ロミオとジュリエット?
「ブラウニー…。ああ、あ…」
額に手を当てて、後ろへと崩れ落ちる王妃。ティラミスと憮然とした表情のパエリアが受け止める。
パエリアは飯を食わないと決めたブラウニーにご立腹なのだ。
料理人だからな。
ハンストは止めておいたほうがいい。パエリアがいる限り、絶対食わされる。
意地でもな。飢えて死んでいく奴を幾多と見てきた奴だから。
「パパ上様…」
「うむ。ーーあ、ブラウニー王子。籠城の上にハンストとは…。一国の主ともなろうとする者が少し子供じみておらんかな?」
「だ、誰だ?」
「申し遅れた。魔王だ」
「魔王?ああ、魔王様か。何の用かは知らないけど放っといてくれないか。これは僕達家族の問題だ」
「それはもっともだが、生憎娘の幼馴染みが絡んでおってな…。放っておくわけにはいかないのだ」
「幼馴染み?誰が?」
「ゴルゴンゾーラの次女、ペスカトーレだ」
「ペスカトーレの?ーーいいや、だからといって魔王に邪魔される覚えはないぞ」
「逆だ。別にお前たち二人の仲を引き裂こうというわけではない。くっつけてやろうというのだ。まず、俺がモンブラン王に会って説得してやる」
「親父を?無理だね。一度言い出したら聞かないんだ、親父は。僕の比じゃない」
「でも一度は承諾したのだろう?蛇が苦手なのも王妃から聞いた。説得してくるから待っておれ。話しはそれからだ。今日はもう遅い。明日の昼までには説得してくる」
「無理だと思うね」
皮肉たっぷりの物言いに今すぐ引きずりだすべくドアを蹴り崩してやりたい衝動に駆られた。
しかし、ティラミスの袖引きに俺は何とか踏みとどまった。
王妃を兵士に預け、別館から出ると、傾いた日がモンブランの城を紅茶色に染めていた。
夕飯の支度だろうか。どこからともなくいいにおいが漂ってくる。
パエリアの体が疼いているのがわかり、ティラミスがくすっと笑う。
「お嬢、何か?」
体が小刻みにリズムをとっていることに気づかないパエリアがティラミスを不思議そうに見つめる。
「パエリアったら。こんな時でも料理を作りたいのですね」
ティラミスが包丁で刻む仕草をして見せる。まさに今、パエリアのしている仕草そのものだ。
「あ、あっしとしたことが…」
ようやく気づいて、パエリアが高らかに笑う。久しぶりの笑顔だ。
俺とティラミスもつられて笑った。
その時、近くの植え込みがガサガサとざわついた。何者かの気配がする。
俺たちは身構えた。
「誰だ?」
俺が茂みに向かって問いかけた。
「ひゃっ!迷いこんだだけなんだ。だから捕まえないでくれ。お願いだ。お、お願いし…。ーーなあんだ、魔王様じゃないか」
ターバン姿のペスカトーレが茂みから顔をだす。
「何をしておる。こんなところで…」
「ペスカトーレ…ちゃん?なのですね」
俺の問いかけにティラミスが質問を被せた。
「ティラミス…なのか?」
ペスカトーレは植え込みの枝葉を頭に乗せたまま兎のように飛び出した。
ティラミスも頷きながら前に歩みでる。
「ひっさしぶりー!元気にしてたか」
「ええ…。ペスカトーレさんも元気そうでなによりです。」
「いきなりいなくなっちまったから心配してたんだぞ。ナポリたんは何もしゃべらないし…」
「ええ、いろいろありまして。ナポリたんは私のことを怒ってはーー」
「いや…。しばらくはショックだったんだけどな。あいつまだ小っちゃかっただろう。事情が呑み込めたあとはむしろ済まなそうな気持ちになったんだろうな。ティラミスに会いに行くって旅に出たんだ。そうしたら途中でモンスターに捕まって幽閉されたらしいんだ。そのモンスターを倒して助けてくれた奴がいたんだけど、そいつも悪い奴だったらしくてな…。坊さんの格好していたらしいんだけど」
ニラレバか。間違いなく葬っといた。安心しろ、嫁の世話付きで。
「真実を知っていらっしゃるのですね?母上様とメドウサさんの間に何があったのか」
ティラミスが身を乗り出すと、大袈裟な芝居かかった声が上の方から飛んでくる。
「ああー、ペスカトーレ…。君はどうしてペスカトーレなんだ」
「?」
俺たちは後ろから聞こえた声に別館を見上げた。窓から顔を出すブラウニー。色白だがどこか頼りない風貌だ。
「ああ、ごめん。ちょっと野暮用なんだ。アイツが済み次第お前の母親と私の母親の話聞かせてやるから待っててくれ」
ペスカトーレは頭を掻き掻き、深いため息とともに体を揺らして別館の方へ歩いていく。
「ああ、ペスカトーレ。君は今どこで何をしているんだ、ペスカトーレ…」
「てめえのせいでのっぱらで野宿してんだよ。モンスターにおびえながら!!って言うか助けに来いよ、役人に捕まったんだから。下手すりゃずっと投獄されたままかもしれなかったし、場合によっちゃあ殺されてたぞ、盗賊によって」
「あ、そんなところにいたのかい?ペスカトーレ」
あまりに無神経な一言にペスカトーレの怒りも頂点に達する。近くにあった石を思いきりブラウニーに投げつけた。そりゃそうだろう、投獄されるは、殺されかけるはしたのに心配の一つもせずにのんきな言葉をかけたんだから。




