サイレント魔女レディ
クッキーに誘われて、ショコラ、ティラミスをお供に俺たちは魔女の住む国フォレ・ノワールへ向かった。
キメラの飛行速度で三日。ゆっくりとしてはいられない。我々は切り立った崖に降り立った。
「もっと近くに降りればよかったのに…。ここからじゃあ、一日は経ってしまうわ」
ショコラがうんざりしたように長い坂道を見上げる。両側にびっしりと隙間なく立ち並ぶ木々は登れるものなら登ってみろと言わんばかりにすました様子で高いところから我々を見渡していた。
「うむ。なぜだ、クッキーよ」
ケーキ屋どころか民家すらまだ見えない。
「魔女王の魔法により近づく者は弾かれてしまう仕様になっているの。訪問者に残された唯一の交通手段はこの道を上ること、それ以外に方法はないの」
赤いほっぺをさらに紅潮させ、俺たちを先導し、歩いていく。手には相変わらずの箒が握られていた。
「それにしても遠いな」
「ええ、もう平和な時世だからもう少し柔軟に考えてほしいと通達はされているようなんだけど女王が言うことを聞かないらしくて…」
「魔王さまあん、ショコラもう歩けなーいぃ」
ショコラはその場に尻をついて座り込んでしまった。耳も尻尾もやる気なさげにうなだれている。
「困ったな…。置いていくわけにもいかんし」
「置いていくなんてもっと嫌」
ショコラが頬を膨らます。クッキーとティラミスも足を止め、困ってしまっている。
結局俺がショコラをおんぶ、ではなく、お姫様抱っこして登る羽目になってしまった。おんぶでいいだろう。なんでこれじゃなきゃ嫌なんだ?
しかも健やかなる寝息を立てている。
日が傾きかけたころ、クッキーが前方を指で指し示した。
「あれが、ケーキ坂46。通称サイレント魔女レディたちの住むケーキ屋陣です」
「まあ」
ティラミスは何かに気付いたようだが俺には今まで歩いてきた道と同じにしか見えない。
「パパ上様よくご覧ください。両脇の木々を」
「両脇の?--おお、本当だ!」
ティラミスに言われた通り確認すると、窓があり、ドアがあり煙突まである。どうやら木の中が住まい兼店舗になっているらしい。
「初めて来た方は気づかず素通りしてしまい痛い目に…。とりあえず挨拶をば」
クッキーは目を瞑り、大きく息を吸い込んだ。そしておもむろに箒で地面をなぞると不思議な文様が光と共に現れ、その真ん中に進んでいく。
そこで、何事か唱えながら不思議な踊りを踊りだすと家々から眠たそうな顔つきの魔女たちがゆっくりと現れた。占めて46人。あっという間に取り囲まれる。
「何か御用かしら、クッキー?あなた知らないわけではないわよね?今は女王様に捧げる大事なケーキつくりの月。邪魔をすればどうなるかを…。たとえ同族のあなたであっても許すわけにはいかないことを」
ブレザーにも似たモスグリーンの服で統一された魔女集団。一歩前に出たティラミスと同い年ぐらいの子がそう切り出した。
「シュガーレイズドさん、大事な手紙を女王様にお届けに上がったの」
「ならば月替わりに持っていらっしゃい。女王様は誕生月を穢されることをひどく忌み嫌われる」
シュガーレイズドと呼ばれた魔女がさらに続ける。
「しかし、これは少なくとも今月に届けなければ意味のないものでそこをどうにか…。もし、聞き入れてくれないのならここを通って直接女王様に」
「なりません。そもそも魔女として半人前頭一枚目程度のあなたが女王様にお目通りしようなどとは不届き千万千億千兆千京」
なんか大げさな奴だな。俺は少しムカついてきた。
「結婚式の招待状だ。来月の日取りなのだ。そこをどいてくれ」
俺は強引に輪から出ようとした。
「待て!貴様何奴?」
「俺は魔王だ。さっきから聞いていれば言いたい放題で。大体めでたい結婚式の招待状で穢れるようなことはねえよ。どんだけ潔癖な女王だよ、俺が直接言い聞かせてやる」
「穢れはここで清めねばならぬ。ならば我々ケーキ坂46、サイレント魔女レディの洗礼を受けるということで相違はないのだな?ハニー・チュロ前へ!」
「はっ!」
おかっぱ頭の魔女が輪の後方から回転しながらシュガーレイズドの前に飛び込んできた。




