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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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ティラミスの夢かなう

「じゃあ、コイツが全部?」


「そうだ。マルガリータはちっとも悪くはない。わかったか?」


「ああ…」


カプチーノはふてくされたように返事をして顔を背けた。


「カプチーノ、マルガリータに何か言うことがあるのではないか」


「ああ…」


カプチーノはますます首を背ける。見かねたモナカが カプチーノを抱え、マルガリータの前に気をつけをさせる。


「あっ、テメエ何しやがんだ」


カプチーノはジタバタともがくがモナカがしっかりと押さえつける。


「モナカん、もういいよ。無理に謝ってもらってもマルは嬉しくないし…」


「ーーカプチーノ、闘技場ではパーティを組むのだろう?まだ、ババロアのパーティには勝てないのか?」

「関係ねえだろう、今は」

「闘技場はチームワークが大事だ。誰かが足を引っ張ればおしまいだが、同時に誰かがミスしたり、ピンチの時には助け合わねばならない。お前一人がたとえ強くても勝てないのはそういうことなのではないのか…」


「それ以上におっさんみたく強くなればまけねえだろう?俺の親父みてえだ。本当はおっさんみたいにつええくせに、仲間だとか、マジでうぜえ」


「闘技場は狩りや決闘とは違う。まあ、ゆっくり考えてくれ」


「おじしゃま、ありがとう」


「ああ」


俺はマルガリータの頭を撫でる。マルガリータは嬉しそうに微笑む。


「ーーカプチーノ…。俺もお前と同じように考えていた時期がある。若いときだ。誰よりも強くなれば誰にも負けない。例え、敵が束になってかかってきたってな…。しかし、守らねばならないものがあると人は変わるものだ。仲間であったり、恋人であったり…。誰もが知らぬうちに誰かに世話になり、迷惑をかけているがそれに気づかないものだ」


「そりゃあ、俺だってわかっているけど…」


「ババロアに負けたくないんだろう?例え、闘技場というゲームの世界でも」


俺はアクビをした後、ズッキーニを伴って宿屋に戻った。


「おっさん!」


「ん?」


俺は足は止めたが、振り返りはしなかった。


「なんつーか、ごめん」


「俺じゃねえよ、謝る相手を間違えるな、カプチーノ」


俺は宿屋の扉を開け、中に入ると扉を閉めた。


カプチーノの大きな声が扉の向こうから聴こえてきた。きっとマルガリータに謝っているのだろう。俺はほっとため息をついた。


「さあ、ズッキーニ。荷物を屋上からここへ全部下ろすんだ、いけ!」


ズッキーニは目を丸くして、俺の顔を見る。


「何をしておる、早よ」


「魔王様は?」


「俺は魔王だぞ。大臣のお前より上であろう?それとも不服か?」


「鬼だ、悪魔だ、人でなし!」


「お前が俺を魔王にしたんだろう?諦めろ。さあ、早よ、早よ」


ズッキーニは露骨に嫌な顔をしながらも渋々宿屋の屋上に上がっていく。


暫くして、頭の上に三つ。両手に一つずつ荷物を抱えて俺のもとへ戻ってくると、荷物を下ろし、ため息をついて自らも床へ腰を下ろした。


「何をしておる、まだあるだろう?」


まだ五往復するぐらいはあったはずだ。


「いえ、これだけです」


「残りはどうした?」


「今しがた、クッキーさんとショコラさんが二つ抱えてキメラで飛び立ったのを皮切りにティラミス様もパシェリと共に…」


「そうか…。では、昨日の件はどうなっておる?ほれ、誤配が正されていた件」


「その事なら俺が説明しよう」


そう言って宿屋の入り口の扉を開け入ってきたのは、見覚えのある男であった。


「お前は、たしか…。倉庫強盗。なぜ、ここに?」


「政府の役人がいい人で、未遂の初犯ということもあり、特別に許してもらえたんだ。俺を殴ったのは魔王、あんたの娘なんだってな…。効いたよ、あんたの娘の拳はさ」


「それはどうも…」


お礼参りではあるまいな。しかし、こんな弱いやつ息を吹き掛けるだけで勝てるから問題ないが…。


もちろん、俺は人間だから桜吹雪も凍てつく息も炎も、甘い息も吐かない。ただの爽やかな息だが…。


「俺にもあんたの娘みたいな年ごろの娘がいる。何だか、自分の娘に殴られたような気がしてな…。牢屋の中で鉄格子越しに面会した妻と娘見ちまったら余計に情けなくなっちまって…。最初に人質にとった娘がこの裏手の宿屋の娘と知って何か罪滅ぼし出来ないかと思って、ずっと見張っていたんだ」


「ずっと監視していた男とはお前だったのか…」


男は黙ってうなづく。


「そうか・・・。で、何かしたのか」


「荷物違いで慌てている娘さんを見て、俺は居ても立っていられなくなり、誤配を・・・」


「全部ひとりで直したのか?」


「はい」


「なんと・・・」


俺は感心して自分の顎を撫でた。あの時と違い、目も血走ってはいなくて、まっすぐだ。俺は男の顔をしばらくじっと眺めていた。


そこへクッキーたちが帰ってきた。俺は事情を全て説明した。クッキーは最初こそ怯えた目で見ていたが呼吸を整えると男をまっすぐに見つめた。


「わかりました。そしてありがとうございます」


クッキーは男に一礼し、言葉を繋ぐ。


「これからもわがマジシャンの宅配便の一員としてよろしくお願いいたします」


「--?ということは」


男はクッキーの言葉に目を丸くする。


「よかったですね、採用ですよ」


ティラミスが男の背中を叩く。ほかのバイト仲間から拍手と歓声が上がる。


「さあ、喜ぶのはあと。あと残り五つ。荷物を運んでしまいましょう」


「おう!」


その日の午後、任務は完了した。その後ババロアの使いの者が正式に契約に来たがクッキーは丁重にお断りした。贈る人受け取る人それぞれの物語に感動し、この仕事にやりがいを感じたというのだ。


右から左の流れ作業的な大きな仕事よりも人の喜ぶ顔が見たいのだそうだ。あの時の凛としたクッキーの顔は見ものだった。


それともう一つ・・・。


最後の配送を終えて戻ってきたクッキーとティラミスのことなんだが。


箒を両手でしっかり握りしめて俺と顔もあわせず、俯いたまま通り過ぎたクッキー。顔が真っ赤で小走りに駆け抜けていった。


そのあとに入ってきたティラミスは呆けた顔で笑いながら泣いていた。


「どうしたのだ?二人でけんかでもしたのか」


最後に嬉しそうに入ってきたショコラに俺は訊ねた。



「--それがね・・・」


ショコラはにっこり笑ってこう答えた。


最後の荷物。キメラの体では入れない細い迷路のような路地。ショコラがひとっ跳びで行こうとすると待ったが掛かったという。


最後は自分の手でとクッキーが申し出たのだ。しかし、走っていくには結構な距離。すると、クッキーは箒に跨ったのだ。


「魔女たるもの箒に乗って飛ぶのが当たり前」なのだそうだ。けれど、昨今の若い者には不評。ダサいといわれてしまう。だからクッキーはうそをついていたのだという。


クッキーが細い路地を箒で駆け抜けていった姿にティラミスはうれしさのあまり壊れてしまったのだ。


良かったな!ティラミス夢がかなって!!






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