ティラミス出陣!!
「止めてってばー。モナカんもショコラさんも一体何をしたって言うの?お願いだから」
見るとモナカの足元にはもう一人。マルガリータが土埃にまみれ、ボロボロの姿で倒れていた。
近くの男の学生、たしかカマスとかいった奴だ。
そいつの足にすがり付き攻撃を止めさせようとしていた。
きっとティラミスが来るまでモナカのサポートと回復をしていたのだろう。しかし、多勢に無勢。MPが切れてやられてしまったに違いない。
マルガリータを守るために今度はモナカが身を呈していたか…。
「マルちゃんにこれ以上手出しするな、女の子だぞ!」
モナカがマルガリータとカマスの間に割って入る。
うるせえ!ただ図体でかいだけの頭でっかちにドジ女が!ーーいいか、お前たちはこの学園のクズなんだ。身分の高いババロア様の莫大な寄付というご慈悲に感謝もせずヌケヌケと学園生活を送り、挙げ句の果てには落ちこぼれのクセにババロア様を小バカにする始末。お前らみたいなウジ虫どもがいるから学園が腐るんだよ、とっとと出ていきやがれ!」
カマスはモナカの腹に一撃蹴りを加えると素早い動きでモナカの頭まで飛び上がり、剣の柄で額を殴り付ける。
「うっ」
モナカは出血し、膝をついた。他の連中もそれを合図にモナカに集中砲火を浴びせる。
「トロい野郎だぜ。トロトロトロールのモナカちゃーん」
周りが爆笑する。俺は静かに見据える。
ティラミスは俯いたままゆっくりとモナカに近づいていく。
カマスたちは気づかない。
心も体も傷ついたモナカ。膝をついたまま天を仰ぎ動かない。
ただ、小さな肩を震わしているマルガリータの身だけは自らの大きな体の後ろにしっかり隠している。
「四つん這いで御免なさい…。それで許してやる。二人…いやその飛んでいるデーモンと三匹並んで学園みんなの前で、だ」
カマスはモナカを見上げる。マルガリータは怖いのだろう、モナカの腕にぎゅっとしがみつく。
「ご、御免なさい」
モナカが絞りだすような声で言う。
「四つん這いでだよ!お前一人じゃ足りねえし」
カマスがにじりよる。
モナカが目を強く瞑り、激しく頭を振り続ける。
「モナカん、ダメ。私も一緒にーー」
「違う!マルちゃん」
モナカは震えながらも前に出ようとするマルガリータを後ろ手に押さえ込む。
「ち、違うって?」
「おうおう、女の前で格好つけようってか?お似合いだぜ。クズとクズ同士な」
カマスは馬鹿笑いを始める。
「ーーこんなクズたちに頭を下げることなんて必要ない。[できない]からスイマセンと言う意味で[御免なさい]と言ったんだ」
モナカはゆっくりと立ち上がった。
「クズのくせに俺たちをクズだと…?」
今度はカマスの方が静かに怒り、震える。
モナカたちに集中砲火を浴びせていた他の連中も黙って睨みつけている。
俺はその隙にふらふらになりながら逃げ回っていたショコラを回収し、安全な場所まで移動する。
「ま、魔王様…。ショコラ、もう無理…。い、一ミリも羽が動かせない。明日は筋肉痛…」
ショコラが目を回して倒れこむ。
羽がない俺にはわからないが、そうか…。羽も筋肉痛になるんだな…。
変なことに感心してしまった。
そうこうしている内にモナカとカマスのにらみ合いはヒートアップしていた。
「ーークズにクズ呼ばわりとは…。我が、カマス家は元を質せば旧ババロア家、家臣団長の出。そこから枝分かれした分家の分家といえど貴様らごときにクズ呼ばわりされる筋合いはない!ーー貴様のように卑しいトロール族の分際で俺に歯向かおうなんて…。わかっているんだろうな?」
「生まれなんて関係ない!」
声の限りにモナカは叫ぶ。
「関係ないかどうか、てめえの身体で試してみろ!」
カマスは鋭い刃先の剣を抜く。今までのように痛めつけるのではなく、明らかに殺傷を目的とするようだ。
「のろま野郎、覚悟!」
カマスが飛びかかる。
俺以外の誰もがモナカが斬られた、そう思ったはずだ。
