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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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サラとメデューサ

「驚かしやがって、なんかすげえ魔法攻撃されるかとおもって焦っちまったじゃねえか。一人前にレアな武器なんか持って・・・。使いこなして初めて武器は武器っていうんだ。お前には勿体ない。よこせ、俺が的確に使ってやる」


ババロアはマルガリータに近づこうとした。


しかし、体が動かない。


「な、なんだ?」


剣を振りかざそうにも微動だにしない。


「最初にバイン・ザ・スパイダーを数発撃ちこみ、動きを緩慢にし、次いでアイスブレスを打って完全に足を止めました。もしここにジャッジ・オブ・ヘルを打ち込んだら・・・」


マルガリータはロッドを固まったババロアに向ける。


「もしってーー。お前に打てるわけないだろう?ファイヤーボールすらまともに打てないひよっこのくせに・・・。ジャッジ・オブ・ヘルっていったら闇を纏った業火だぞ。直撃で600ダメ。追加毎秒火属性ダメ100、闇属性ダメ150。それが3分・・・。回復もいないのにやべーだろ」


ババロアの声が震える。しかし、半信半疑であるのかすぐに気を取り直し、マルガリータにヤジを飛ばす。


マルガリータはそれを無視し、ロッドを構えると呪文を唱え始めた。


悪魔のような形をした黒い炎がババロアを掠め、飛んでいく。遠くの木に当たると追加ダメージの効果を見ることもなくすぐに溶かすように消し去ってしまった。

「あちゃー。ババロアは固まってたから逆に打たなきゃ呪文の効果を見せられなかった…。私のドジ娘さん」


マルガリータは自分の頭を軽く拳骨で叩くとペロリと舌をだした。


てへペロ…。生で初めて見たよ、俺。


「あわわ…」


バインの効果が薄れ、少し体の自由が利くようになったババロアが足を引き摺りながら後ずさりを始めた。


「おっと、逃がすものですか。ーーバイン・ザ・スパイダー!」


「うっ!」


「アイスブレス!」


再び、ババロアは体が固まった。


「いっくぞー。ーージャッジ…」


「ま、待った!わかった、そこまでにしてくれ」


「ほえ?」


必死で訴えるババロアにマルガリータは詠唱を中断する。


マーマレードが間に入るとババロアの方を向いた。


「ミスターババロア…。降参ということでよろしいのですね?」


「は、はい…。参りました」


力なくババロアは答えた。その瞬間、大歓声が上がった。


ティラミスとモナカがマルガリータの所へ駆け寄り、喜びあう。


「凄い、マルちゃん。いつの間にそんな魔法を?」


「へへ。昔お婆様が撃っていたのを見てどうしても…。どうしてもマスターしたくて…。これだけを毎日毎日練習していたんだけど上手く出来なくて…。この学院でずっと教えて頂いていたの…」


「へえ…。でも体系があるから初期魔法のスキルを身につけないと教えてもらえないんじゃ…」


ティラミスの言うことはもっともだ。例えば火属性ならファイヤーボールⅠから始まり、Ⅲまで修得すると初めてファイヤーエレメントという範囲魔法の修得が行える。


体系通りに進めないとMPの消耗がもろに体力への負担になり、命を削る結果になる。


「この子は、小さい頃から無鉄砲ですが、基礎だけは体に叩き込んであります。上手く使えないのが難点ですが、ジャッジ・オブ・ヘルの扱い方は見事でした。あれならばウイザードも夢ではないでしょう。ミス・マルガリータ」


