条件
モンブランは城に入ってすぐの廊下に佇んでいた。
日がすっかり落ち、燭台の灯りも届かない窓に手をかけ、黙って外を眺めている。
時折、笑い声に乗せられて漂ってくる夕食の匂いが空腹の俺の鼻をくすぐる。
人払いをしている。ひとりぼっちの国王。そうそう見られるものでもない。
それだけ安心できる城内なのだろう。
しかし、今は急を要する。
「モンブラン殿」
俺は意を決して話しかけた。
「ん?ーーああ、魔王殿か…」
うす灯りに浮かぶシルエットと声でかろうじてわかったようだ。
「ブラウニーとペスカトーレのことだが…」
「王妃から仔細は聞いたであろう?」
「ああ、聞いた。が、納得はしていない。特にさっきの貴殿の立ち居振舞いには合点のいかぬことが多すぎる。蛇や竜の類いがダメならば金を手渡しなどできないであろう。それを貴殿はきちんと相手が落とさぬように両手で優しく包むように渡していた」
「それは…。国王たるものいかなる不備もないようにしたまで…。本当は身の毛もよだつほど気味悪かったのだ」
「ならば息子の身を案じるより、ペスカトーレの身を案じておったのも国王の体面を保つためのカモフラージュだったということか?」
「そうだ。いかなる時もそつなくこなすことが国王。威厳と体面を保つことが国王としての勤め」
「ーーそうか…。そこまで意地を張るなら向こうにも考えがあると言っておったぞ。ブラウニーは城を出て、駆け落ちする…、そう言っておった。王家の地位も名誉もかなぐり捨ててな」
「まぁ、なんと!」
王妃が隠れて話を聞いていたらしく、物陰から現れた。
モンブランの腕にしがみついた。
「何を狼狽えているんだ、王妃よ。あいつにそんな勇気ないって。無理無理、絶対無理!」
モンブランは首を振って、高らかに笑う。こういう仕草は親子だな、ブラウニーと瓜二つだ。
「仮にそうだとしても三日もすれば帰ってくる。あいつはそういう奴だ。大体、そんな覚悟があるというのなら、証拠を見せろ、と私は言いたい。覚悟の証拠だ」
モンブランが俺に詰め寄る。
よし、食いついた。
「ほう…。どうすればブラウニーの本気度が計れると?」
冷静を装い、あくまでとぼける。
「この城の西に岩山に囲まれた小島がある。そこに竜王の親戚のおじさんと呼ばれるモンスターがいる。そいつが流す泪をもってくればブラウニーとペスカトーレとのことを考え直してやろう。それでどうだ?」
モンブランはニヤリと笑う。
「よし、早速ブラウニーに伝えよう」
竜王なんて竜いたんだな。長年このワールドに暮らしてきたが知らなかったよ。
まあ、いいか。とにかく俺はモンブランの条件を伝えに自分の部屋に戻った。
部屋に戻ると泣き腫らした仏頂面のペスカトーレを真ん中にティラミスたちが取り囲むように座っていた。
ブラウニーだけが相変わらずニヤニヤしている。
「待たせたな。泣き止んだか?」
無言で顔だけあげるペスカトーレ。
パエリアは俺の顔を見ると立ち上がり、スープをよそりはじめた。
すげえな…。あの間に料理終わってんのかよ。さすがの俺も正直ビビった。
「床に座っているのもなんだ。せっかく、椅子とテーブルもあるんだ。席について食事にでもしよう」
俺たちはパエリアからスープをもらうと各々テーブルについていった。
旨そうな匂いに腹ペコのブラウニーも手を出しそうになるも、自らの手を叩き、首を振って我慢する。
「国王から許しがでた。だから、食事を摂れ」
「えっ?マジか…。よくあの頑固親父を説得できたな」
「ただし条件付きだがな…」
「なーんだ、やっぱり無条件じゃないのか」
ブラウニーはガッカリしたように椅子に腰掛けたまま後ろにバタンと倒れた。




