偏屈者のゴーダさん
「そんなに荷物はいるまい。邪魔になるだけだぞ」
「大事なものなんだ…。じゃあ、置いてーー」
「めんどくさいなあ、私のキメラをだすから一緒に乗れよ。それじゃなくてもおじさんたちに迷惑かけてんのに」
部屋に戻ろうとするブラウニーをペスカトーレが引き留めた。
ペスカトーレがキメラ笛を一吹き。空から一羽のキメラが舞い降りる。
「の、乗れよ…。し、しっかり掴まってんだぞ」
命令しているのにペスカトーレの方が真っ赤な顔をしている。
「ば、ばか!そこじゃないっ!腰の辺りだって」
ペスカトーレの声に俺が思わず反応してしまう。
まさか、ブラウニーの奴どさくさに紛れて…。
と、思ったらなんのことはない。ブラウニーはキメラの背中にしっかりしがみついていた。
「だーかーらっ!私の腰の辺りだって、言ってんだろうがー!振り落とすぞ上空から!」
「いやあ、だってえ…。へへへ。まだ、結婚前だし」
どつかれてなお嬉しそうなブラウニー。もう、勝手にそっちはそっちでやっててください。
ようやく準備も整い、俺たちは竜王の親戚がいるという小島に降り立った。
スライムの子一匹もいない殺風景な草原。その真ん中に丸太でこしらえた簡素な家が一軒。
煙突からは白い煙が風に乗って流れている。
「ごめんくださーい」
俺たちはドアをノックした。
返事はない。だが、確かに中で生活をしている音はする。
俺は「失礼します」と言ってドアを開けた。
ーー瞬間に槍が飛んできた。銀色の尖端は脇目も振らず、俺の心臓に一直線。
「ふんぬ」
俺は瞬時に判断し、ドアを盾代わりに槍をやり過ごす。
「いきなり何すんだ」
「それはこっちのセリフだ。他モンの家にズカズカ勝手に入られてたまるか。怖くてしょうがねえ。さては貴様、勇者系の盗賊だろう?勇者なら何してもいいっていう身勝手な奴だからたちが悪い。平気で他モンの家にあがりこんで、タンスやベッド、ツボん中を漁って金目のモンありったけ持っていくからな、始末に負えねえ」
「無礼を失礼。いあ、俺は魔王だ。そして、家来と娘。それとモンブランのご子息諸々だ。訳あって、そなたへの用事でここに参ったのだ」
確かに勇者って人んちに勝手に上がってしたい放題だよな…。若い頃思いだして、声がうわずったよ。
「何?魔王だって?」
ドアの方に歩みよってくる音がする。
恐る恐る覗き込むと向こうも同じように覗き込む。
ドア越しにいい歳の男同士が奇妙な対面を果たす。
「こりゃどうも。近頃物騒でな…。わしは竜王の親戚のゴーダだ」
二本の角。長いアゴヒゲ。緑色の肌。太いワニのような尻尾。それ以外は二足歩行で人間のじいさんのようにも見える。
「ゴーダよ、済まなかった。早速なのだが、お前の泪とやらをモンブラン王が所望なのだが、それは貰えるものなのか?」
「わしの泪か…。別に構わんが出るかどうかはわからんぞ。なんせ、わし自身ここ何百年見ておらん」
何歳ですか、ゴーダさん。
「どうすれば?」
ティラミスが訊ねる。
「そうよのう…。わしを痛めつけてみるか?出るかもしれんぞ」
「よろしいので?」
「ま、死なん程度にな。言っておくがよゐこのみんなは真似せんようにな。わしが竜王の親戚だから為せるわざなのだからな」
親戚とか関係あるのか?
まあ、モンスターだしな。許可も貰ったし。
「では、遠慮なく」
ティラミスが怒濤の攻撃を繰り出していく。粉塵を巻き上げ、手刀と蹴りをゴーダに撃ち込んでいく。
かなりHPを削ったところでティラミスが攻撃を止めた。
しかし、痛がる素振りは見せど、泪の一滴も溢れない。
それどころか泪すら目に浮かべてはいない。
「い、痛い…。見事すぎる攻撃だ。効きすぎるぐらい効いているぞ」
「ありがとうございます」
ティラミスが一礼する。
「し、しかしだ。痛いのと泪を流すことはまた別のことだ。痛いからといってわしは泪は絶対に溢さぬ!」
おいおいめんどくせえ奴だな。普通、痛きゃ泪出るだろう?
本当に世間が言う通りの偏屈頑固親父だ。




