葉を起こさない様に体を起こして、そっと扉の方まで向かい。

 ギギッ、と音を立てる扉を開ける。


 月明かりが窓から差し込む。

 電気がなくても足元は見える。

 本当はロウソクくらい持ってた方がいいんだけど、これだけ明るければ大丈夫だろう。


 この家の風呂は大浴場だけだが、温泉を引いているらしい。

 カナムラが「ナナハ様が掘り当てたんですよ」と言っていた。

 なんだか、驚くことが多すぎる二日間だが一番驚いてしまったかもしれない。

 なんだよ……掘り当てるって。


「一人で風呂ってのも久しぶりだな……」


 服を脱いでいる途中、脱衣所に置いてある鏡に目がいく。

 まだ幼いから、大きくはないが少し膨らんだ胸。きめ細やかな肌。

 母に似た整った顔。さすがに自分の体に欲情なんてしないが、美少女だな俺……。

 だけど、今の顔は奈々葉には見せられないな……。


「ロウソクの火……まぁ、風呂場にも窓はあるし大丈夫か」


 俺は早く風呂に浸かりたくてロウソクお火持つけずにお風呂に入る。

 軽く体を流して、浴槽に入る。


 嫌な……夢だった。きっと、お父さんもお母さんもあんなことは言わない。

 あれは、俺の心の中にある罪悪感や恐怖心が産み出した夢だ。

 下に顔を向けると水面に映る自分の顔。ははっ……本当に酷い顔だ。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 俺は一体……何に対して謝ってるんだ……。

 わからない。でも、言わずにいられない。

 じゃないと、何かに押しつぶされそうだ。


「水面に映る自分に謝罪の言葉を送るとは、おかしな奴だな」


「っ――!?」


 突然聞こえた声。驚いて首を向けるとナルナガがいた。


「ナル様……いつからそこに!?」


「そうだな。貴様が風呂に浸かるよりは先にいたな」


 奈々葉邸の広い風呂、照らすのは窓から差し込む月明かりだけだ。

 気づかなかった。そして、見られた。

 水面に映る自分の顔が熱を帯びて赤くなる。


「なぁ、ミーナ。良ければ酌をしてくれないか?」


「……酌ですか?」


 ナルナガが何もない場所に手を(かざ)すと夜の暗さとは違う、『暗黒』が靄のように発生する。

 その靄に手を突っ込み、酒瓶とお猪口を取り出した。


 ……四次○ポケット?


「これは我が治めていた国の上等な酒だ」


「は、はぁ……」


 ナルナガが治めていた国って、魔族の国だよな。

 確か、ウプシロン国とかそんな名前だったと思う。


「酌を頼む」


「え、あ、はい……」


 ナルナガは持っている酒瓶を俺に投げる。


「うわっ……え?」


 酒瓶が俺の前までプカプカと浮かんで来る。

 こ、これも魔法ってやつなのか……。

 酒瓶を受け取り、お猪口を構えるナルナガに近づく。


「その、お酌をするのは初めてなので……」


「ふ、気にするな。しかし、ミーナの初めてを貰ってしまうとは、ナナに文句を言われそうだな」


「誤解を招くような事、言わないでください」


「ふふ、すまない」


 そんな事、奈々葉にでも聞かれたら大変だぞ。昨日の悲劇を覚えてないのか。

 『イダっ、光が痛いッ! 目に染みるぅ!!』

 と、言いながら床を転げ回らされただろ。


 しかし、こう改めてナルナガを見てみると……美人だな。

 胸もデカイ。


「ん、なぜ我の胸を凝視している?」


「いや、でけぇなって……あっ!」


 思った事をそのまま言ってしまった!

 女が女の胸を見て『でけぇな』って変態かよ!

 いや……女の子同士だしセーフか? 前世で見たアニメでも女同士で胸のデカさについて話してた気がする。


「ぷっ、あははは! そんな事初めて言われたぞ!」


「す、すみません……」


「謝ることはない! 我は愉快だ! そうか、やはり我の胸は人間から見て豊満な方なのだな」


「え、えぇ、母と自分以外の胸は見たことないですけど、大きい方だと思います」


 いや、奈々葉のも見たことあるか。

 気絶して意識が飛んでいたからよく覚えてないけど。


「……そうか。お前には母がいるのか。ふむ、だったとしたら先程、水面に映る自分にあんな事を言っていたのも納得がいく」


 そう言いながら、ナルナガが優しい笑みを向けて聞いてきた。


「っ……」


 まさかこいつ、俺が泣いてた理由を暴くために酌をさせたのか?

