最強の吸血鬼がお仕事をするそうですよ?
おまたせしてほんとーに!ほんとーに!申し訳ございません!夏は受験の天王山ということで勉強に邁進(少しゲームをしつつ)しておりました!
どうぞ!
アルスは異世界の文字がわからないとマックス達に告げた。
「あんちゃん・・・なんで娘の依頼受けたんだよ?文字読めなきゃ意味ねぇだろ」
「どうするお父さん?返品する?」
シャロッタは呆れ顔で釣られたマグロみたいな状態から復活したマックスにそんなことを言う。衝撃の新事実。アルスはクーリングオフできるらしい。
「いや、数字は読めるから計算は出来るのだぞ?収支とはどう書くかだけ教えてほしい」
「はあ、シャロッタ。それぐらい教えてやれ。もうすぐ夜だ、仕込みを始めなきゃいかんからあんちゃんに構ってる暇はもうねぇぞ」
マックスにそう言われて渋々引き下がるシャロッタ。アルスは『収支』という文字を覚えた!・・・えらく使い道が限定される文字であるが。
「ふむふむ、140、310、310、240・・・多分だが読めない文字は料理名を書いてるのだな。310の所が同じ文字の配列であるし。というか・・・どっちが収入でどっちが支出を書いておるのだ?」
まあ、数字の小さい方が支出だろうと勝手に決めつけてアルスは食堂のテーブルを一つ陣取って纏め帳を見つつ計算していく。邪魔でしょうがない。
そんなこんなでカキカキしていると1人の女性がアルスの前にお茶を出してきた。芳醇な香りにアルスは手を止め、目を纏め帳から離す。
「おお、すまぬなシャロ・・・ん?シャロッタ、お主いつの間に大人になったのだ?ついさっきまで少女であったと記憶していたのだが」
「ふふ、娘に聞いたとおりの方ね。はじめましてアルスさん、私はシェリー・ロナウドと申します。シャロッタの母ですよ。シャロッタは今マックスさんと一緒に料理の仕込みをしてますよ」
シャロッタによく似た女性はシェリーと名乗った。母親の可能性より先にシャロッタが数時間で成長した可能性を考えるあたり、アルスらしい。
すみませんまだまだ話したいのですが私も仕事がありますからまた後で、とシェリーがアルスのもとを離れていった。
そのお茶を啜りつつ、ときにこぼして纏め帳を芳醇な香りにしながら30分後、アルスは全ての収支計算を終わらせた。
「しっかし、この纏め帳一冊で3日分なのか・・・いや、文字列が切れて余った余白を使わずに次のページに行ってたからそう判断しただけなのだがな?」
「あんちゃん一体誰に向かって言い訳してんだよ・・・あと、そこに書かれているのは1日分だ。朝昼晩で分けてんだよ。それで3日分ならこの宿潰れてるわ」
マックスがため息を付きながらアルスに近寄る。常識だろ?あ、こいつ常識なかったわと自己完結しているマックスにアルスはキメ顔十六連射してやろうと決意する。
「なあ、ギル単位がいいか?それとも金貨何枚、銀貨何枚みたいに言えば良いのか?」
「俺は金貨銀貨で数えてくれた方が良いな」
「まあ、銅貨一枚が何ギルとか分からぬからギル単位でしか言えぬのだがな」
「俺に選択肢最初から無かったじゃねえか!あとなんで纏め帳からお茶の匂いすんだよ?こぼしやがったな!」
マックスが憤慨するがアルスは全く気にせずに結果を報告する。
「一日で34760ギルだ。これは・・・稼いでいるのか?」
「あんちゃん・・・やっぱあんた計算できねぇだろ!」
「なぜだ!?」
「30000ギル以上あったら毎日黒字だわ!仕入れは一応銀貨20枚以内・・・あ~、え~っと、う~んと、そう!20000ギル以内に収めようとしてんだからな!」
俺だって数の大小ぐらいは判別出来るぜ!と胸を張るマックスに対抗してアルスも胸を張る。特に意味はない。
それはさておき、計算は合ってて黒字だと主張するアルスと計算が間違ってて「合ってたらこんな店苦労してねぇよ」と呆れるマックス。どっちが正しいのか、お互いに譲らず話は平行線のまま遂にお客さんが来てしまった。
「ちっ、まあいい。取り敢えず依頼を受けてくれた礼だ、収支の真偽はともかく賄いの一つぐらい出してやるよ」
