にわかに
ーーあなたの母上様は透明にされたのではなく、その日記そのものに変えられてしまった、そういうことはないですか?」
「日記に…?」
ティラミスは意外そうな顔をする。しかし、俺もその方が話し的にもすっきりするような気がする。
問題は何故今頃になって自分の存在をアピールし始めたかだ。
もっと早く。ティラミスが俺の城に来たときでもよかったのではないか?
俺はマーマレードの話に耳を傾ける。
「そうです。何かの事情により日記に封じられた。そして何かの事情により再び動き始めた。自らの封印を解かんがために…」
「何かの事情とは?」
「そればかりは私にもわかりません。封じた者と母上本人に確かめなければ…。日記に何か記されてはいないのですか?ーーどうすべきなのか、またはどうしてこうなってしまったのか…」
マーマレードの指摘にティラミスは革の表紙を繰った。
一頁から順に丁寧に目で追っていく。
時には頁を戻りながら真剣な表情で日記と向かい合っている。
しばらく沈黙の時が流れる。
「いえ…。何も…。ーーただ、母上様は時がくればいつかわかるとだけ…」
ティラミスは力なく項垂れる。
「だけど、まだ手掛かりがないわけじゃないわ。ーーほら、さっき言っていた…。ゴルゴンゾーラのナポリたんさん。その家族に会いに行けば何かわかるかも…。ねえ、魔王様」
ショコラが俺を見上げる。俺は腕組みをしたまま、ティラミスを見据えていた。
時はまだ満ちていないのだろうか?
もしもサラが生きているのならば会って色々聞きたいことがある。
ティラミスの父親のこと。なぜ日記を更新しているのならティラミスの問いかけに素直に応じないのか、などなどである。
「やはり、そのナポリ…たんとやらの家族に会いに行くしか方法はあるまい」
ーーその時、木の上から何かが奇声を発し、飛び立った。
「何だ?」
俺たちは空を見上げる。鳥の形をした石像のような物体が遠くに飛んでいく姿が見える。
「ガーゴイル…のようだな。なぜこんな場所に?」
ガーゴイルは本来雨どいのこと。魔物や動物をかたどったものが多く、装飾性に富み、宗教的意味合いがあるとも言われる。
こちらの世界では邪悪な者がその魔力により、生命を注入し、見張りや門番として都合よく使うイメージが強い。
とするならば、何かに見張られていたことになる。
「魔王さまあん。私が追いかけましょうか?」
ショコラが羽をばたつかせながら飛び立つ準備をしている。
「まあ、捨て置け。追いかけたところで魂を抜かれれば、ただの石に戻り、なにも出てきはしない。それに罠ならショコラ、お前の身が危ない」
「まあ、魔王さまったら…。だから私は魔王様が好き」
「ん、んん。ミスター魔王…。年頃の青年たちの前ですよ!」
ショコラが俺に飛びついた瞬間にマーマレードからクレームがついた。
俺は何もしてないもーん。ショコラが勝手に飛びついてきたんだもーん。俺は謝りながらも心の中でそう叫んでいた。
「--しかし、パパ上様、母上様は一体…?」
「案ずるな。生きているのなら何とかなる。疑念が確信に変わった今恐れることはない。善は急げ、さっそくーー」
そう言いかけたとき、また別の厄介事が飛び込んできた。




