年末SS!大晦日
はい。すみません。受験も佳境に入り、まともに執筆できる時間が取れませんでした···
今回は大晦日のお話です。(SS2連続となってしまい申し訳ございません···本文もちゃんと書いていますので)
12月も終わりに近付き、そろそろ年が変わるという12月31日。世界中が新たな年を迎えようと躍起になる中、アルス達は···
「ぶえーっくしょい!ずずっ···外は冷えるな」
「王、つべこべ言わずに手を動かしてください。玄関に溜まったホコリや土を取り除かなくてはならないのですから」
玄関の扉を開けっ放しにして掃き掃除をしていた。
「王、今年ももう終わりです」
「そうか、もうそんな時期か。今年の紅白は誰だったか」
「その番組は午後6時から始まりますから、それよりもやるべきことをやりましょう」
「ん?冬休みの宿題ならもう終わっておるが?」
「確かにそれもやるべきことですが···」
セイラはそこで言葉を区切るとバケツと雑巾を置く。···コタツが汚れないようにコタツで温もっていたアルスの頭の上に。
「···セイラよ。我は最近思うことがあるのだ」
「なんですか?王」
器用に頭にバケツを乗せながらアルスは手を組んで、真剣な顔をして一言。
「我、王として敬われておらぬような気がする···」
「うふふ、さあ、大掃除をしますよ」
「笑って誤魔化しよった!?我、王ぞ!?」
「まずは廊下の拭き掃除からですよー」
「セイラ!?」
閑話休題
「まずは廊下の雑巾がけです」
「我王なのに···まあ良い、雑巾がけか?学校でもよく掃除の時間にやるからな。これは出来るぞ!」
そういって雑巾をザブザブとバケツに入った水に塗らし、廊下を拭き始める。廊下は水浸しになった。
「王、カムバック」
「何だ!?王として威厳が見えて褒め讃えてくれるのか!?」
「雑巾がけで王の威厳が見えたら私は泣きます。そうでは無くてですね、この廊下の惨状を見て何か思うことはありますか、王?」
セイラが指差す先には水に濡れて光る廊下が。
「···光っておるな。我は一拭きでこの廊下をピカピカにしてしまったというのか!?ふっ···やはり我にかかれば廊下掃除など容易い」
「あの光は水滴です!雑巾を絞ってください!フローリングの床なんですから後でワックスもかけるんです。汚れを取って水気を取らないといけません」
「ん?水を使わず汚れを取れれば結局のところワックスをかけるに最適な床になるのだろう?」
「?まあ、そうですけど···」
セイラがアルスの発言に困惑しながらも同意すると、何かを思いついたのかアルスはドタドタと自分の部屋に行き、何かを持ってセイラの元に戻る。
「ふっふっふっ···セイラに『たまには自分の部屋も掃除して下さい』と言われて買ったこれが役に立つようであるな!」
背中に隠して自信満々に言うアルスにセイラは呆れた目を向ける。
「王、クイックルワ○パーが背中から見えてますよー」
「なっ!?···ま、まあいい。このクイ○クルワイパーさえあればどんな汚れもピタッと吸着してくれるのだ!」
「で?そのピタッと吸着してくれるシートは何処に?」
「ん?」
「え?」
固まる2人。どうやらアルスはクイックルワイ○ー単品で汚れを取れると思ったらしい。
「···掃除、しましょうか」
「やめてくれセイラ···そんな温かい目を我に向けるでない···」
アルスはきつく絞って、先程まで四角かったのに絞った瞬間ボロボロに千切れた雑巾を片手に廊下をいそいそと拭き始める。千切れたことで隅をキレイに拭けるようになったのがせめてもの救いだろう。
「次は窓拭きです!」
「窓を拭くのか?よし、任せるのだ」
「はい、ストップです王。それ以上動いたら年越しそばのそばが雑草に変わりますよ?」
「ぬぅ···っ!」
アルス、硬直。そのすきにセイラはアルスから『廊下を拭いたあとの』雑巾を回収する。
「窓ガラスは古新聞を濡らして掃除します。新聞の活字に使用されるインクはガラスのツヤを出しながら新たな汚れを付きにくくする効果があるんですよ」
「なるほど、新聞紙に使われるインクの油分が界面活性剤の役割を果たすのか···」
「というわけで、はい」
セイラに新聞紙を渡されたアルスは新たにバケツに組んできた水に新聞紙を濡らして先程言われたとおりに絞る。新聞紙は紙クズに進化した。
「···王」
「言うな!我も若干『掃除向いてない』と思っておるが言うではない!」
「私がやりますから王はサッシでも拭いておいてください···」
「サッシ?とはどこのことを指すのだ?」
「窓枠の事ですよ王。sashとも呼ばれていまして、ドレスの胴まわりなどに巻く幅の広い装飾用の帯状の布、『サッシュベルト』が語源と言われています」
「···たまに思うがその雑学、どこから仕入れておるのだ?」
「まぁ、長年生きていますと知識ばかりが増えていきまして」
