前々魔王でした
しかし、カナムラってこんなにスキンシップする奴だったか?
昨日はそうでもなかったよな……。
「ミーナさん。目を瞑っていた方がいいですよ」
「ん、あぁ」
そうだな。目を開けたままだと酔いがひどくな『聞こえますか?』……。
そうだな。目を開けたままだと酔いが『聞こえますか?』……。
あれ、なんでカナムラの声が聞こえるんだ?
『今、あなたの脳に直接語りかけています』
あ、なんかそのセリフ聞いた事ある。
『貴方の記憶にある言葉を使って今の状況を説明するならテレパシーです』
テレパシー? す、凄いなそれ!
内緒話しほうだいだ!
『まぁ、私から一方的に話しかけることしかできないんですけどね』
あぁ……なんか一気に凄さ感じなくなったな。
いや、凄いっちゃ凄いんだけど。
『だから、聞こえているかどうか分からないんですよね。一回、確認させてもらいます』
え、確認? 聞こえてたら手を上げてとかか?
『バーカバーカ。お前の前世ヒキニート!』
「誰がヒキニートだ!!?」
「えっ!? どうしたのミーナ?」
「あぁ……いや、なんでもない……」
「そう??」
突然大声を出すから奈々葉が驚いてしまった。
ちなみに前世の俺は就活してて、たまたま無職だっただけで引きこもってもニートでも無かったから。ホントだから!
……いや、ニートは間違ってないのか?
『ちゃんと聞こえている様ですね』
というか、なんでカナムラは俺の前世を的確に当てられるんだ……。
この世界にヒキニートという言葉があるのもびっくりだし。
『それでは単刀直入に要件だけ伝えさせていただきます』
あぁ、そうか。何か用があるからテレパシー(一方的)してきたのか。
『ミーナ……私、あなたに惚れてしまいました。抱かせてください』
……ホワイ!!?
何!? 惚れ……抱く!?
『正直、昨日の時点でも大分危なかったんですが、ミーナの体をコピーした時から惚れ具合が半端ないんです。安心してください優しくするので』
いや、優しくするってすること前提で話を進めないでください!
『OKだったら右手を良かったら左手を上げてください』
あれ、NOって選択肢がなくない!?
『ダメなら両足を上げてください』
な、なんでNOだけ難易度が高いの!?
この狭い馬車の中で両足を上げるって!!
くそっ、やってやる! やってやるよ!!
俺は、渾身の力で両足を上に上げる。
「えっ、ミーナ!? どうしたの!? なんで足を上にあげてるの!?」
「ぐ、具合が悪いときはこうするといいって親に教えられてて」
「絶対に騙されてるよそれ!?」
「チッ……」
カナムラに舌打ちをされた。
「ほら、もうすぐ帰り着くから大人しく寝てて」
「あ、あぁ」
なんか、驚きで気持ち悪さを忘れてしまった。
もしかして、カナムラは俺の酔いを治すために……。
『別に少しくらいいいじゃないですか』
いや、本気でする気だったのか。
それにしても、なんでカナムラは俺にほ……惚れてるんだ?
『恐らく、ミーナが疑問に思っている事の説明をしますね』
俺が疑問に思っている事?
『私はコピーした人のそれまでの記憶もコピーできるんです。ここまで言えば、なぜ私がミーナに恋をしているのかわかるんじゃないですか?』
記憶もコピー……それってもしかして……。
『それにしても、ナナ様が話していた『彼』があなただったとは……。最初は驚きました。前世からの想い……素晴らしいと思いますよ』
あ、あぁぁ、そこまでバレてたのか!?
こいつ、表情筋が動かさなさすぎて全然感情が読み取れないんだけど!!
『でも、今世は今世の恋をするべきだと思いますよ。そう、例えば……私とかカナムラとか前々魔王とか』
おい、それ全部お前じゃないかって……前々魔王?
『あ、話してませんでしたね。私、ナルナガ様の前の魔王ですよ』
……。
「えぇ!? 何その新事実!!?」
俺は驚きのあまり、跳ね起きてしまう。
「えっ!? さっきからどうかしたの!?」
「い、いや、なんでもない……事もないけど、大丈夫」
「そ、そう? 何かあったらすぐに言うのよ?」
なんで奈々葉の家に魔王が二人もいるんだよ……。
『あんまりナナ様を驚かせるのはダメですよ?』
いや、驚かされたのは俺なんですが。
「あ、着いたよミーナ。今日は疲れてるみたいだし、部屋で横になりましょうか」
「え、あぁ、うん」
馬車が止まる。俺はそそくさとカナムラのそばを離れる。
なんか、「もう少しくらい」って聞こえた気がしたがしらない。
俺はその日、カナムラと目を合わせないように行動した。
だって、怖いし。