しかし、モナカの身体に傷ひとつない。カマスの両手に握られていたはずの剣は真っ二つになり、宙を舞い、誰もいない遠くの地面に突き刺さっていた。
「涙さえ…でない…」
ティラミスは左胸を押さえていた。モナカたちとの距離は遠くはないものの立ち話するには少し離れている。
恐らく、魔法を使ってカマスの剣を弾き飛ばしたのだろう。
修道服姿のティラミスがゆっくりとモナカたちに近づいていく。
「な、なんだ…。魔娘か…。驚かしやがって…。お前もモナカみたいにやられに来たのか?」
カマスがすぐ横を通りすぎたティラミスに声をかける。しかし、ティラミスは無視してモナカの前にそっと立つ。
ティラミスの細いが真っ直ぐの指がモナカの胸元に置かれた。
「悲しい…」
「ボロ負けして悔し涙か?負け犬にはお似合いだがな」
「涙さえでないほど悲しい。怒りにも似て…。でも、それすら通り越して。同じ人間として情けなくて…。色々な感情が渦巻いて、この感情に一体何と名前をつけたらよいのでしょう…」
「はあ?お前、何言ってんの?なあ、お前らもおかしいよなあ?なあ、そうだろう?あっはっはっは…。ーーは、は…」
カマスは仲間に賛同を求めるように見回したが、今度は誰一人笑わない。
下を俯いて、目を合わさないようにしている。
「どうした、何をビビってんだ、お前たち?俺たちのバックにはかの王族の中の王、ババロア家がついているんだぜ」
「ーーなら、あなたは一体何者なのですか?あなたにもあなたが背負っている家があるはず。誰かの権威の威を借りなければ物が言えないあなたは一体何者なのですか?あなたの行為は自身の家にも泥を塗り、この学院まで貶める恥ずべき行為です!」
「うるせえ、訳のわからないことほざきやがって。まずはてめえからだ!」
「ウインド・エスケープ!」
ティラミスはカマスの拳を軽く避けると、後ろにいたモナカとマルガリータを俺の前まで吹き飛ばす。
二人の安全を確保した上でカマスに正面から向きなおすと、二つの瞳で瞬きもせずに睨み付けた。
両の手は固く握られ、真っ直ぐ。仁王立ちの状態で構える。
「この間みたいにはいかねえぞ。ルール無用に動き回れるんだからな」
カマスはティラミス目掛け、怒濤の如く炎を繰り出していくが、ティラミスはいとも簡単にすり抜けていく。
自ら手出しはせず、黙ってカマスの攻撃を受け流していく。
「案外すばしっこいな…。だがまだまだー!」
カマスは縦横無尽に駆けずり回り、四方八方からティラミスを攻め立てる。
ティラミスはゆらりと柳の枝の如く、指一本触れることなくカマスの攻撃を避け続ける。
「避けてばかりで…。本当は手も足もでないんだろう?弱虫め!」
カマスはサンダーボルトの呪文を唱え、上空からティラミスを狙い打ちにかかる。
「ーー避けてばかり?あなたは何もわかっていらっしゃらない…。悲しくはないのですか、せっかく人として生まれてきたというのに…。ーーそしてもう1つ。私は手も足もでないのではなくて、あえて出さないということも…。あなたのような愚かな者にだす拳なんてどこを見渡しても見つからないのです。ですから私は手も足もださない」
ティラミスは真上のカマスを揺るぎない瞳で見上げる。
「も、モノは言い様とはこのことだぜ。お、俺が愚かだから手を出さないだと?ーーよくいるよな。ボコボコにされといて今日はこのぐらいで勘弁してやらあ、とかいう輩。お前もその口か?」
カマスはティラミスの眼光に一瞬怯みながらもそう叫んだ。
それと同時に手から放たれたサンダーボルトの魔法は雷鳴を響かせティラミスへと降り注ぐ。
目映い光に目が眩む。最初に焦げた臭いと炎の音。最後に黒煙の立ち上る光景が俺たちの目に飛び込んできた。
ティラミスの立っていた位置は特に酷い。勢いよく火柱も上がっている。
ショコラとマルガリータは抱き合って悲鳴に近い泣き声をあげた。
「俺に逆らった罰だ」
カマスはどうだと言わんばかりの得意顔で着地する。
燻る煙が静かに晴れ行く。




