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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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婿GETついでに鏡もGET

「お前がニラレバか?」


「僧正様と呼べ…。徳が高く、このような若い歳でかような地位に昇りつめた私を呼び捨てにするとは無礼千万…」


ニラレバは杖を高く掲げると、軽やかに体の周りをくるくる回して見せた。


「若いって歳いくつだ、お前?」


「30だ」


「30?嘘つけ、もっといってんだろう」


シワだらけの褐色の肌。どう若く見積もっても50くらいにしか俺には見えない。


「貴様…。老けているとでも言いたいのか?ますます無礼な奴だ。ーー私はお前と違ってのほほんと遊び呆けているわけではない。厳しい修行の果てに境地にたどり着いた尊い者なのだ。今から貴様に裁きを加える!」


「何が尊いだ。自分がモテナイ腹いせにエルフたちを殺戮しやがって…」


「私という尊い者に逆らったからだ。天の報い、当然の結果だ」


ニラレバは杖で殴りかかってきた。俺はマタドールのように華麗に身を翻し、ニラレバから杖を取り上げる。


ニラレバは何も持っていない手で一生懸命に俺を突こうとする。


「何をしておる?」


俺は取り上げた杖を自らの手の上で弾ませる。


「な、何?い、いつの間に…」


ニラレバはギョッとした顔で俺を見る。ようやく杖を盗られたことを理解したようだ。

「ニラレバよ…。俺はお前と遊んでいる暇はない。お前が尊いか尊くないかなんて俺にはわからねえ…。でもな他人の尊い命を理由もなく奪って平気でいられるお前のひね曲がった根性は俺は嫌いだ。だから俺がお前を懲らしめてやる」


