仲間を信じろ
「あなたの攻撃なんてパパ上様が御遊戯がわりに小指で放ったランク1のファイヤーボールの数万分の一程度にしか充たない…。そんな攻撃をまともに喰らったからと言って私はやられたりしない…。弱き者、汝は敵の力さえも正確に見定めることができない」
ティラミスは涼しげな顔でゆっくりとカマスに近づいていく。
カマスは驚いて、ティラミスから逃げようとするが腰を抜かしてその場にへたりこむ。
恐怖に唇を震わしながらティラミスを見上げる。
ティラミスはただ冷淡にカマスを見下ろす。
ーーと、そこへ誰かが声をかける。
「騒々しい。何ですか?わが学院の敷地で騒いでいるのは」
大きなタマネギ頭。猫目にこれまた大きな眼鏡をかけた貴婦人がぬっと校舎の方からやってきた。
この学院の院長ミス・マーマレードだ。
「はい、私とカマス、そしてこの辺の皆さん、まるっと…」
ティラミスは自分を指差した後、ぐるっと辺りをその指でなぞる。
不利益となれどちゃんと自分も含めるとは…。
潔し!
ティラミス、躾が行き届いているな。パパとっても誇らしいです。
「ティラミス、またあなたですか…」
マーマレードはため息をつく。[また]って、ティラミスよ、そんなに問題を起こしているのか?
パパ、ちょっと子育てを反省。
「違います」
ティラミスは臆することなく、はっきりと主張する。
「ーーでは…。ティラミスさんのお父様にお聞きします。あなたは全てここで見聞きなさっていたはずです。どちらの言い分が正しいのですか?」
マーマレードは眼鏡の縁を指でつまむと軽く上下に動かした。
「私は娘が正しいと信じている。しかし、この一件は娘、ティラミスの案件。私が口を差し挟む筋のものではない。仮に娘の主張を正しいと私が擁護すれば娘可愛さに公平性を欠いた判断をしたのではないかと疑念を抱かせることになる。そうなればティラミスに多大な不利益が生じるのは必定…。」
「私の質問が野暮というわけですか…。ーーでは最後にもう一度だけお聞きします。ミスターカマス。あなたは嘘偽りないと誓いますか?」
「はい!」
「お黙りなさい!私の目や耳は節穴ではありませんよ、ミスターカマス!」
マーマレードは一喝するとポケットから貝を取り出した。闘技場で俺たちが使った声を拾う例の貝だった。
「後ろでちゃちを入れない!ミスターババロア…」
「げっ」
ババロアは驚いた。さすがは魔道学院を束ねる院長。だてにその肩書きをぶら下げているわけではないようだ。
「魔道を志す者に貴賤の区別はありません。健全なる心のみが必要なのです。どんなに素晴らしい魔法も遣う者の心根により善くも悪くもなります。この魔道学院を卒業する以上はわが学院の誇りと共に前者でなければなりません」
マーマレードはそこまでを一気に捲し立てた。生徒は一様に下を俯いたまま身じろぎ一つしない。
「ミス・ティラミス。あなたの行動は友人を救う行為として素晴らしい行為です。ーーが、しかし、あなたもまた当事者ではなく通りすがりの傍観者に過ぎません」
「え?どうしてですか?チームの一員で友人なのですよ。モナカやマルちゃん。いや、マルガリータがやられているのに見て見ない振りをすることなんて絶対できません!」
ティラミスはマーマレードに歩み寄る。マーマレードは静かに片手を前にだし、ティラミスを制する。
「静粛に…。ミス・ティラミス。ミスターモナカ、及びミス・マルガリータの二人、彼らも一人の魔道を志す同士なのです。毎度毎度あなたの助けを借りているようでは冒険者としてこのワールドで生きていくことはできないのです」
「しかし…」
「静粛に!まだ、話しは終わっていませんよ、ミス・ティラミス」
マーマレードは更に強くティラミスを制する。ティラミスは口を真一文字に結び、ぐっと堪えた。
「ミスターモナカ及びミス・マルガリータ。あなたたちがわが学院の生徒であるならその誇りを胸に立ち上がりなさい!自らに非がないのであればなおのこと…。そして、ミスターカマス及びババロア…。わが学院に泥を塗った行為。本来なら退学処分と言いたいところですが…。私も鬼ではありません。チャンスを与えましょう。二対二の決闘を学院長の名においてここで許可します!」
生徒たちがざわめいた。ティラミスは抗議しようとしたが俺は腕を掴んで引き寄せた。
「パパ上様、これではーー」
「お前の言いたいことはわかるが、仲間を信じられないのか?」
「それはーー」
「ティラミスちゃん。大人になるってそういうこともあるのよ…。マルちゃんたちをもっと信じて応援してあげて」
ショコラがフラフラと立ち上がる。今にも倒れそうなので俺が支える。
「わ、わかりました」
ティラミスはマルガリータとモナカを見る。
「ティラちゃん、私がんばるから…。やあだー、そんな心配そうな顔しないで。ーー学院長のいう通りやらなきゃならない時にやらなかったら私ここに来た意味ないもん。私には私の夢がある。ウイザードになるっていう夢が…。だからここに来たんだもん」
マルガリータの頬に一筋の涙が光る。
「わかった。マルちゃんの応援全力でするから」
ティラミスはマルガリータの頬を拭った。マルガリータは「へへ」 と鼻を啜りながら微笑んだ。
「早くしなさい、マルガリータ・モナカ!」
マーマレードは二人を促した。すでにカマスとババロアは軽くウオーミングアップがてら派手に魔法を放ちあっている。
「は、はい!モナカん行こう」
マルガリータはモナカの腕を引っ張って連れていこうとするがデカく、重いモナカは動かない。
俺の方を黙って見ているのだが様子が変だ。
まるで遠くにある景色でも見ているかのようにおでこに手でひさしをつくってじっと俺を見つめている。
「何をしておるモナカよ、早よ」
俺はババロアの方を指差す。
「わかっておりますが、魔王様が私に敬礼を返して下さらないので…」
「モナカよ、敬礼はこうだ、こう…」
俺は模範の敬礼をモナカにして見せた。
「はっ!私としたことが…。行って参ります」
モナカは一礼してマルガリータをぶら下げていることに気づかず、マーマレードの元へ馳せ参じた。
「大丈夫…かしら…」
ショコラが不安そうな顔をする。
「ま、何とかなるだろう?なっ、ティラミス」
俺がティラミスを見ると手を組合わせ、一心に祈っていた。
俺はそれ以上ティラミスに声をかけるのを止め、二人の戦況を見守ることにした。