2人で他愛ない会話をしながら窓を拭いていく。途中アルスが窓を割ってしまって魔法で直したこと以外は特に滞りなく窓掃除を終えた。
「後は風呂場と洗面台と···お手洗いと台所。各部屋のお掃除ですね。終わりが見えてきました」
「違うのだ···サッシが脆いのが悪いのだ···」
「アルミ製のサッシだからといって、常人は古新聞で掃除するだけで『サッシが曲がる』ことはありません。それよりもここからは役割分担です。私は洗面台と台所をしますので王は風呂場とお手洗いの掃除を···いえ、止めておきましょう」
セイラが役割分担をしようとした時に今までアルスがまともに掃除できていないことを思い返し、その提案を取り下げる。事実であるがゆえにアルスはそれに対して怒ることが出来ない。
こうして、昼食をとって一休みしたあと2人は一緒に家の掃除を再開する。洗面所ではアルスが感電したり、風呂場ではアルスが混ぜるな危険の洗剤を容赦なく混ぜて大騒ぎになったり、トイレではアルスが便器を破壊したり···と、てんやわんやしながらも掃除を進めていく。
「ぜはー···ぜはー···大掃除とはこんなにもスリリングなものであったのか」
「多分、こんなに危険なのは王だけかと···」
びしょ濡れになって四つん這いになってるアルスにバスタオルを渡しつつセイラが言う。時刻は午後3時。残すところは···
「後は部屋の掃除ですね。私の所は昨日のうちに終わらせてありますから、王の自室を掃除しましょう。もちろん、2人で」
「いや!我の部屋ぐらいは我が掃除するぞ!」
「そういって去年、一人で掃除した結果が家半壊でしたよね?」
「···」
諦めたアルスが自室にセイラを招き入れる。雑誌やら漫画やらで床は足のふみ場もなかった。
「定期的に掃除しに来るしかありませんね···」
「それは勘弁してほしい···」
「ならちゃっちゃと掃除しましょうか。王は取り敢えず本棚に漫画を全部入れてください」
「うむ、わかったぞ」
アルスは床に落ちてる漫画を手当たり次第に本棚に入れていく。それをセイラが片っ端から向き、巻数、種類を整理していきながら足のふみ場を作っていく。雑誌を一纏めにして紐で括り、部屋の片隅に置いておく。
「王···確かに我々は同じ学校に通っていますから連絡事項は私が把握していますが、せめて連絡用プリントはゴミ箱に入れましょうよ」
「そう思ってゴミ箱を買ったのだがな?いつの間にかゴミ箱がいっぱいになってしまって入らなくなってしまったのだ」
「定期的に捨てないからですよ。いつも火曜と金曜に聞いてますよね?『捨てるゴミはありませんかー?』って」
「うっ···面目ない」
「はぁ···ゴミ収集車が来るのは年明けですから、それまでビニール袋に入れて纏めて置きましょうか」
セイラがゴミ箱をビニール袋の中でひっくり返しゴミを入れる。ついでにアルスの机も整理して要らないプリントも共にビニール袋に入れていった。
アルスはその間に自分の服を整理していく。
「うーむ。サイズは全て去年と変わらぬから特に小さくなったから着れぬというものは無いな。お?このセーター穴が空いておるな」
「虫食いでしょうね。···って王、自分の洋服タンスの防虫剤が去年から変わってないんですけど?」
セイラが穴開きのセーターを見ようと近付き、アルスにジト目を向ける。アルスはそこで思い出したかのように、
「あー···家が半壊したゴタゴタで忘れておった」
とセイラに弁明した。
「まあ、これぐらいなら直せますからいいんですけど。ちゃんと防虫剤は毎年変えてくださいね?」
「肝に銘じよう···だが、本当に直せるのか?」
「はい。セーターの穴を裏側から2周、波縫いしてから糸を引っ張ってその糸を結んびます。そしてスチームアイロンをかけるとその部分が熱で伸びるので補修跡が目立たなくなるんですよ」
「···おかんみたいだな」
「誰がおかんですか!」
では私は少しこれを直して来ますね、とセイラが部屋を出ていった瞬間アルスはとある行動に出る。
ベッドの下に自分の影を伸ばし、そこにあるもの全てを影の中にしまう。たったそれだけ。だが、吸血鬼は感覚が鋭く魔法が行使されると勘付かれてしまうため、アルスはセイラが出ていった今でないと使えなかったのだ。ベッドまで影の中に入れてしまってちょっと焦ったのはお約束だ。
閑話休題
「どうですか?これでキレイに直りましたよ」
「お、おう。確かに何処が虫食いされておったか全然わからんな」
セイラが戻ってきてきれいなセーターを見せてくる。アルスは魔法を使ったことがバレてないか冷や冷やしながらもセイラの手際を褒めた。
その後もテスト用紙やカバンの下でくちゃくちゃになったプリントで怒られながらも魔法を使ったことはバレずに掃除を進めるアルス。
「さて、あとは軽く掃除機を当てて終わりましょうか」
「うむ。しかし、疲れた···」
「そうですね。魔法を使えば一瞬で終わりますけど、こうやって手間暇かけて掃除するのもたまには良いでしょう」