「む、ありがたい。お腹が空いてきたのでな」
「わかった。白湯で良いよな?」
「いただこう」
白湯とはどんな料理なのかと期待するアルス。彼が白湯はあったかいお湯であるのを知るのはそれから2分後の事であった。
閑話休題
「うーむ、沸騰してボコボコ泡立つお湯。完全に舌を火傷させようとしてきておるよな•••」
まあ、飲むのだがな?とボコボコ泡立つお湯が入った湯呑をグイッと傾け一口飲むアルス。熱がらないアルスを見て舌打ちをする男を尻目にアルスは食堂を見渡す。
(商売は上々、というか全てのテーブルが埋まるほどの人気店ではないか。やはり我の計算は正しい)
うむうむ、と一人勝ち誇った顔で頷いているアルスは、ならば何故この宿屋は経営が苦しいと言うのか?という点に疑問を持つ。そして•••
(なるほどな。あれが原因であるか•••ああ、あれもであるか)
問題点を見つけて一人納得するアルス。アルスの優れた聴覚は騒々しい食堂の内でシャロッタと客の会話を聞き分けていた。
そして、閉店後•••
「おつかれーって、あんちゃんまだいたのかよ。もう店じまいだぜ、泊まるとこなけりゃ俺の宿に泊まってけよ。あ、もちろん金は取るぞ?有料だからな?決してタダで泊まらせてやる訳じゃねぇからな?」
マックスはアルスに再三有料である事を言う。言わなければアルスは「そうか、助かる」とか言って無料で泊まりそうな気がしたからだ。実際正しい。
「•••1番テーブル、『貝とララマウサーモの香草包み焼き』が2つにエールが4」
「何言ってんだあんちゃん?」
「いいから纏め帳持って来るがいい。我の記憶力を見せてやろう」
いきなり記憶力めっちゃ良い自慢をし始めるアルス。だが今回に限ってはアルスは真剣だった。
その顔を見て何かあると感じたのかマックスは素直に芳ばしいノートを持ってきた。
「その纏め帳と我の記憶を重ね合わせるぞ。最初に来た2人の客は1番テーブルに座り『貝とララマウサーモの香草包み焼き』を2つ頼み、エールを2杯飲み物に選んだ。その2人は一杯ずつおかわりをして会計」
「当たってやがるな。だが、それだけじゃ「次に来た客は6人。7番テーブルに座り『モウカーフのステーキ』が6、『スベニシャークのフカヒレスープ』が2、 『ポテトサラダ』が1、『ジュークフィッシュの天ぷら』が3にビールが12杯。どうだ?」•••正解だ」
アルスは次々と客の数、何番テーブルに座ったか、何を注文したかを正確に告げていく。最初は半信半疑だったマックスもピタリと当てていくアルスを見て考えを改めた。
「ラストオーダーにビール3杯•••で、全部当たっていただろう?」
「あんちゃん凄えな•••俺らでも書かなきゃ覚えれねぇのに全部覚えてるのか。んで、何で今記憶力めっちゃ良い自慢してきたんだ?宿代は安くしねぇぞ?」
・・・ドヤァ。
「本当に自慢したかっただけかよ!?」
ドヤ顔をするアルスにイラッとしたマックスはテーブルを拭いた布巾をアルスに投げつける。アルスはドヤ顔のまま布巾を避ける!空気抵抗により不規則に動く布巾の着弾点を予測しアルスは真横に跳んだ。布巾は空気抵抗で失速してアルスの手前の床に落ちる。アルスのその姿は・・・とてもダサかった。
「ごほん!あー、まあ目的は他にある。我が記憶した料理の値段と注文された数を計算したところ、23040ギルだったのだが」
「はっ?あんちゃん、まーだそんな事言ってんのか?そんな訳ねーっつうの!」
記憶力を自慢するだけで自分の言葉を信じてもらえると思ったアルス。初めて顔を会わせた人がいきなり「ワタシCIAノ幹部ナノデーッス!アナタネラワレテマースヨ?」と言ってきたところを想像すれば分かりやすいだろう。
そう、信じられるわけ無いのだ。自分のいつもの境遇と他人の言葉、その2つが真反対だった場合、どちらが信じやすいかなど火を見るより明らかだろう。
だが、アルスは腐っても、腐りきっても、腐り果てても吸血鬼の皇帝。催眠術などといった人の心を操作する技は得意中の得意なのだ。
