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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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BANとね

「田楽も変わりねえようで」


とりあえず腹の探りあいといったところか、無難な挨拶をパエリアも返す。


「まさか、魔王の城で料理長になっていようとはなあ…。そして時は移ろい、魔王も今や王家の一派。その恩恵でお前も立派なカタギというわけだ。王家の料理長とは出世したもんだな、パエリア」


「いえ、相変わらずケチな野郎で…」


「謙遜することはなかろう?我々の出世頭、パエリアに盛大な拍手を!」


盗賊共の拍手が鳴り響く。


ーーそれに混じって穴の奥の方からこっちへ聞き覚えのある、とある生き物の足音がパタパタと聴こえる。


キメラの足音で違いない。ティラミスがこちらに向かっているのだろう。


外で留守番してたよな…。どうなってんだ?


「やめてくだせえ。茶番はそのぐらいでよしやしょう。役人に成り済ましてまでこの塔に固執したのはエニグマの秘宝にございやしょう。そんなもの全てくれてやる腹積もり…。しかし、先代の頭の息子ーー。パプリカさんをこの稼業に引き入れようってのは少々筋が違いやせんか」


「ふふふ…」


「何が可笑しいんで、田楽?」


癇にさわる高笑いを田楽は続けた後、ドスの効いた声でパエリアに見栄をきった。


たちがこの数十年どんな生活を送ってきたか…。どんな辛酸を嘗め、どんな泥水を啜ってきたか…。頭の坊っちゃんにはわかるめえ、そう思ってな…」


「何?」


「俺たちは盗賊。裏の稼業に手を染め、どっぷりと浸っちまった俺たちに差し込む日差しなんてありゃしねえ…。盗賊の頭ともなりゃあ、なおのこと…。知らなかったからカタギで(とお)しますじゃあ、シノギのために死んでいった仲間たちに示しがつかんであろう。パプリカにはきちんとケジメをつけてもらわねばな…」


「やっぱりはじめからそのつもりでいやしたか。宝を渡してチャラにしてもらうつもりでしたが…。足りなきゃあっしの命一つ足して勘弁してもらう訳にはまいりやせんか」


「ならぬ!ーーが、パエリア、お前の命は貰う。俺は貴様にも腹が立っているのだ。貴様も足ぬけにまんまと成功した口。盗賊は盗賊らしく盗賊としてのみ生きればよいのだ。足ぬけなどと腑抜けな輩を見るとその性根を叩き直してやりたくなるのだ。直らぬ奴はーー」


田楽は斬って捨てる真似をしたのだろう。露払いの風を切る音がする。


ーー隠れている俺たちの前を何かが走り去っていく。


キメラのパシェリだ。背中にはティラミスが乗っている。


パシェリだけは俺に気づき、敬礼をし、そのまま地下牢の部屋へと軽快なジャンプで躍り出る。


「ひゃっほう!」


ティラミスはご機嫌な雄叫びをあげる。


「お、お嬢!何でここに」


「あ、パエリア!探していたのですよ。何があったというのです、水くさい。パパ上様ならあっというまに解決して差し上げるというのに…」


「お嬢。これはあっしの問題でござんす。いくらお嬢でもーー」


「あ、それよりパエリア。これを見て。この塔は私の理想のワンダーランドなの。とある行動をとるとギミックが作動し、宝が出現するの。もう楽しくて楽しくて」


「お、お嬢」


「こーんな素敵なドレスにティアラまで!」


「ま、まさかお嬢…。100あるエニグマを全てお一人で…」


「いいえ…。途中、この穴が外に通じていたものですからパシェリも加えて…。あとこのお方も…」


「楽しいね、私知らなかったよ」


パシェリの背中からロコモコが顔をだす。


「ちょっと行ってくる」


話が数段ややこしくなりそうなので、俺もペスカトーレに断りを入れ、穴からしゃしゃり出る。


「あ、パパ上様」


ティラミスが両手を振る。


「ま、魔王様まで…」


パエリアの顔が青ざめる。


「100全てのエニグマを解いただと?それも小娘一人で短時間で…。ありえん!パエリア、貴様我々を出し抜いたな」


「何かマズイことでもーー。あ、失礼。これはこれは皆様初めまして。私、魔王が娘(仮)ティラミスと申します。以後、お見知り置きを…」


ティラミスは恭しく一礼する。


「お嬢、何てことを…」


パエリアは手のひらで自らの顔を叩き、天を仰ぐ。


不可抗力とはいえ全て台無しなったんだからそんな気分にもなるだろう。


「おい、パプリカを連れてこい!お頭、どうしやしょう?」


田楽の指示に子分が縄で縛られた前の頭の息子、パプリカを連れてくる。

パエリアは歯軋りしながらそれを見つめる。


「決まっている。全員抹殺だ。ーー魔王よ、久しぶりだな…。まさか、貴様が魔王になっていたとはな…」


マントを羽織った黒ずくめの男が田楽に並ぶ。結構な歳の男に見えるが、割りとしっかりした体格をしている。


「誰だ?」


俺は全く見覚えがない。ま、元々男には興味ないし…。


「俺だ、俺。俺、俺、俺だよ。魔王!」


胡散臭い詐欺のような呼び掛けに益々思い出すことができない。


恐らく、盗賊の頭になった男なのだろうが俺の知っている顔ではない。


「だから誰だ?」


「忘れたのか?俺は大昔、とある街の前でお前から金と財宝を全て巻き上げられた魔法使いだ!」


ああ、そういえばそんな奴、いたかもな…。


「巻き上げられたとは人聞きの悪い…。人様の物だろ?お前が盗んだもののくせに」


「くっ…。そ、それはそうだが…。そんなことはどうでもいい!貴様をぶちのめしてやる」


いや、どうでもよくない。ま、俺もサラに返した分を除いて使っちゃったし、他人のこと言える立場ではないけどな。


「ぶちのめす?お前がか?」


俺は鼻で笑った。


「ああ、俺はあの街で最強のチートなお方に出会いしたのだ。そこで俺はそのお方に指南して頂き、強くなった…」


「チートではないのか?」


話し盛っただけのハッタリか。


「嘗めているな?チートについた俺はチート級に強くなったのだ。来る日も来る日もあのお方についていき、俺よりはるかに強いやつを俺は平らげていった。あのお方はパーティを組まず、プロボーグや敵の足止めのみに徹しーー」


「ちょっと待て。そりゃ違法なPLじゃねえか」


PL。パワーレベリングの略。強い奴に金魚のふんみたいについていき、高レベルの敵を安全に狩り、レベルアップしていく違法行為の一種だ。


「とんでもねえこった。俺の手でバンと葬ってやる」


俺は身構えた。


「やれるかな?俺もチートな力を得たんだぜ」


奴も身構えるが、体感強そうには見えない。




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