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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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勝ちにこだわる

「よそ見してっからだ。ーーティラミス、先に灯籠を!」


カプチーノが叫ぶ隣を自陣に向かって逆走するティラミス。


「おい、そっちは俺たちのーー」


「勝つのでしょう?だったらとことんこだわりましょう。ギリギリで勝っても偶然なんて言われたら…。ーーでしょ?」


「ああ…。確かに。でも、時間もねえぞ」


「ピーチさんが灯籠を何とか守って逃げています。まずは敵を瞬殺…。もとい瞬キルしてきます」


ティラミスは言う終わるやいなや風の如く自陣に舞い戻る。


自陣の灯籠は一進一退。敵が灯せばピーチが消灯する。


敵の攻撃をかわしているとはいえ、消灯している間はどうしても一撃喰らう。


もう一撃くらえば、体力の低いピーチはアウトだ。


「よし、もらったぜ!守備が全滅すれば灯籠は全てもらった。例え、魔娘に全滅喰らってもキル数は俺たちが断然上。あいつらがどうあがいても俺たちの勝利だ」


外野にいるババロアが腰に手をあて高らかに勝利宣言をする。


俺の前のそのまた前に座っていた派手な身なりの男女が立ち上がり、手を叩く。


どうやらババロアの親のようだ。


ティラミスのピーチ救出は一歩及ばなかったが、灯籠を全て灯される前に敵を殲滅できた。


だが時間もない。あと数十秒。


キル数は8対40。灯籠はどちらも灯っていない。


このままいけばババロアたちの優勢勝ちだ。


「ここからじゃあ、俺の火力とスピードでは間に合わない」


恨めしげにがら空きになった敵の灯籠をカプチーノが見つめる。


その横を炎の弾道が駆け抜けていく。


轟音を響かせながら竜のごとく灯籠目掛けて一直線。放ったのはもちろんティラミス。


残り三秒。ど真ん中の灯籠に噛みついたティラミスの炎は、離れて聳え立つ左右の灯籠に意思でもあるかの如く飛び火する。


カウント0。ホイッスル。そのコンマ何秒手前で紙吹雪が舞い上がる。


一瞬、観客席が静寂に包まれる。何が起きたのかわからないのだ。


灯籠はメラメラと我を見よ、と言わんばかりに天高くにその粉をあげる。


「すげえ…」


誰かが呟いたのを皮切りに観客から拍手と称賛の歓声が巻き起こる。


そう、ティラミスたちの完全勝利が確定したのだ。


トリュフは興奮して頭から垂れ下がる提灯をビカビかと点滅させ、はしゃぎ回る。


ズッキーニはトリュフに締め上げられ、伸びていた。


ショコラは空高く舞い上がり、旋回しながら何度も万歳を繰り返す。


ババロアと両親は完全崩壊。その場に崩れ落ちて動かない。


俺も思わず立ち上がり、ティラミスたちに拍手した。


ーー何かが落ちる音がする。


俺は辺りを見回した。ショコラの席からサラの日記が真っ白なページを開いた状態で落ちていた。


大方はしゃぎまわっているトリュフか誰かがぶっついたのだろう。


俺は腰を屈めて日記を拾おうとした。



すると突然日記がひとりでに立ち上がった。


俺が驚いて眺めていると日記はまるで誰かが繰っているかのように瞬く間に閉じてしまった。


「どういうことだ?」


俺は狐に摘ままれた気持ちで皮の背表紙に目をやる。


「あんのう…」


前の席から声をかけられ、俺は我に返り、見上げた。カプチーノの親の顔がそこにはあった。


「やっぱり魔王様でしたか…。うっちのドラ息子がいっつもお世話になりまして」


カプチーノの親は手拭いを肩から外し、微笑む。前歯が一つ欠けている。

よく見れば眉も微妙に繋がっている。ちなみにこのワールドでドラ息子と言うとドラゴン息子の略になる。


ドラゴンのように荒れた性格の意になるので注意しよう。


「カプチーノ君の…。親父さんですかな?こちらこそうちの娘がお世話になりまして」


俺は日記を拾い上げ、たちあがった。


差し出された手に俺も手を差し出す。


ーー手汗…。すげえ。しかも握力半端ない。チート級の俺でも危険極まりないほどだ。


一体何者なのだ。そういえばカプチーノも言っていた。『俺の親父も魔王に負けないくらい強い』って…。


「すっかし、魔王様はよう、本当にこのワールドのお生まれか?今やヒーロだなや」


「いやいや…。このワールドが平和になってもらいたいがゆえ。私なぞが名を残すのは間違いというもの、若い者たちに早く頑張ってもらいたいがためにーー」


