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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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一難去って

「むっ!何奴」


「おとなしくしろ!お前が歯向かえば仲間の女の命がないぞ」


両脇の岩影から飛び出た者たちが宝箱の前に進み出ると松明に灯りを灯し、中の様子を俺に見せる。


それと共に敵の正体も知れる。耳の尖った小人、エルフだ。


馴れてきた目に宝箱の中身が映し出される。飛び込んできたのは丸く青白い玉。炎のようにゆらゆらと揺れている。


「女の魂だ。お前が黙ってやられなければあの魂を消し去る。女はずっとあのままだ…。だが、お前が黙ってやられれば女の命だけは助けよう。どうする?」


「何のためだ?」


俺はエルフに訊ねた。


「しらばっくれるな!貴様らが我々にしてきた数々の苦行。故郷を追われ、仲間たちと殺しあいをさせられ、かような洞窟に閉じ込められた我らの苦しみ、忘れたとは言わせぬぞ!」


「どこぞの誰かと間違っているようだが…。我々は通りすがりのもの。ここにあるという鏡に用があって参ったのだ」


「何?賢者の鏡にとな?ーーニラレバ僧正の手のものでないとしても、その鏡を奪おうとするのであればどこの馬の骨とて生きて帰すわけには行かぬ!どちらにせよ、お前たちには消えてもらう」