 というか、今の発言だけで俺の考えてた事が分かったのか。

 いや、そんな事無理だ。出来たとしたら未来予知の領域だ。

 ……いや、魔王だし未来予知くらい出来そうだな。

 だけど、未来予知のような事が出来たとしたらわざわざ聞き出す必要もないだろう。


「当たりか……」


「ナル様ってもしかして頭が良いんですか?」


 俺がそう聞くと、ナルナガは一瞬驚いた様な表情になり、笑った。


「あは、あははは!! ミーナよ。貴様はとてつもなく無礼で失礼な奴だな! 普通聞くか。魔王に恐怖の象徴に『頭良いんですか?』って! あははは!」


 し、しまった! 確かにそうだ。そんな事を聞くって『あなたの事を頭悪いと思ってました』って言ってるようなもんじゃないか。

 この家の奴らの心証を悪くするのはマズい。


「す、すみません!!!」


 俺は即座に頭を下げた。

 ナルナガは俺の下げた頭をくしゃくしゃと撫でた。

 え、なに?


「良い。良いぞ。許すぞ。その不敬を。恐らく貴様は我の心証なんかを気にしているのだろうが、気にする必要もない。むしろ、素直な貴様に我は好感すら覚える」


 な、なんかよく分からないけど、俺の態度は悪く思われてないって事か。

 ナルナガが変な奴で助かった。


「あ、ありがとうございます」


「うむ。そう言えば質問に答えていなかったな。我の頭脳は優れている方だぞ。我は力で魔王になったのではなく、知略で魔王になったのだからな」


 なんでだろうか。全然信じられない。

 いや、先程の考察を考えるとあり得るってのは分かる。

 分かるけど、だ。昨日の惨めな姿が頭から離れないのだ。


「我の前魔王は武力で魔王になった。その力は歴代魔王の中でも最強だと言われている。だが、前魔王は全てを武力で解決しようとした。そして失敗し、国王でありながら国から追い出された」


 ナルナガの前魔王って、カナムラだよな。

 おいおい、カナムラ何してんだよ!? 国王が国から追い出されるってそんなの聞いた事が……結構あるけど! どんだけ暴君だったんだよ!


「だから、ある程度の力を持ち、知略に優れた我が魔王に選ばれた。いや、生み出されたというべきだろうか」


「生み出された……ですか?」


「あぁ、我は今から十年程前に『知恵と力の結晶』から人工的に作り出された悪魔だ」


 人工的に作られた……。ホムンクルスとかそういう感じの種族って事か。

 それに十年前ってまだ子供じゃないか。いや、俺が言えた事じゃないけど。


「では、私とナル様は同い年なのですね」


「は?」


「あ、言ってませんでしたね。私も今年で十歳なんです。ですから、同い年ですね」


「……ぶふっ――!!」


 ナルナガが噴き出した。


「あは、あはははははは!! 同い年! 今の話を聞いて『同い年ですね』だと!! 貴様は我を楽しませる天才か!」


「え、えぇ、私、何か変な事でもいいましたか?」


「変な事? あぁ、そうだ。貴様は変だ! ミーナよ! 普通、今の話を聞いてまず気になるのは『知恵と力の結晶』や我が作り出された人形である部分だろうよ!」


 えぇ、そう言うのって聞いたら後々めんどくさそうだし。

 聞いた方が良かったのか? でも十歳だしな。自分語りをしたいのかも知れない。


「えっと、ごめんなさい……」


「良い。良いのだ。()は愉快だ。()はとても愉快な気持ちだ」


 そう言って少し乱暴に俺の頭を撫でるナルナガはどことなく潤んだ目で優しくこちらを見て笑っていた。

 というか、こいつ、なんか一人称変わってないか?


「ミーナよ。明日、こっそり書斎まで来い。良い事を教えてやる」


 そう言って立ち上がるナルナガ。


「今宵はいい気分で寝れそうだ。ミーナよ。貴方のおかげだ。ありがとう」


「……」


 ‘綺麗だ,と口から零れそうになった言葉を飲み込んだ。

 月明かりが顔に差し、先程まで薄っすらとしか見えなかったナルナガの顔はとても朗らかで嬉々としていて、とても少女らしい物だった。

 ナルナガは自分を人形と言っていたが、本当にそうかもしれない。

 でなければ、この美しさは反則だ。

 俺は風呂場に入って来た時の鬱々とした気分など忘れて、良いものが見れたと高揚した気分になっていた。

 もしかしたら、ナルナガはこうなると思って気を使ってくれたのかもしれない。


 ……まぁ、それは無いか。

ナルナガは良い魔王ですね(矛盾)

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