「そっ、そうだな。たまには良いものだな!」
魔法というワードに動揺しながらも同意の言葉を返すアルス。冷や汗をかくアルスを見て不審に思いながらもセイラは掃除機を持ってきた。
やけにホコリが少ないと思いつつ掃除機を当てて、時刻は午後の5時。セイラは買ってきておいたそばを茹でつつ、エビの天ぷらを揚げる準備をする。
「うーん、やっぱり高温で揚げれるフライヤーとかあったらもっと上手に天ぷらが作れるんですけどねー」
「フライヤーは···ぬぅっ、5700円からか···」
「現状お鍋に油を入れて揚げれますからね。フライヤーを買うほど私達は裕福じゃありませんよ」
器出してください、とセイラに言われアルスが皿を出して呆れられつつも年越しそばが出来上がる。
「いただきます」
「いただくぞ」
コタツに入って温もりながら2人でそばを啜る。ホッと一息ついてアルスとセイラは今年一年を振り返る。
「今年も忙しい一年でした···」
「我は今年は楽しい一年だったぞ」
「いきなり高校に通うぞ!と言われて学費を捻出するのに苦労しました···」
「仮想通貨なるものが一時期流行った時に出した利益で学費は何とかなっただろう?」
「その後、盗まれましたけどね···」
「学費を捻出できて、更に儲けようとした瞬間の出来事であったな···」
「人間、欲に溺れたら痛い目を見るんですね」
「我らは吸血鬼だがな」
「入学一日目にしてセイラの下駄箱にラブレターがぎっしり詰まっておったな」
「あれには本当に悩まされました···断っても断っても来るんです。人間の執念というものは恐ろしいものだと思いましたね」
「それで我がラブレターを出さなかったら、いつの間にかクラス中に『田中実ホモ説』が流れておった···我は同性愛者ではないというに」
「出してくれてもよかったのに···(ぼそっ)」
「ん?」
「い、いえ!何でもありません!」
年越しそばを食べきってお椀を洗い、紅白を見つつこの歌手は初めてみただの変身した!?だの言いつつ時を過ごす。もうすぐ年を越すとなった時、セイラはおもむろにアルスに言う。
「どうして···高校に通おうと思ったのですか?」
「そうだな、この国を見たから···というのが理由だ」
「その心は?」
「別にトンチでは無いのだがな」
熱いお茶を啜りつつアルスは語り始める。
「『日本』という国は素晴らしい。王という絶対的な存在はただの象徴だと言い切り、この国を動かしているのは国民の代表達だ。忠誠心は無いから横領や裏切りは横行しているが、国自体は回ってる。」
「···」
「王は本当は要らないのではないか?そう考えると学びたくなったのだ、そのルーツを。我は王として生き続ける意味はあるのか···とな」
「王」
「なんだセイラ?王と呼ばずに来年からはアルスと呼んでも良いのだぞ?」
「いえ、それはまたいつか。それよりも歯を食いしばってください」
「はっ?ぶふぅ!」
セイラに思いっきりビンタされるアルス。叩かれた頬を抑えつつ驚きながらセイラを見る。
「馬鹿ですか!?王はいつも常識は無くとも愚かでは無かったはずです!」
「えっ···は?」
「あなたが王で有り続けることを!あなたの中にいる国民全員に誓ったのではありませんか!」
「···っ!」
目に涙をためたセイラを見た瞬間、アルスは思い出す。あの日自分が誓った言葉を。記憶がごちゃごちゃで元の人格すらも分からない自分が立てた誓いを。
『我は王で有り続ける!我の中に国民が生き続けている限り、我が国だ!我が王だ!たった1人になろうとも!我はその矜持を貫くぞ!』
「何を血迷っておったんだろうな···我は」
「思い、出しましたか···?」
「ああ。我の中に国民が生き続けている限り、我が王だ。この国に来て平和ボケしていたのかもしれぬな···」
「忘れないでください、王の国民を、私を。」
「済まない。だから我をずっと『王』だと呼び続けてくれたのだな。セイラよ、ありがとう」
「いえ、こちらもいきなり叩いてしまって申し訳ございませんでした」
アルスはテレビを見る。テレビでは年越しのカウントダウンが始まっていた。
「···新たな年が来る。我はまだ学ぶことがたくさんあるな」
「ええ、2人で歩んでいきましょう。永久とも呼べる、この人生を」
「我は王として生き続ける」
「私はその補佐を」
「···我がまた道に迷った時は叩いてでも引っ張ってくれるか?」
「もちろんです。私の王はアルス•バーンシュタイン様ただ一人なのですから」
「あけましておめでとう、セイラ」
「あけましておめでとうございます、王」
二人は改まって挨拶を交わす。また一年、時を刻んだ。
「ところで今年のお年玉はいくら貰えるのか!?」
「そうですねー、私を怒らせたバツとして樋口さんを平等院鳳凰堂さんに変えておきますか」
「待て!それは10円玉ではないか!」
「冗談ですよ。去年のことは去年のことにしておきますから」
彼らの物語はまだ終わらない。




