竜王はちかくにいた?
「条件さえ飲めば晴れて二人は夫婦になれるのだぞ。不服はあるまい」
「だーけーど、その条件ってのが厄介事なんだろ?親父は一体僕に何をさせようというのさ」
ブラウニーは椅子を起こして、自分も立ち上がった。よほど嫌な予感がしているのだろう。
「ーーちょっとよろしいですか?」
ティラミスが手をあげる。
「どうした、ティラミス?」
「ペスカトーレさんはどうしてこんなブラウニーさんを愛してしまわれたのでしょう?」
きついな…。ティラミス、ストレートパンチを顔面にクリーンヒットしたぐらいキツイ一言だぞ、それ。
でも俺もペスカトーレにそこんとこ聞きたいわ。
「ーー優しいんだ。誰にも隔てなく…。喧嘩してる奴がいれば飛んでいってじっくり話を聞き、お互い納得いくようにもっていくし。誰かが吹っ掛けてきても絶対手を出さない。あの時…。そう、二人が出会った時も私のことを必死で庇ってくれて。ボコボコにされたのに、全く退かなかったし」
王子をボコボコ。国家級の犯罪じゃねえか。いくらお忍びで城下を歩いていたってお付きの兵士ぐらいこっそりついているだろうに…。
「僕は王族だからっていう生まれだけで威張りたくはないんだ。悪いものは悪い。いいものはいい」
ただのお人好しというわけでもないんだな。
「あと、ハープが得意だ。あの音色を聴くと癒される。殺気だっていた奴も大人しくなるんだ」
「そんなに褒めないでよ、ペスカトーレちゃーん」
有頂天のブラウニーの表情より氷のようなティラミスの表情が気になっちゃいます。
「わかりました…。で、パパ上様、モンブラン国王のだした条件とは?」
「竜の泪を所望のようだ」
「竜の泪?」
ティラミスが首を傾げる。
「竜の泪だって?あの親父に涙腺なんてあるのか?うちの親父にも増して偏屈頑固な親父なんだぞ。笑った顔すら見たことないぞ」
「そんなに偏屈なのか?」
安請け合いしてきたがやはり一筋縄ではいかないらしい。
「偏屈なんてもんじゃない。いつも気難しい顔して誰もよりつきゃしない。モンスターの子供達だって怖がって寄り付かないんだから」
「あっしも聞いたことがありやす。ここから離れた場所に一族で村を形成し、暮らしていたんでやすが余りに偏屈で竜王にも愛想をつかされたとかで…。一匹だけあの離島に越してきたとか」
「筋金入りと見えるな…。ちなみに竜王とはどんな奴なのだ?王族の会議には召集されていないようだが…」
モンスターと言えど王は王。協定がある以上、王族として会議に召集しなければならない。
しかし、誰もそんなこと言っていなかったんだよな。
「ーー竜王なら死にやした。魔王様が魔王になる前のことでありやす。竜王には一人娘がいてそれを人間の男に盗られたとかで。そのショックで倒れたようで…。竜王の娘を盗った男は魔王の城の近くまで侵攻してきやした。ちょうどお嬢が昔にズッキーニと共に鬼ババに捕まった、あのヘラクレスの森。あの反対側の道を入ったところでありやす。ーーただ、一向に攻めてくる気配がない」
「魔王の城の近くまで来てか?」
「へえ。それで我々が逆に討伐にいったんでやすが返り討ちに遭う始末で…。竜王の娘がいるので前魔王も迂闊には手を出せない次第で。勇者たちが入れ替わり立ち替わり攻めてきたんでそれきりにしていたんでやす。で、そのうちに魔王様がーー」
パエリアが首を切る仕草をして見せる。
はい。紛れもなく俺が魔王を瞬殺しました。
「で、その男はまだあそこに居るのか?ズッキーニの話ではドラゴンがいることになっていたぞ」
「引っ越しやした」
「引っ越した?いつ?」
「6年前でやすか?魔王様が王族会議に行っている間に…。あっしもズッキーニも見てはいないんですが、見張りをしていた奴によると大層みすぼらしい格好をしていて、子供を連れていたそうでやす。引っ越しの挨拶に大量の農作物を置いてーー」
「ああ、芋やらカボチャやらやたらめったら山積みになってたあの時か。説明されたけど疲れてて忘れてたわ」
「パパ上様、早く。急ぎましょう。ペスカトーレさんのためにも」
「ん?ああ、そうだったな…。腹ごしらえを済ませてさっさと泪とやらを頂き、二人を幸せにしてやらねばな…。ーーおい、ブラウニー!これから一働きせねばならない。食べておけ。それにパエリアはそこらのコックとは訳が違うぞ」
俺はブラウニーに皿とスプーンを手渡した。
「ふん。まあ、食ってやってもいいか…。ペスカトーレのためだしな。ーーって、おい!何だ、このスープの旨さは!本当に有り合わせで作ったのか」
ブラウニーのスプーンは止まらない。最後にはマナーもどこへやら。皿を両手に一気に飲み干し、おかわりまで頂戴した。
その間に各自準備を整え、パシェリのいる庭に集合した。
「遅いな、ブラウニーの奴まだ食べているのか」
「それはそれで…」
パエリアは含み笑いを禁じ得ない。ハンストしている奴が自分の料理をバクバク食っているのだからそりゃあ料理人冥利に尽きるってもんだろう。
しかし、今はそうは言っていられない。まだ食っているのなら引っ張ってでも連れてこないと…。
お腹一杯で寝ているのかも。それとも、怖じ気づいて…。
「ゴメン、ゴメン」
そんなことを思っているとブラウニーが風呂敷を背負って現れた。