アルスはおもむろに財布から5円玉を取り出す。その5円玉には糸を通してあった。
「いいか?この5円玉を良く見ているがいい···」
「ゴエンダマ?その穴の開いた金属はゴエンダマって言うのか?」
「いいから見るのだ!」
アルスは5円玉を左右に揺らす。マックスはそのゆっくり左右に揺れる5円玉にしびれを切らしてアルスから5円玉を奪って遠くに投げた。
「お主はだんだん我の言う事がああああああ!我の5円玉!我の5円玉がああああ!貴様ぁ!良くも我の5円玉を捨てよったな!」
「うるせええええ!ゴエンダマだかゴマダレだか知らんがゆらゆら揺れてるあれ見てるとイライラしてくんだよ!俺は朝の仕込みしなきゃならんの!くだらねぇ事で時間使わしてんじゃねぇよ!」
アルスの財布の残額が17円になった。
「うー···我の5円、我の5円〜···」
「アルスさん、掃除の邪魔なんだけど」
四つん這いになってカサカサ動き回るアルスに引きながらシャロッタは箒でアルスを突っつく。アルスは避ける。
「はぁ···で、結局何が言いたかったのよ?お父さんから愚痴みたいに言われたから大体何言ってたか理解したけど、やっぱりアルスさんの計算は間違ってるわよ」
「お主まで···まあ、経営が苦しいのは当たり前だと思うがな」
「···どういうこと?アルスさんの計算が合ってたらアルスさんはお主が苦しいのはおかしいではないか〜とか言うのが正しいんじゃない?」
「きっちり払われていたら、であるがな?」
アルスが四つん這いになりながら投げられた5円玉を探してつつ言った一言にシャロッタは固まる。カサカサカサカサ···
アルスがいくら探しても5円玉が見つからずしょぼんとしながら立った所でシャロッタは再起動した。
「じゃ、じゃあアルスさんはお客さんがお勘定をきちんと払ってないって言うの?」
「はぁ···我の5円玉···」
「聞きなさいよ!」
シャロッタが箒でアルスを叩く。ポスっと頭に当たるがアルスは気にせず凹んでいた。
「···我が見た限りでは勘定を済ませずに出ていった奴が15組。正しくお金を払わなかった奴が23組。後は自分で考えよ···うぅ···」
アルスは椅子に座って机に突っ伏す。このままふて寝するつもりである。当然叩き起こされたアルスはシャロッタに箒の柄を突きつけられた。
「ちゃんと説明しなさい!」
「はぁ···我がこの食堂全体を見続けていたのは分かるな?」
「うん。なんかお湯すすりながらキョロキョロしてたのはずっと見えてた」
シャロッタがうなずく。アルスは机に顔をへばりつかせながら言った。
「この食堂は今までマックス殿の母君···つまりシャロッタの祖母が建てたとマックス殿が言ったのを覚えているが、真か?」
「う、うん。もう死んじゃったけど」
「なら、話は早い。この食堂が抱える問題点は2つ。店員全員が計算出来ない事と単純な人員不足だ。計算が出来ないから客が正しい金額払ったか分からない、人が居ないから食い逃げが容易に出来る。客にとって計算の出来ん店などただのカモだ」
その言葉を聞いた瞬間シャロッタは箒を取り落とす。そんなあり得ない、間違いだと思うが彼女の脳内は否応なしにアルスが行ったことを理解していく。
そもそも、シャロッタも疑問に思ったことはあるのだ。いつも席は満席近く、そんなに寂れているわけでもない。なのに何故お金はたまらないのかと。
だが彼女は自分たちの計算がおかしいのだ、お客様がそんなことをするはずがないという固定概念に捕らわれて事実に気付けないでいた。
「自分が出した自信のない答えと他人が自信満々に出した間違った解答···どちらが信じられるかなど、すぐわかるだろう」
アルスが机についた傷を指で撫でつつ言葉を締める。シャロッタはその場に崩れ落ちた。
沈黙の時間が過ぎる。呆然とするシャロッタを横目に見つつ、アルスは意識を夢の中へと飛ばした···
はい、すみませんまたまた遅れてしまいました…
気づけばpvが2000を越えていて…もうあれですね!ss書かないと許されませんねこれ!
