モンブランラブソティ
翌朝、俺はパシェリに突っつかれて目を覚ました。
ティラミスは既に身支度を整え、パエリアも旅支度を終えていた。
兵士たちも通常業務。宴の跡など微塵もないほど片付いていた。
「おはようございます。パパ上様」
「俺が最後か…。起こせばよかろう。恥ずかしい」
俺は起き上がると髪を手櫛で撫で付けた。服のシワを伸ばして不平を言う。
「ぐっすり気持ち良さそうにしておいででしたから…。それに、金平様がいいからと仰ったもので…」
「ふむ…」
それにしても恥ずかしい。
「で、金平は?」
「先にモンブランの城へ。届けた宝の確認と王様と妃様に会うために」
「そうか。では早速だが参るか」
パシェリの背中に旅の荷物をくくりつけ、俺たちは三人モンブランの城を目指した。
塔より北へ真っ直ぐに草原を進むと小一時間ほどでモンブランの城へ着いた。
話しは通っているようで俺たちは王の間に案内された。
「おお、魔王殿!」
「金平!」
謁見の間らしく赤い絨毯が敷かれている。シワもホコリも一つもない完璧な絨毯だ。
壁の絵画も額が反射するほど綺麗に磨かれ、この城の主の性格を物語る。
俺は高級なバイオリンのように見事に磨きあげられた椅子をあてがわれた。
金平が座っているのも豪華に見えたがそれ以上だ。
恐らく、一役人と魔でも王様の俺との差異を気遣ってのことだろう。
そんな細かいこと気にしないんだけどな…。
でも、繊細な心遣いを無下にするわけにもいかないので俺たちは金平に断りを入れ、座った。金平もその辺は心得ている。やっぱりいいやつだ。
椅子は見た目の厳つさに反して結構座り心地がいい。ふんわり包み込むような座り心地だ。
「王様のおなーりー」
奥の間に続く扉付近にいた兵士が一声挙げると周りに配置された兵士たちが背筋を伸ばす。
「このたびは宝物を献上していただき誠にありがとうございました。金平殿もご苦労であった。王様もこの通りご機嫌ーー。ん、んんっ!王様、お・う・さ・ま!!あなたー!」
だんまりの王様。完全に心ここにあらず。憮然とさえしているように思える。王妃が代わって俺たちに挨拶をしたが、せっつかれようと怒鳴られようとため息ばかり。
どうした?
「わし、疲れた。今日はこの辺で…」
プイと踵を返すと俺たちに目もくれず、元来た扉の奥に消えて行ってしまった。足取りもどこか覚束ない。
とてもこの城の主には到底思えない所業だ。
「どうかされたのですか、モンブラン国王は?」
「いつもと様子がーー。体の具合でも悪いのでは?」
俺の問いに金平が付け足す。やはりいつもと様子がおかしいようだ。
「昨日のことがよほどショックだったのでしょう」
王妃は伏し目がちにため息をついた。
「舞踏会の一件ですか?確かご子息の婚礼相手を探すためとか…」
「魔王様、よくご存じで…。--とすれば、昨日の失態も近隣諸国いやワールドの隅々まで行き渡っておいでなのかもしれませんね」
「いやそのようなことは…。ただ、金平の手のものが昨晩、蛇女の一件で大捕物になり大変だったと聞きましたのでな。もしやその一件が絡んでいるのかとーー」
「そうなのですか…。--うちの王様は昔から蛇、竜の類が苦手でいらしてひどく毛嫌いしていらっしゃるのです。あのクネクネした動きがMPを吸い取られそうで嫌だとか…。普段は温厚で朗らかな方なのですが蛇、竜と聞くとそれだけで子供のように駄々をこね始める始末で困ってしまいます。そして、息子のことなのですが…」
王妃は窓の外をちらっと眺めた。そこには澄み切った青空に映える白壁の塔がそびえていた。「息子のブラウニー王子の住まいだ」と金平が耳打ちしてくれた。
「本当は見合い相手が決まっていて後は余興というのが通例。しかし、本番当日の朝、ブラウニーが私たちのもとへやってきたのです。舞踏会の準備で忙しい私たちは後日にするように言いました。しかし、どうしても今じゃなきゃダメだと引かないブラウニーに根負けし、話を聞くことにしたのです」
「好きな人がいると?」
そんな大事な時に話があるなんて「これ」以外考えられない。
「ええ。ターバンを巻いたその女の子は元気で愛らしくとてもいい子でした。会場の手伝いもてきぱきとこなし、王様もことのほかお気に入り。ただ、うちは王家。家柄とか出自とか身分にこだわります。王様は難色を示しました。私は、当人同士がいいのなら…。特にブラウニーが気に入っているのなら。あの子は小さいころから温厚で優しいのですがどうも引っ込み思案。争い事が起こると黙ってしまう悪い癖があります。そんな子が初めて自分の意思を貫こうとしているのですから応援をしてあげたくて…。私は王様を説得しました。王様も生き生きとしたブラウニーを見てそれならと渋々ながら了承してくださったのです」
ここまではうまくいっていたのではないかい?おそらくターバンを巻いていたということはペスカトーレかもな。なんとなく話が読めてきた。
「会場の手伝いで汗をかいたのでしょう。女の子はターバンをとってしまわれたのです」
そりゃ致命的だ。
「蛇が露に…」
俺が溢した言葉は小さかったが言わずもがな。王妃は強く頷いた。
「そうなのです」
頬に手をやり、再び窓に目をやる。