マーマレードがマルガリータの肩に手を置いた。


「本当?お婆様!ーーじゃなかった…。学院長…」


「え?今なんて…」


ティラミスとショコラが同時に声をあげる。モナカは首を傾げる。


「あちゃー…。私としたことがうっかり口を滑らしてしまったのです。学院長御免なさい」


マルガリータが頭を下げると周りは鳩が豆鉄砲をくらったような顔で学院長とマルガリータの顔を交互に見比べる。


俺も呆気にとられた。


「ーーまあ、いつかはバレることでしょうから…。それより、ミスターカマス&ミスターババロア…」


マーマレードの問いかけにババロアたちは息を呑む。


そりゃそうだろう。いくら王家の中の王家といえど通っている魔道学園の学院長の孫に手をだしたんだから…。


ただじゃすまないことぐらい俺でもわかる。


「た、退学になんかしたら父上と母上に言って莫大な寄付を止めてやる…。そ、それでいいなら煮るなり焼くなり好きにしろ…。お、俺は…そ、その…あの…ババロアだあ…」

最後は消え入るような声で地面に囁いた。


「寄付なら今日たくさんもらいました。彼らに…」


マーマレードはティラミスたちを指差す。


「魔王たちが?いくら払ったんだよ?うちならその倍払うぞ」


「金ではありません。人材は宝という本質の問題です!」


「うっ…」


「処分を申し渡します。二人とも即刻に退学!ーーと言いたいところですが…。魔道も半人前。人間としての資質も半人前。しかし、ただやみくもに放り出すというのはわが学院にとってもこの上ない恥であります。仮にもわが学院の敷居を(また)いだにも関わらず何もかもが中途半端というのは教育者として無責任というもの…。きちんと育て上げるまでは退学は私の預りとします」


「びしびし鍛えるので二人とも覚悟しなさい!--笑っている場合じゃない、そこの三人!モナカ・ティラミス・マルガリータ。あなたたちもビシビシ育てますからそのつもりでついてきなさい」


「はい!」


三人は笑顔のままビシッと敬礼した。


「ーーところでミス・ティラミス。あなたが手にしている革の本ですが...それはどこで?」


マーマレードがティラミスの日記帳に興味を示す。


「これは、母上の形見の...いや、母上様の日記帳です。前魔王が攻めてくるとの情報が入ったときに母は赤子だった私を連れて城を抜け出しました。母は戦う意思を示したのですが爺様である国王とある知人の勧めで、説得に応じ、私のために泣く泣く逃げたのです。それから二年後、国が滅んだという知らせを聞いた母は身を寄せていた知人に私を託し、一人魔王に挑むために旅立ちました。その一年後、知人のもとにこの日記だけが届けられたのです。母の戦死の凶報と共に...。私は止める知人と決別し、魔王を倒すために旅立ちました。国と爺様、母上の敵を討つため...」


そんな幼い時から魔王の城を目指し、やってきたのか。幼き日のティラミスに俺は思いを馳せた。


「なるほど。あなたの苦労はよくわかりました。そしてあなたがその日記をいつも持ち歩いている訳も...。もう一つだけ質問があります。その知人とは魔道の心得があり、しかも人間ではありませんね、違いますか?」


「・・・・・・」


ティラミスが押し黙った。どうやら図星らしい。驚いた。俺たちより先にモンスター関係の者たちと交流があったなんて。そういえばティラミスは城に来た時からモンスターをひどく毛嫌いしていた反面、すごく懐っこかった。


俺は単に子供だからとか、あるいは人質が犯人にすり寄る奇妙な現象、ストックホルム症候群みたいなものかと思っていたがどうやら違ったらしい。一体どういうことなのか?


「やはりそうですか...。当時ならモンスターと通じているとなれば庶民はもちろん一国の主となればそれ以上の大罪として処刑されていてもおかしくはないでしょう。しかし、今は違う。これだけ仲良くなり共存している当たり前の日常になった。隠す必要はないはずです。何があったのです?」


「母様は人間とモンスターとの共存を夢見ていました。しかし、魔王という大きな悪意の存在の前ではそれは無意味。滅ぼされぬよう守ることで手いっぱいだったのです」


ティラミスはそう前置きをして話を始めた。


「あまりに強大な悪意は母上様の愛する者たちを次々と打ち滅ぼし、話も聞かず、襲い掛かってきた。その悪意の恐怖による支配は人間の憎悪を招き、モンスターたちへと向けられた。愛すべきものを失った者は敵対するモンスターの愛すべきものを奪った。やがて血で血を洗う復讐の連鎖となり、収拾がつかなくなる。だれも止められない狂気の渦は