近々書きたいとは思ってますがその前に…。
次の話は少しグロテスクな場面があります(予定です)ので飛ばしても構いません、というか飛ばしてもわかるようにしますのでご安心を。
今話はちょっとだけアルスの良いところが見れましたね!カサカサ四足で動き回る彼。う、ううん…良いところ?
そういえばですね……感想をいただきました!初感想ということでこの沙流、舞い上がっております!舞い上がりすぎて今日当たり星空を見上げたら私が見えるかもしれませんよ!
まあ、そんな冗談は置いておいて···
感想にはキャラの説明が欲しい!と書かれていましたのでどこか……ロザーナの街編が終わったらキャラ紹介やろうかなぁ、と漠然と思っております。まだ具体的には決まってません。あ、内容は既に出来てるのでご安心を☆
………更新速度的に安心できないねぇな。
みなさんも感想の所に「〇〇して欲しい」とか「〇〇な所直してほしい」とか「沙流の顔が悪い」とか「沙流の更新速度が悪い」とか………書かれてたら泣きながら治します☆(本当に顔が悪いとか書かれたらどう治したら良いんだ……整形?)
〜〜アルス仕事中の一幕〜〜
アルス「ずず〜···はぁ、しっかしこの茶は美味いな。茶葉を教えてもらって自分で淹れてみたいものだ」
(地球にいた頃を思い出すアルス)
ほわわ〜ん☆
アルス「セイラよ!我はお茶を淹れてみたぞ!」
セイラ「まーた何かの漫画に影響受けたんですね···で、その漫画はどこにあるのでしょうか?私達はそんな娯楽を買えるほど裕福では無いのですがねえ。」
アルス、目がバタフライ。
セイラ「はあ···まあいいでしょう。王がお茶を淹れたという珍しい光景が見られたので不問としましょうか」
アルス、ほっと一息。
アルス「それでだな!この茶を飲んでくれ!我の自信作だ!」
アルス、セイラの目の前に湯呑を置く。
セイラ「···なんですかこれ?」
アルス「茶だ!」
セイラ「なんでこんなうすい色なんですか!?ほぼお湯ですよ!茶葉に対してお湯どれだけ入れたんですか!」
アルス「ん?漫画で見た通り茶葉1袋につきやかん一杯の水だ」
セイラ「そ、それではこの薄いお茶はどうやって···」
セイラ匂いを嗅ぐ。ほのかに香る土の匂い。
セイラ「一応聞きますが王?このお茶の茶葉···どこで採りました?」
アルス「セ、セイラよ、顔が怖いぞ。これはだな漫画でやってたとおり草むらから適当に取った雑草だ!」
セイラ「それは草むらではなく茶畑です!適当でもなくちゃんとした茶葉を採取してるんですよ王!王のこれは茶とも呼べない雑草を煮たやつです!」
アルス「で、でもちゃんと今まで食ってきた中で美味しいの選んだぞ···?」
アルスの食生活について、もう少し改善してあげようと思ったセイラであった。