エルフたちは剣を抜いて構える。ティラミスもいつの間にか剣を握り、俺に近寄ってくる。


「ーーどうしてもというなら仕方ないな…」


ティラミスの命を人質にとられては仕方ない。俺は腹を決めて、その場に座り込んだ。


「潔い覚悟だ。仲間の手で散るがよい」


「あー…。その前に一つだけ頼みがある。ーー死ぬ前に…。死ぬ前に一服だけ吸わせてくれ。そうしたら思い残すことはない。頼む」


俺は土下座した。


「どうする?」


エルフたちは顔を見合わせる。真ん中にいる奴に視線が集中しているので恐らくコイツがエルフたちのリーダーなのだろう。


「まあ、いいだろう。ニラレバの手のものでなければそこまで否定することもあるまい。ただし、下手な真似をすれば仲間ともども命はないぞ」


「ありがたい」


俺は礼をのべてズボンのポケットから一本取り出し、口に含んだ。


深く吸い込み、強く吐き出す。これを何度か繰り返す。


「もういいだろう。いつまで吸っているつもりだ」


「うむ」


数分ほど吸ったり吐いたりを繰り返した俺に痺れを切らしたリーダーが剣を突きつける。


「やれ!」


リーダーが叫ぶと操られているティラミスが剣を振りかぶる。


「ぎゃー」


「何事だ?」


悲鳴は俺ではない。宝箱のある方から響き渡る。エルフたちは何が起きたのかわからず一斉に宝箱の方を振り返る。


「クエーッ!!」


到着と任務完了を誇示するかのようにパシェリが一声発する。


どうやらティラミスの魂を取り返したようだ。


俺が口にくわえていたのはタバコではない。キメラ笛だ。


ティラミスとパシェリが散歩に行って迷子になったときよく吹いたものだが、最近は吹いていない。


万が一のために持ち歩いてはいたが、パシェリは久し振りの割によく聞き分けてくれた。


「くっ、奪われたとはいえまだ本体は脱け殻…。この娘から葬ってくれる」


リーダーは振りかぶったまま棒立ちのティラミスに斬りかかる。


「うっ!」


「ーーそのまま斬られるのを黙って俺が見過ごすと思っていたのか?」

間一髪。間に入った俺の手刀のほうが先にリーダーのエルフの腹に命中した。


リーダーは前のめりに倒れた。


「おのれ!」


エルフたちは輪になって俺たちを取り囲む。前衛は刀を抜き、岩壁に潜む者たちは矢を射る準備に取りかかる。


「た、大変だあぁ!」


緊張感漂う中、奥の小さな岩影の脇からもう一回り小さなエルフたちが涌き出てくる。


「どうした?今は敵襲だ。下がっていろ!」


弓を構えるエルフが叫ぶも、小さなエルフたちは混乱したまま泣き叫び、収拾がつかない。


どうやら子供のエルフのようだ。


更にエルフたちの群れが沸いて出てくる。


悲鳴から察するに女のエルフのようだ。さしずめ、俺たちを取り囲んでいるものたちの妻。そして子供たちといったところか…。


それにしてもよくこの狭い洞窟にこれだけのエルフがいたものだと感心するほど大勢だ。


たちまち洞窟の中はエルフでごった返す。


洞窟の岩肌に亀裂が入る。エルフたちが沸いて出てきた側だ。


地鳴りと共に崩れ落ちる岩。男エルフたちは女性と子供たちを階段に誘導する。


崩落か?


俺がそう思った瞬間、崩れ落ちた岩の向こうから蠢くものが現れた。


それも一つではない。複数だ。


どうやら岩壁の向こうに通じていて大きな広間があり、エルフたちはそこで生活をしていたようだ。


「で、でたー!スパイダースコーピオンだ」


エルフたちは波を打って男女の区別なく階段に向かって逃げていく。


大きな赤い目をしたタランチュラのような蜘蛛。しかし、蜘蛛と異なるのは毒ばりをもつ長い尻尾をもっていることだ。


糸を獲物に吐きかけ、動けなくなったところで毒を注入し、喰らうようだ。


既に数名犠牲者が出ている。


「パシェリ!」


俺はパシェリを呼び寄せると脱け殻ティラミスを安全な場所へ運ぶように促した。

俺は逃げるエルフに逆行しながら蜘蛛に向かっていく。逃げ遅れた子供たちがドミノ倒しになる。


蜘蛛はもらったといわんばかりに仁王立ちになり、天井に向かって大きな顎を突き出す。強靭な顎をアピールするかのように近くの岩を粉々に粉砕するとあげていた足を下ろし、尻尾を左右に細かく揺らしながらゆっくりと子供たちに近寄る。


身を縮ませ、逃げ遅れた者同士で小さく肩を寄せ合う。それに気づいた大人のエルフたちが弓矢を放つが体が硬いのか刺さりもしない。


子供たちに蜘蛛の影が重なり、赤い目が10個。ひしめき合いながら一点を見つめる。


「もう、だめだ」


エルフが絶望を口にし、膝から崩れ落ちる。


俺は崩れ落ちたエルフから剣を奪い、間を縫って蜘蛛に斬りかかる。


「瞬殺!」


蜘蛛たちは一瞬で真っ二つ。それでもなお八つの足と顎、そして毒針は危険なほど蠢いているので、俺はエルフたちが恐怖を感じないように細かく切り刻んだ。


5体の蜘蛛の亡骸が山となって折り重なる。


エルフから歓声があがり、安堵のため息が漏れる。


そのエルフの波を掻き分けて腹を押さえながらリーダーエルフが俺に近づいてくる。


手加減はしたが立ち上がってこられても面倒臭いのでちょっと強めに叩いたつもりだったが弱かったか。


まあ、小指しか当ててないからな。


「なぜだ?なぜ、俺たちエルフを助けた?我々はお前たちを殺そうとしたんだぞ」


リーダーエルフが叫んだ。その声は俺の答えを知っていてか虚しく洞窟の中にこだました。


「なぜって?困っていたからだろう。見過ごしたほうがよかったか?見過ごしたとしてもあの手のアニマルには俺たちが対立していようがいまいが関係あるまい。あいつらにとってエルフだろうと人間であろうとエサであることに変わりはない。どのみち襲われる。面倒臭いから倒したまでだ。礼にはおよばねえよ」

「貴様…」


リーダーエルフは腰の剣に手をかける。


「まだやるつもりなら俺たちは構わないが結果は見えているぞ」


俺はさっと移動し、素早いエルフより早く剣を抜き去る。


リーダーが驚く隙に他のエルフからも根こそぎ武器を奪って見せる。


「な?ーーどうする?まだやるか?」


「貴様は一体?」


リーダーエルフは棒立ちで俺を見つめた。




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