種族の違いという垣根だけで分けられた友情さえも簡単に引き裂いていったのです」


視線を落とし寂しげに語るティラミスの頬を心配するかのように風が撫でていく。


「ミス・ティラミス。あなたのお母さまの友人...。それがモンスターだったのですね」


「はい。--メドウサと呼ばれる種族のモンスターの一家でした。敵味方となった後も変わらぬ友情で結ばれていたと信じていたのに...。母上様が魔王を退治しに乗り込むと言った矢先に...」


「サラを手にかけたのか?」


俺は思わず身を乗り出す。


「--私も初めはそう思っていました。というのは理由があります。母上様が出発を誓った期日は魔王退治をメドウサさんたちに告げてから一週間後のはずでしたのに、次の日の朝に私が目を覚ますともう母上様の姿がなかったのです。私はおかしいと思い、メドウサさんに問けいかけました。私の後追いを気にしたと誤魔化しましたが様子がおかしかったのです。妙にそわそわと落ち着きがなく、しどろもどろだし、泣きはらしたような顔をしておいででした。庭には争ったような魔法跡や木には刀傷。それに...血痕。私は彼女たちが母上様を手にかけ、魔王の手土産にしたと思いました」


「まあ..」


ショコラが鼻を啜る。じんわりと涙を目にためる。


「私は怖さのあまり水を汲みに行く振りをして荷物をまとめ、飛び出しました。魔王退治を胸に誓い、母上様の敵を討つため...」


「日記もその時いっしょに持って行ったのね?」


ショコラが訊ねる。ティラミスは首を横に振る。


「いいえ...。それはナポリたんが...。--ええと、ナポリたんというのはそのメドウサさんの娘さんで...。ゴルゴンゾーラ三姉妹の末っ子でして...。パパ上様、知らないふりをしてごめんなさい」


ティラミスは俺に頭を下げた。エルフの森で話が出たとき、どうも様子がおかしかったので知り合いなんじゃないかと思っていたがやはりそうか。


「別に気にするな。そのナポリタンがどうしたのだ」


「ナポリタンでもいいのですが、一応ナポリたんとお呼びしてください」


ティラミスにどうでもいい指摘を受けたので「わかった」とだけ答えておいた。

「--ナポリたんが追いかけて持ってきてくれたのです。母上が残していってくれたのだと...。私はナポリたんに母のことを訊ねました。しかし、泣いているばかりで答えてくれません。私はとうとう『死』という衝撃的な言葉を持ち出して単刀直入に母の身の上を訊ねました。すると今度は大きく頷いたのです」


「一体何が?」


俺は更に身を乗り出した。


「私と同じ年のナポリたんに事情など分かるはずもないのに私は怒りと悲しみでナポリたんを罵倒し、大喧嘩をして別れました。もう二度とモンスターになんか気を許すものかと...。しかし、旅をするにつれ、母の言葉がよみがえり、気づくと私は母と同じように傷ついたモンスターを介抱したりしていました。そして、魔王の城でパパ上様やズッキーニ、ショコラちゃんたちと出会い...」


ティラミスは俺たちを見回した。皆も真剣なまなざしでティラミスを見ている。


「ナポリたんたちとの楽しい思い出も思い出され、今になると何だかやるせなくなっていたのです。そんな矢先に母の日記に何者かが新たに日記を紡いでいることに気付いたのです。はじめはショコラちゃんだと思っていたのですがそうではなかった。そして、それはだんだんと母上ではないかと思い始めた。それも幽霊とは違って存在がある状態。きっと石ではなく透明にされた母上が日記に書き込んでいるのだと...」


「それで、賢者の鏡を」


「はい」


「で、居たのか?サラは城の中に...」


「いえ...」


「--いいですか?ミス・ティラミス」


マーマレードが手を胸元に小さく上げ、ティラミスと俺の会話の間に入ってきた。



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