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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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ペスカトーレ

「地下牢から蛇女逃げた。誰かが逃がした。番人青ざめて、すっ飛んできた。お頭バレたら大変」


「ヘビ女?」


俺はロコモコの話しにゴルゴンゾーラのことがふと心をよぎった。


「ん?魔王殿何か存じ上げておられるのか?」


田楽が俺をみる。


「いや…。どんな女かと思ってな」


「左様か。蛇女といってもヘビそのものの姿をした女ではないのだ。姿かたちは人そのもの。ただ頭にな髪の毛の代わりに蛇がたくさん生えておるのだ。見るものを石に変えるとか変えないとか…。まあ、モンスターの一種だ」


「なるほど」


俺は平静を装ったが、内心はヒヤヒヤだ。ある考えが起こったからだ。


ここに来る途中、城が見えたはずだ。この塔の北に。今年は城の王子殿が適齢期ということもあり、国の内外からお見合いを兼ねた舞踏会を催したのだ。みな良家の姫ぎみばかり。その中にどういうわけかモンスターである蛇女が紛れており、王の命により我々が捕らえたのだ」


「モンスターが何かしたのか?暴れたとか、人を襲ったとか」


「いや…。何も」


田楽は言い淀む。


「そりゃおかしいだろう。当の昔に王族会議で決定していることだ。モンブラン国王だって知っておろうに…。何故に無害なモンスターを捕らえたのだ」


そこは魔王として言うべきことは言っておく。でなけりゃ魔王になった意味はない。


「モンブラン国王は幼き頃、大きな紅き竜に噛みつかれたそうで…。長くてニョロリとしたモンスターに異様なほど拒絶反応を示すようになったとか…。それが息子の嫁候補に名乗りでたというのでどうにも我慢ならなかったようで…」


「候補とフィアンセは別物だろうに…。選ぶ権利は王族の方にあるのだろう。そこまで無下にせんでも…」


「ええ。ですから我々としても来週には釈放と考えていたのだが…。まあ、よかろう。城には近づかぬように注意はよく言い聞かせてある」


「来週?」


今すぐ無罪放免にしてください。魔王の威信にかけて抗議しますよ。俺は身構えた。


「舞踏会はこの騒ぎで一旦中止に…。また来週改めてということになりましてな…。王子殿もよほどショックだったのか、寝込んでしまい…」


モンスター見たぐらいで寝込むなよ。だらしねえな。将来王様だろうが。俺は内心そう思った。


「まあ、お頭がいない時の捕り物だから、特に報告することもなかろう」


田楽はロコモコに告げた。


「あんた頭いい。けっこう世渡り上手。伊達に最近配属されただけのことはある」


ロコモコが田楽を指差す。


「何だ、古株じゃないのか」


「ええ…。まあ、中央で少し…。あーそれより、娘さん、それから…何でしたっけパ、パ、パ…」


「パエリアだ」


ティラミスのしたことは大体想像できた。


おそらく幼馴染みのモンスター。牢屋見物でばったりあって、理不尽な投獄に腹を立てて、脱獄でも手助けしたのだろう。


ただでさえパエリアで手一杯だっていうのに余計な手間増やしやがって…。


見つけたら久しぶりにお仕置きでもしてやるか?

ティラミスの顔を思い浮かべる。


無理。


かわいいので出来ません。昔は結構できたんだけどな…。


なんでだろう。


「ーー魔王さん。今、イヤラシイこと考えていた。私わかる。男ヤラシイこと考えると変な笑い浮かべる」


無言で考え事していた俺に向かってロコモコが意味深な笑いを浮かべる。


「ち、違う!」


「あんたも隅に置けないね。ちょっとだけよ」


何教えてんだ。


「あ、いあ…。牢屋の番人は怪我がないのかと考えていただけだ、他意はない」


俺は口からでまかせ。取り繕う。しかし、これが意外なキラーパスとなった。


我ない。怪我ないけど怪我している。目に大きな傷。見ているこっちのほうが痛くなる」


「目?」


「いい加減にしろ、ロコモコ。おしゃべりして時間を潰そうという魂胆だろう。いつもそうやってサボろうとする。お前の悪い癖だ。報告がすんだなら早く持ち場に戻れ。お頭が何時なんどき戻るやも知れぬのだぞ」


「はーい」


ロコモコはゆっくりと体を揺らしながら元来た階段を下りていく。


「さあ、お前らも持ち場に戻るのだ。また、さっきのようなカミカゼが来るやも知れぬ」


田楽が手を叩くと兵士たちも足早に階段へと走っていく。


「田楽殿、牢屋番の男とは?目を怪我しているとか」


「詳しいことは私も知りませぬ。同じ頃配属された男なのでな。その男が何か?」


「いや、探している私の家臣を連れ去ったやつと同じような特徴を持っていたので少し気になったのだ。ここのお頭もパエリアのことをよく知っているような口ぶりだったからな。--それに妙な噂も…」