俺は解放された手を横に突っ立って拍手しているパエリアの服で拭いていた。


「んにゃ、なかなかできるこってねえ…。まんずまんず」


カプチーノの親父は腕組をして目を瞑ると大きく二三度頷いた。


そこへティラミスたちがやってきたので俺は挨拶をし、立ち去ろうとした。


「ーー、東京は…。東京はどうなりました?おらは1999年までいたのですが…」


俺ははっとして振り返った。久し振りにきく現実世界の都市の名前。


それも俺が暮らしていた場所だ。


カプチーノの親父は悪びれた様子もなくさっきのままの笑顔で立っている。


「そんなこえぇ顔をなさらんでけろ。他意はねえずら…。ちょっと昔馴染みにあったら思いだしてしまっただけでよぉ」


俺は気持ちの整理がつかず黙ったままいた。


「やっぱし、もっしやしてと思っとたら、魔王様もですかい…。づつはな、このワールドにはまだまだおらたちと同じように違う世界からやってきた輩がいるみたいだなんや」

「あったことがあるのか?その輩に」


「んだ」


俺が口を開こうとした時、カプチーノが親父の後ろから現れた。


「なあに、また嘘ついてんだ、親父!恥ずかしいだろ!大体何だよトウキョウって…。ーーおっさんも話し合わせることねえって、全く」


カプチーノは親父の首根っこを掴まえて、引き摺りながら帰り始める。


「んだらよ、また。近あうちに酒でも酌み交わせてよ」


「ああ…。ぜひ」


俺はカプチーノの親父に手を振る。二人は見る間に小さくなっていく。


「パパ上様。何をお話になられていたのですか?」


「おお、ティラミスか。何でもない。雑談だ。ーーそれより今日はよくやったな」


俺はご褒美に頭ポンポン&ナデナデを与えた。


「へへ」


ティラミスは照れ笑いを浮かべながら顔を綻ばせる。俺が散々カプチーノの親父と話している間にショコラたちから祝福の嵐を受けていたのだろう。


遠巻きに俺たちを見ている。


ーーズッキーニは…起こしてやってくれ。さすがに可哀想だ。


だが俺とティラミスのやりとりに夢中で誰も助け起こさない。


仕方ない俺がやるか…。


「ティラミス、ちょっと待っておれ。今、ズッキーニをば…」


俺は手にしていた日記をティラミスに預けた。


「ああ、母上様の…」


ティラミスは両手でしかと受け止めるといとおしげに胸元でギュッと抱き締めた。


俺はさっきの事をティラミスに告げるべきか悩んだが、とりあえずズッキーニを起こすことに専念した。


意識ねえけど、死んでないだろうな、ズッキーニ。やたら重いぜ。魔王とっても心配です。


息はしているので、背中に回り、気付けがわりに軽く衝撃を与えてみる。

ズッキーニは奇妙な声をあげ、我に返る。


「はっ!ここは…?」


「闘技場だ」


「天にも昇る気持ちで花畑をスキップしておりました。ーーところでティラミス様の試合は?」


ズッキーニの顔の前にティラミスが顔を持っていく。


「ちゃんと観戦してくれていなければダメではないですか。ちゃんと勝ちましたよ」


ティラミスがニッコリ微笑んだ。


「はははっ、そうですか。ティラミス様それはそれはなによりです」


ズッキーニは喜び勇んで駆け回る。ショコラたちも再びはしゃぎ回る。


しかし、なぜかそれを見つめるティラミスの表情が暗い。


あれほどババロアに勝つことに燃えていたのに…。疲れたのだろうか。あるいは先輩の風邪でもうつされた。


「どうした?具合でも悪いのか」


「いいえ、なんでもありません。ただーー」


「ただ?」


神妙な顔つきで一点を見つめるティラミスに不安を感じ、俺も声のトーンを下げる。


「--お腹がペコペコです。早く帰ってパエリアの料理が食べたいです。さあ、急ぎましょう」


一転いつものティラミスに戻ると、パエリアに何事か促し、くるりと踵をかえして歩き出した。俺もその様子に深いため息をついた。


驚かすなよ、何かあったかと思うじゃないか。


「早くー、パパ上ー」


振り返りざまに俺を呼ぶティラミス。


「ああ、わかった」


俺はゆっくりと歩き出した。妙な風が俺の頬を撫でる。生ぬるくそれでいて去り際に背筋の凍るような冷気をふっと吐息のように残していくそんな風だ。


俺は慌てて振り返ったが誰もいない。


考えすぎか・・・。


俺は自嘲気味な笑みを浮かべ、楽しそうに家路につくティラミスを眺めた。


来るべき時が近づいていることにこの時の俺はまだ気づいていない。













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