泣かぬならなかしてみよう
「ならば、回復をして差し上げて一から…」
ティラミスがヒールの呪文をゴーダにかける。
光を浴びて元気になったゴーダを再び削るもやはり、一滴も泪を溢さない。
「お嬢、あっしに考えが…」
業を煮やしたパエリアがティラミスの前に出た。
「オニオン…クラッシュ!」
パエリアは両手に握りしめた玉ねぎをゴーダの顔ギリギリのところで握り潰す。
瑞々しい玉ねぎの水分が迸り、アリシンの効能が俺たちの鼻や目をいたく刺激する。
俺たちはなみだぼっろぼろ。搾ったパエリアでさえ情けない顔になっている。
だが、ゴーダはまたしても平気の面。
「ひどく目にしみた。痛くて敵わん!だが、それとこれは話が別だ。しみたからといって泪は溢さん。それが漢だ!」
一瞬、格好いいとか騙されそうになったが、全然格好よくはねえよ。
どういう体の構造してんだ?ドラゴンってみんな刺激に耐性があんのか?
俺は聞いたことがないぞ。
「ぬぬぬ。強情な…。ならばこれでどうだ、ワサビーム・イン・ノーズ!」
チューブに詰めたワサビをゴーダの鼻に押し込むと一気に搾り上げる。
うわっ、痛そう。見ているこっちが涙目になりそうだ。
今度こそ効いただろう?
「ほぅううっ。異国情緒溢れる甘美で繊細ながらも野趣朴とつとした荒々しさを兼ね備えた複雑なる刺激が雷の如く我が全身を駆け抜けたりいぃぃっ!」
ゴーダは感動にうち震えるかのように背を丸め、目を閉じたまま叫んだ。
効いている、確かに効いているぞ。
「ふう。でも、泪を流すことと刺激にうち震えることはやっぱり違うな」
ダメだ、こりゃ。パエリアも呆気にとられている。
「どいてくれ、料理のおっさん。自分達の問題は自分達で解決するよ」
今まで大人しく成り行きを見守っていたペスカトーレがゴーダに対峙する。
「ほう、今度は何をする気だ?」
ゴーダの方は余裕が出てきたようだ。むしろ楽しんでいる気配すらする。
「耳の穴かっぽじってようく聞くんだぞ。これからすべったことのない感動する話、悲しい話を立て続けに100本、お前に叩き込んでやる」
「おおう、それは楽しみだ、早よ早よ」
「よおし、後で吠え面を掻くなよ。むかーし、むかーし。あるところにーー」
ムダだと思うけどな。とりあえず、俺たちは長い話に耳を傾けた。
全ての話が終わる頃、ティラミスとパエリアは泣き崩れていた。
パエリアに至っては地面に突っ伏している。
確かにいい話だ。感動できる部分、悲しい部分それぞれ相応に共感できる。
でも、そんなにがっつり泣けるか?それとも俺が冷徹なのか?
「なるほど…。どの話も共感し、同情できる話ばかりだ。しかし、その事と泪を流すことは別の話だ」
あっ、そこだけは俺も同感だ。初めて、ゴーダと価値観があったぜ。
ペスカトーレはゴーダの言葉を聞くと疲れきった様子でその場に座りこんだ。
「どうした?もう終いか?わしもだいぶ、疲れてきた。そろそろおいとましてもよろしいか?」
万策尽きたな…。ダメもとで俺はブラウニーの肩を叩いてみた。
「ぼうっと突っ立ってないでお前がやってみてはどうだ?」
「僕が?」
ブラウニーの背中を軽く押しだし、ゴーダの前にださせる。
ーーのつもりだったが、チートな俺の『軽く』は非力なブラウニーにはとんでもなく強かったらしい。
勢い余ってブラウニーはゴーダを突き飛ばしてしまった。
「何すんだ、貴様!」
怒ったゴーダは立ち上がると、ブラウニーに炎を吐きかけた。
「うわっ!」
咄嗟にブラウニーは避けたが、背中に背負っていた風呂敷袋までは避けきれず、焼失してしまった。