「妙な噂?」


田楽が眉を顰める。


「腑抜け盗賊改め方の件だ。俺にはどうもそんなことをする男には見えないのだが…」


「魔王殿のお耳にもお噂は届いていたか…。左様。表向きは気さくで仕事のできるお方。しかし、裏では我々を人とも思わぬ腹黒さ。私も噂の真意を確かめるためにこの塔へ派遣されたのだ」


「ふむ」


「何でもチートとかの使い手だとかで…、その強力な力でやりたい放題。賄賂に足抜け盗賊の始末。枚挙に暇のないほど悪行の数々…。目にあまります」


「中央には報告したのか」


「いえ…。しかし、我々の組織の不始末は我々の手でと思い、そこに魔王殿あなたがきら星の如く現れた…。どうか我々と共にお頭を討ってくだされぬか」


田楽が頭を下げる。俺は顎を撫でながら一計を案じていた。


話の筋というより何か引っ掛かるのだ。


うまくは言えないんだけど…。


「ダメでございますか」


田楽は頭そのままに目だけこちらに向ける。


「ふむ…。そんなに悪いのなら私も魔王の端くれ。田楽殿にお味方しよう」


「おお、ありがたい。魔王殿が加わってくれれば鬼に金棒。もし成功した暁にはパエリア殿の事は私が責任をもってお探し申し上げましょう」


田楽は嬉しそうに両手を差し出し、礼を述べた。


俺もガッチリ握り返す。相手の顔色を窺うがおくびにもださない。食えない奴だ。

「具体的にはどうするのだ?」


「まず手始めにこの塔にいる役人兵士たちを鎮圧する。我らが同士は一階に集まるように手配する。私も一人で乗り込んできたわけではないのでな…」

「なるほどな」


やっぱり役人に紛れて仲間が忍び込んでいるのか。そういえば盗賊どももこの塔を乗っ取るとか言っていたな…。


「それから後は作戦成功後に…」


「わかった。ーーが、その前に一点。娘を探しておきたい。と、言うのも奴もかなりの手練れ。加われれば百人力となる。さっき、ふと居場所が浮かんでな…。ちょっと探してきたい。何すぐ戻る。この塔の中だ」


「そうか。ならば早よう。我々は一階にて待つ」


田楽の言葉に俺は頷き、先に一階に戻る。ロコモコに地下牢への通路を案内してもらい、下りていく。


もうここ以外に考えられない。しかし、蛇女を解放してしまった後なら一足違いかもしれない。


とりあえず祈るような気持ちで地下を進んでいく。


土くれのデコボコの壁と石畳。天井から下がる灯りだけが拙い頼りだ。


足音がよく響き、時折顔に落ちてくる水滴の冷たさが余計に緊張を誘う。


「ティラミス」


静かに叫ぶが返ってくるのは反響した俺の声だけ。囚人の声すらしない。


おかしいな…。


そう思っていると、大きな鉄格子の扉が少し間隔を置いて二枚。


存在を誇示するように俺の行く手に立ちはだかる。


俺はダメもとで扉を押してみた。簡単に開いた。


もう一枚も同じように開く。


俺が恐る恐る先を進むと、両端に牢屋がずらりと並ぶ広間に出た。


「もしもーし。誰かいますか?」


返事がない。


俺は牢屋を一つずつ確認していく。どれももぬけの殻。囚人の一人も見当たらない。


「どうなってんだ?」


俺は訳がわからず首を捻った。あからさまに開いていた牢屋の一つに入り、床に手を置く。

温かい。他の部屋も同様だ。間違いない。誰かがさっきまでいたようだ。


「ティラミスの奴、全員逃がしたわけではあるまいな…」


俺は空の牢屋の前で頭を掻き掻き、周りを見回した。


「ん?」


一つの牢屋の前に大きな穴。その中からにょっきり人の手が見える。


「誰だ?ティラミスか?」


「や、やべえ見つかった」


女の声だ。手が引っ込んだ。中で大きな音がする。慌てて転んだようだ。


「ティラミスではないな。私は魔王と申す者。役人ではない。娘を探しているのだ。ブラチナホワイトの髪に武道服の娘だ」


「本当に役人じゃないんだな…?」


「ああ…」


「じゃあ、私を助けてくれよ。その娘に助けてもらったんだけど、はぐれちまって…。こんなかスゲーいりくんでんだ」


「お前蛇女か?名前はナポリたんか?」


「違うぞ。そりゃ妹だ。おじさん、知っているのか?妹のこと。私はペスカトーレ。ゴルゴンゾーラの次女。よろしくな」


ペスカトーレが穴から顔を出して、微笑んだ。





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