「ほう…。できるものならやってみろ!私はこの世で一番尊き存在。ニラレバ僧正なるぞー!」


「瞬殺!」


俺は向かってくるニラレバの腹を奪い取った杖で突いた。


ニラレバは白目を剥いて前のめりに崩れ落ちていった。


「安心しろ、俺は命までは取りはしねえ…。ーーそれだけじゃねえ。お前の望みも叶えてやる。とっても度量の広い男だ。覚えておけ、俺が魔王だ!」


俺は気絶したニラレバの上に杖を放り投げた。そしてニラレバの頭にもしもの時に備えて常備していた変装イケメンマスクを被せ、背中に背負った。


「さて…。急いで戻るか」


俺はティラミスたちのもとへ走り出した。


背中にニラレバは背負っていたが行きよりも短い時間で帰りつくことができた。


「パパ上様!」


ティラミスが手を振り、俺の労を労う。


「ん、待たせたな…。ティラミスにピーター。そして…ドリアード」


俺は背中のニラレバを地面に下ろした。ピーターの顔色を伺うがバレていないようだ。


一応来る途中で水を大量に流し込んだり、落ちていた服を着させたりして更なる工作をしてきた。


「魔王殿。ーーでニラレバはいかに?」


「瞬殺してきた」


ある意味瞬殺な。


「なるほど。かたじけない」


ピーターは天を仰ぎながら男泣きを始めた。積年の恨みが晴らせた上に追われた故郷が帰ってくるのだから感慨深いのであろう。


「パパ上様、ところでこの方は?」


ティラミスは落ちていた木の枝でニラレバの顔をつつきながら訊ねた。


「ん?ああ。ドリアードの婿殿だ」


「この方が?いつご連絡を差し上げたのですか?」


「そこはほれ…。なんつーか、その俺がチートな魔王だろ?仕事も早いわけよ。わっはっはっは」


「さすが、パパ上様」


俺はティラミスを誤魔化した。


「何から何まで…。魔王殿、かたじけない」


ピーターは更に泣きじゃくりながら俺に握手を求めてきた。


俺はそれに応じた。ピーターも誤魔化せた。


「さあ、早よ早よ。ドリアードに面通しを」


「パパ上様、でもこの方は気を失って」


「愛があれば気の一つや二つ失っていたからってどうってことはない」

どうせ、木になるんだし…。


「そうですね」


ティラミスも納得した。俺は無理矢理ニラレバの半身を起こし、ドリアードに近づけた。


「パ、パパ上様危ない!」

ティラミスが俺を揺り動かす。


「どうした、ティラミス?」


「また、白目を!」


「何?」


やべえ、まだ俺を狙ってやがるのか。さっさとニラレバを押し付けないと俺が命を取られる。


「ド、ドリアード…。俺ではなく、お前の婿をここに…」


俺はニラレバをドリアードの顔に近づけた。ドリアードは無表情でニラレバのイケメンマスクをなめ回すように眺める。


怖え…。早く気に入ってくれ。俺はニラレバを更にドリアードに押しつける。


「これ…いい…かも…」

ドリアードがニタリと笑った。


「おお、気に入ったか!」


ピーターは喜び、俺に顔を向けた。俺もほっと胸を撫で下ろした。


「では…」


ドリアードがそう言うと見る間にニラレバは木に吸い込まれていく。


「何から何まで…。魔王殿、何と礼を申してよいやら」


ピーターは恐縮しきりだ。ドリアードにも礼を言うように袖を引く。


「祝ってやる…。今日から旦那様との愛しい日々を…。徹底的に一生…、いや、未来永劫子々孫々末代に至るまで祝いつくしてやる…。ありがとう」


「いや、ど、どういたしまして…」


呪ってやるような口振りだな。背筋が寒いぜ。


ドリアードは頭を下げるとすっと消えていった。


俺はやれやれと安堵のため息をついた。


「ここまでして頂いたからにはこちらも何かしないわけにはいくまい…。お礼をばさせてくれ」


「では?」


ティラミスが身を乗り出す。ピーターはにっこりと微笑み、頷いた。


「そなたが望む賢者の鏡を貸し与えよう。皆には私から言っておく」


「しかし、総意が必要なのでは…」


俺が言うと、ピーターは手のひらを前に差し出し、それ以上言うなという意思表示をする。


野暮ということか。

「謀らずとも、故郷もかえり、ニラレバたちもいなくなった。そればかりかドリアードに勿体ないほどの婿を探して頂いた。これ以上していただき、皆に何の不満があろう…。受け取ってくれ」


「では、遠慮なく…。必ず返しにくるゆえ…。ーーよかったな、ティラミス」

俺はティラミスを見た。

「はい!」


ティラミスは溌剌とした返事で目を輝かす。


俺はティラミスの頭を撫でた後、森から草原の洞窟へと歩き出した。


パシェリも洞窟の入り口付近で羽を休めているはずだ。


ピーターは一足先に走り出した。鏡を取りにいくためだ。


ピーターが鏡を取りに行く間に森の中から兵士の一団がこちらに向かって行進してきた。


勇ましき兵士の集団は隊列を乱すことなく、纏う甲冑の軋む音さえもきちんと揃っていた。


「何の兵士でしょう?」


「さあ?」


ティラミスの問いに見当もつかず、俺も首を傾げたがその答えはすぐにわかった。


兵士の後ろには鎖で繋がれたニラレバの配下が引きずられていたからだ。


「治安維持の役所の兵士のようだな…」


俺はティラミスに小声で呟いた。


「貴様ら!かようなところで何をしておる?手配されていたニラレバの一味の者ではあるまいな」


兵士の一人が俺たちに槍を向けてきた。


「いえいえ滅相もございません」


俺は下手に出て頭を下げた。


「怪しい…」


更に兵士は槍を突きつけてきた。


「ーーまあ、待て。そのお方はそんな輩じゃあねえよ。そんな物騒なもんは引っ込めな。ーーでないとお前が痛い目に遭うぜ?」


兵士の後ろからドスの効いた渋い声がした。


馬に乗った角刈りでホームベースのような顔つきの男。


それが声の主だった。兵士はその角刈りが近づくと慌てて槍を引っ込め、姿勢を正し、敬礼した。


どうやらお偉方らしい。


俺たちも一応会釈する。


「ーー魔王様とお見受けしましたが…。ーーわしは盗賊改め方の頭領、金平(コンペイ)と申す者。決して怪しいものではござらん」


金平は馬から飛び降りると軽く会釈した。


「盗賊改め方?」


どっかで聞いたことがあるがこっちのワールドでは初めて聞く役職だ。


「去年、ある城の王様にお願いしてな、わざに新設して頂いた役職なのだ。この間、ほれ…。倉庫強盗の一件…。あれを解決してくれたというのでな、一目顔をと思ってな…。さすれば森の中には手配されていたニラレバの一味が…。ニラレバはどこぞに消えておったが、これもお前さん方が?」


「うむ。エルフが困っていたのでな…。あの倉庫強盗に後慈悲を与えたというのは金平どの、あなただったのか?」


「うむ…。話してみればいいやつでな…。二度と悪さはしねえと踏んだからな…」


江戸前の話しっぷり。コイツもチートのニオイがする。


「じゃあ、俺たちはこれで邪魔するよ。コイツらからニラレバの行方を聞き出さねばならねえからな…」


金平は腰に下げた十手を高々と上げると兵士に進めの合図をだした。


兵士は敬礼をすると一子乱れぬ行進を開始する。


金平はそれを嬉しそうに眺め、隊の後ろから歩いていった。俺たちも一礼して見送る。


「ーーああ、そうそう…。お前さんたちのところにパエリアってじいさんがいるだろう。アイツはまだ元気か?」


しばらく歩いていた金平が十手を肩に振り返り、訊ねた。


「ん?あ、ああ。知り合いか?」


「まあ、昔ちょっとな…。元気にやっているならそれでいい…。たまにはアイツの料理で酒でもやりたくてね。どうだい魔王様も」


「では近いうちに」


俺がそう答えると、金平は満足そうに頷きながら再び歩き出した。


俺は少し心に引っ掛かった。


「パパ上様、あの武器不思議ですね。剣先が丸くなってます。どうつかうのでしょう?」


ティラミスは十手に興味津々だ。なるほど。こっちにはまずない代物だからな。


「あれはな剣を受けたり、叩いたりしてだな・・・」


俺は十手の説明をティラミスにした。ティラミスは目を輝かせて俺の説明を熱心に聞いていた。


そこへピーターが鏡を手に息を切らしてやってきた。


「そんなに急がんでも・・・」


俺は恐縮してピーターを労う。


「いや、恩人を待たせるなどエルフの恥。--これを」


ピーターは鏡を俺に差し出す。俺は両手でそれを受け取った。俺たちは三日後に返す約束をしてその場を去った。














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