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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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婿をお探しなら

「俺は魔王だ。そしてお前が仲間と呼んでいたのが娘のティラミスだ。ーーティラミス、気づいたか?」


俺が呼び掛けるとパシェリの背中に揺られながらティラミスが近づいてくる。


「私は一体?」


半分まだ寝ぼけたような感じだ。操られている時の記憶がないのだろう。


「あとで話してやる。ーーええと、こちらのエルフは…」


まだ名前を聞いてなかった。


「俺はコーン。ピーターコーンだ」


「初めまして、私ティラミスと申します」


パシェリの背中からゆっくりと降り立つと一礼する。


「--なるほどな。魔王ならば納得がいく。このような辺境の地でもそなたの話は届いている。無礼のほどをご容赦を。ただ賢者の鏡は我らが国宝、たとえ魔王といえど一存でそいほれとお貸しできるものではない。わかっていただきたい」


ピーターは頭を深々と下げた。


「いやいやこちらこそずかずかと土足でエルフの領域に足を踏み入れるような真似を・・・。そういえば、さっきニラレバがどうのこうのと言っていたな。話のついでだ、訳を聞こうか」


「しかし、通りすがりの魔王に・・・」


ピーターは言いよどむ。


「よっぽどひどい目にあわされたと聞く。--心の傷に障るようならわざわざえぐる真似はしないが、これも何かの縁役に立てるかもしれないぞ」


俺はその場に座り込んだ。ピーターも腰を下ろす。話す気になったようだ。


「ーー我々エルフは森に住んでいた。大地と風と共に狩猟をし、それを生業とし生きてきた。自然が破壊されれば我々は生きてはいけない。ゆえに自然と調和し、生かされていることを常に自覚し、生活に必要な分の狩りだけを行う。それを鉄則に代々受け継いできたのだ」

「なるほど」


いつの間にか俺たちの周りにはエルフたちがやって来て同じように座り始める。


取り囲むように輪になってはいるが、もはや敵意はない。黙って静かに俺とピーターの話しに耳を傾けている。


「しかし、奴らが森にやって来た頃から生活は一変してしまった」


「奴らとは…、ニラレバの事か?」


「ああ…。奴ら、ニラレバは強大な力をもって我らを凌駕し、瞬く間にエルフを制圧してしまった。抵抗する者は無惨に殺され、命からがら逃げ延びた我らはこの洞窟の中へ…。追っ手から逃れるためかべの歪みにあった穴から空洞になった広間に逃げ込み暮らしていたのだ。大蜘蛛も退治したつもりでいたのだがまだあんなにいたとは…」


辛い過去を思い出したためかピーターの目に涙が滲む。悟られぬように下を向き、顔を隠した。俺は気づかぬフリをして、質問する。


「難儀だったな。それでニラレバの目的は何なのだ。自分の力を誇示するためだけにエルフを襲ったわけではなかろう。何か理由があったはずだ」


「ゴルゴンゾーラ三姉妹…。というのは聞いたことないか?」


ティラミスの眉が微かに動く。


「いいや…。どんな姉妹なのだ?」


俺は気づかぬふりでピーターに訊ねる。


「見たものを石に変えると言われる怪物の姉妹だ。その末っ子の気を引くためにニラレバは森にある禁断の果実を手にいれようとしたのだ」


「禁断の果実?」


「異性に食べさせればたちまち恋に落ちる果実だ。一年に一つしか実らない。たいていはどこぞの王族などが来て意中の姫を射止めるために莫大な金をもって我々に交渉にくるのだがーー」


「だが?」


「それを渡すことも存在することさえ我々エルフは否定して断っている」


「なぜだ?」


「金など我々エルフには役に立たない。そしてその果実は他に使い道があるのだ。ーー魔王よ、ドリアードという生き物を知っているか?」


「木の精霊か。一つの木に宿りその木が枯れると死んでしまうという精霊だな。詳しくは知らないが名前だけは聞いたことがある」


「美女の姿をしている」


「な、なに?」


俺は思わず反応してしまった。

「婿探しをしている。絶滅危惧種なのだ」


「なるほど、そのために果実が・・・。ごほっごほっ」


平静を保ちつつ、わざと咳払い。自己アピールしちゃう俺。一応独身だぜ。


「--昔は積極的で自ら見つけてきたものだが、最近の娘は奥手でな。困っているのだ」


「まあ、あてはなくもないが・・・」


俺は自らの胸のあたりを軽くたたいて控えめアピールする。


「パパ上様いらっしゃるのですか?」


「ん?あ、ああ…。ま、まあ一応」


しまった、ティラミスがこの場にいた。俺はごまかす。


「本当か?それならありがたい。困っていたのだ。なり手もいなくて・・・。なんせ、ドリアードにいったん好かれてしまうと木の中に取り込まれてしまうものだから皆敬遠してな。なかなか婿が見つからなかったのだ」


ピーターは胸を撫で下ろす。ちょっと待て、木に取り込まれるって木と同化しちまうってことか。嫌だよ。あぶねえ、先に聞いておいてよかった。


「パパ上様、してその心当たりとは?」


「ん?まあその話はさておきまずは本題だ。ニラレバの話が先だろう。ドリアードの婿取りはそのあとだ」


俺は矛先を変える。とりあえず婿という名の生贄のことは俺も後で考える。

「そうですね…。で、ニラレバは森のどこに?」


ティラミスが訊ねる。


「森の左奥に鍋の取っ手と呼ばれる場所がある。半円状に崖からつき出すようになっている草原地帯だ。そこに祭壇を設け、森の統治を行っている」


「なら行ってちゃちゃと片付けちゃいましょう」


「そううまく事が運ぶなら我々エルフもさっさとニラレバを討伐している。ーー奴は森の中にたくさんのバジリスクを放し飼いにして自分の周辺を守っているのだ」


「バジリスク?」


ティラミスは不思議そうに俺の顔を見る。


「鶏のような鶏冠とクチバシ、そして羽を持つ大きな体の蛇だ。見るものを石に変えるというな…。何処と無く先のゴルゴンゾーラとやらに似ている」


俺はティラミスにかまをかける。


「ナポリたんとは…。いや、ゴルゴンゾーラたちとは違うと思いますが…」


ティラミスは言い直す。ナポリタン。ゴルゴンゾーラの三姉妹の誰かの名前だろうか?


名前まで知っているとなるとかなり親しい間柄なのかも知れない。しかし、俺はここではあえて触れないことにした。


あの闘技場の一件以来ティラミスの様子が変で何かを隠しているのはわかっているが、下手に突っ込んで心を閉ざされても困るからだ。


俺は「そうか」とだけ軽く答えて、立ち上がった。






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