幼女が俺を倒しにくるとか笑止千万 なんか飛び込んできた
それからしばらくが経った。近くの宿場を勇者が旅立ったとの知らせを受け、俺たちは一級の厳戒態勢を敷いて警備にあたっていた。
不要不急の外出を避け、みな身の安全を守る行動をとるように指示をだした。
これだけの手紙をだすのだから、勇者はパーティーで、いや大軍を率いて俺たちをつぶしに来るのかもしれない。
さすがの俺も緊張してきた。俺一人ならひねりつぶすことも簡単だが今は守るべきものがたくさんある。綺麗事だけでモンスターたちを守ることはできない。どんなに汚い手を使ってもモンスターを守らねば魔王としての沽券に関わる。
それから数日が経った。何事もない平和な日々だ。モンスターたちにも疲労の色が見え始めていた。露骨に不平不満を漏らすものまで現れた。
俺も正直退屈してきたがこれがもし勇者の作戦なら油断しきった俺たちはいとも簡単に勇者の餌食にされてしまうことだろう。
俺は努めて冷静を保った。そんな時だった。
「魔王様!ついに勇者を名乗るものが現れました」
見張りの兵士が俺の執務室に報告を入れる。
「よし、いつも通り滞りなくここへ通すのだぞ」
「はは!」
俺は腰かけていた椅子から立ち上がりドアを腕組みしながらにらみつけた。ズッキーニをはじめ幹部数人も緊張した面持ちでドアを見つめる。
シーンと静まり返ったドア。
ーー突如ドアの向こうが慌ただしくなる。
「ああ、勇者が向こうの部屋へ」
「そっちじゃなくてこっちです!」
「どこへ行った、見失ったぞ。勇者様ー」
廊下を雪崩のような足音が行ったり来たり。怒号が飛び交う。
「おい、何が起きているのだ?」
俺は不安に駆られ、ズッキーニに尋ねた。
「かなりすばしっこい勇者だと聞いております」
ズッキーニが説明する。
「何?…ということは、勇者は一人で乗り込んできたということか?」
「はい、左様で」
ふつう複数なら勇者「たち」とか「一行」とかつけて呼ぶようにしている。それがないということは勇者は一人単独でこの城に乗り込んできたことになる。
賢者気取りかそれとも金品目当てか俺は更に事の仔細を見守る。
不意にドアのノブが回り、何かが飛び込んできた。あまりに小さい女の子。年のころは10歳ぐらいだろうか、プラチナホワイトの髪をおさげに結っている。
こんな大事な時にかまっている暇はない。俺はドアを注視し続ける。