第二話
律夏は夢を見ていた。
律夏の両親は死神で、律夏が生まれて産声を上げた時、落胆した。なぜかというと、死神の涙は死者に命を与える為、生涯泣くことを許されていないのだ。そのため、死神の赤ん坊は生まれる時に産声を上げないのだ。そして律夏の両親は死神の子どもが欲しかったのだ。落胆し、あきらめた目で律夏を見やると、魔法使いである特徴青い目が目に入った。その瞬間両親の律夏を見る目が変わった。「この子は使える」と。その2年後に律夏に弟が生まれ、弟は泣くことなく、生まれてきた。両親はやっと迎えた死神の我が子を嬉しそうに抱きかかえた姿をまだ幼かった律夏の記憶に焼き付ている。
「おとうさん、おかあさん。私はいらない子なの?」
幼い時に両親に聞いた言葉。
「いらないわけないじゃない!あなたは使える子なのよ。」
その時はいらない子ではないとわかっただけでうれしかったが、今になって考えてみるとその言葉の意味がよくわかる。
私は魔法使いとして使えるだけで、子どもとして必要なわけではない。
言葉の意味を理解するようになった時に幼少期を思い返すと思い当たる節があり過ぎて、律夏が両親の事を嫌いになるのに時間はかからなかった。幼少期に律夏は死神にとって便利な魔法使いの能力を両親や弟にこき使われ、様々な魔法の使い方を自分の意思とは関係なく覚えてしまうことになったのだ。それが、魔法の天才少女と呼ばれる理由になったのかもしれないが、それは律夏にとっては嫌な過去でしかない。その経験が理由となり、律夏は死神という存在が嫌いになったのだ。両親が嫌い、弟が嫌い、死神が嫌い。死神なんてみんな一緒だ、死神なんて大嫌いだ。これが律夏に植え付けられた幼少期の傷でもある。
朝
目を覚ますと見慣れた天井が目に入ってくる。
「悪夢だ」
静かにそうつぶやくと、ベッドを出て洗面台に向かった。
「おはようラナ。」
「あ、おはよう律夏!」
洗面台に行くと何やらいそいそと支度をしているラナが目に入った。
「今日はやけに早くない?」
「うん。今週は週番だから・・・。」
「あーなるほど。」
「しかも、塚本君とだから!もうはりきっちゃうよ!!」
「だからそんなにおめかししてるのか。」
うるさいぐらい元気なラナを見て先ほどの悪夢が吹っ飛ぶような気がした。
「まぁね。そういうことだから先に行くね!」
「いってらっしゃい。」
うきうきとした様子のラナを見送ると再び静寂が訪れた。幼少期はこのような静寂にも慣れっこだったが、同室のラナのせいで静寂がこんなにも寂しい物なんだと改めて感じ、自分の中でのラナの大きさに気が付いた。
何事もなくその一日が終わり、律夏は部活を終え、帰路についていた。
昨日翔希と出会った場所につき、誰もいないことに落胆した。
「また会えるかと思ったんだけどな。」
その願いもむなしく、律夏はそのまま家に帰ることになった。少し裏路地に入ったところで、一人の男性を見つけた。うずくまり、苦しそうにしているので、さすがに声をかけないわけにいかないと感じた律夏は静かに近づき、声をかけた。
「どうしましたか」
「ううう・・・」
声をかけても苦しそうな声しか返ってこなかった。
「・・・救急車呼びましょうか?」
「・・・」
返答もないので、もう救急車を呼んでしまおうと携帯を取り出したその時だった。
先ほどまで苦しんでいた男が急に動き、律夏の持っていた携帯を遠くへと飛ばしてしまった。
「ちょっと、何するんですか!」
そう男に声をかけて、携帯を取りに行こうとすると腕をつかんでその行動を阻止された。
「ちょ、離してください。」
「魔女さんが一人でこんな時間に何をしているのかな?」
律夏はハッとなってあたりを見渡した。すると周囲には10人ぐらいの男が律夏と目の前の男を取り囲んでいるではないか。
魔女狩りだ。
律夏は瞬時にその状況を理解した。
「こんなところを一人で歩いているなんて、不用心がすぎるんじゃあないですかね?」
そういうと目の前の男は牙を見せ静かに笑った。
「吸血鬼・・・」
「ふふ。ご名答。魔女の血はうまいからな・・・さっそく」
目の前の吸血鬼は牙を突き立てようとした。
「あんたたちみたいな雑魚な魔女狩りにこの私が臆するとでも?」
律夏のその言葉で男の行動は一瞬止まった。
「なんだと」
その時律夏は周囲にいる男の姿をみな空中に投げだし、洗濯機の要領でぐるぐると回した。
しばらくしてから全員を地面に叩きつけるように落とした。
「女の子一人ならやれるとでも思った?バカだね、お疲れ様!」
そう言った律夏を一人の男が捕まえ壁に叩きつけた。
「あはは。僕たちが用心してないとでも?ご愁傷様、かわいい魔女さん。」
自由がなくなった律夏の目の前にいるのは、さっきの吸血鬼と比べると桁が違うほど大柄な男だった。そんな大柄な男に押さえつけられては、律夏は何も抵抗することができなかった。
「やれ」
そう言われた大柄の男は律夏に牙を突き立てるべく、大きな口を開け、立夏の首筋にかみついた。
「きゃあ!」
あまりの衝撃に律夏は声を上げた。
「あーっははははは!いいぞ!もっとやれ!・・こういう魔女を痛めつけるのがどんなに楽しいか!・・・あははははは」
痛みと遠のく意識の中、律夏が目を閉じた、その時だった。
「うわ!なんだお前!」
「止めろ!!」
そんな声が聞こえて、大柄な男の感覚が体から離れた。律夏はその場に力なく倒れ、地面に体を叩きつけた。ゆっくりと目を開けると一人の大きなかまを抱えた黒ずくめの男が立っていた。
「くそ、なんだこいつ!」
「去れ、それは俺のものだ。」
そんな声が聞こえる中、律夏の意識はそこで途切れた。
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