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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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捕まえた

「ーーでは外に荷物は出しっぱなしだったのだな」


「はい」


「ティラミスたちの他に手伝った者は?」


マルガリータは俯いたまま、首を大きく左右に振る。


「そうか…。カバーはかけておいたか?」


「ええ…。寝る前に…。盗まれても困りますので」


俺は残りの荷物を手にとった。


「念のため、残りの荷物も間違いがないか確かめておくか」


荷物には上から順に番号を振っている。


俺は送り主と宛先に間違いないかマルガリータと共に照合していく。


デタラメになっていたものを書き改めていく。


「ん?」


一番最後の荷物の上に世界樹の葉があった。押し花のようにぺったりと荷物の天井に張りついてしまっている。


「おかしいなぁ」


マルガリータが首を傾げる。


「どうした、マルガリータ」


「おじしゃま、私たち荷物を確認したのちに積み上げた上から順に番号を振っていったはずなのに…。それになんだか場所も微妙に左側にずれているような…」

「17、16、15、そして一番下に1か…。逆になっているようだな。確かに右側に重い荷物が置かれていた形跡があるな…」


誰かが意図的に動かしたようだ。


俺はパシェリを呼び寄せる。


「パシェリ、よく匂いを嗅げ。見知らぬ者の匂いがないか」


パシェリは大きなクチバシの先にある鼻を荷物の至るところに這わせると徐に目を閉じる。


やがて、一息吐き出すと今度は地面を丹念に嗅ぎ始めた。


匂いを辿り、宿屋の中へと入っていく。俺とマルガリータはそのあとを黙ってついていく。


別に同じ格好をしなければならないという決まりはないのだが、なぜか姿勢やしぐさがパシェリっぽくなってしまうのは不思議だ。


パシェリはある男が寝ていたそばで立ち止まる。男はたまたまトイレに行って不在だったが、そこは間違いなく俺が昨晩毛布を渡した男の居場所。

パシェリは毛布に頭を埋めるほど匂いを確かめると「クエッ」 と小さく一声鳴いた。


どうやら間違いない。俺はパシェリの頭を撫で、ティラミスの元へ戻るように命じた。


パシェリは二三回羽をばたつかせたあと、駆け足でティラミスの元へ戻る。


ティラミスはパシェリをあやしながら俺に首をコクンと下げ、了解の意思表示を示す。


件の男がトイレから戻ってくる。俺はおくびにも出さずに、男の隣を通り過ぎた。


「ああ、クッキー。残りの荷物の間違いは俺が正しておいた。誤配の分は今日中に何とかなりそうだ」


俺はわざとでかい声で言った。


敵を欺くにはまず味方から。俺は嘘をついた。


まだ、誤配の荷物は手付かずのままなのだ。


事情を知らないクッキーは目を丸くして驚いている。あれだけの誤配の量が小一時間ほどでどうにかなるわけがないとわかっているからだ。


しかし、ラッキーなこともあるものでそこへちょうど電話が掛かってきた。


クッキーは半信半疑な俺の話をひとまず横に置いて電話口にでた。


「はい。ーーえ、ええ…。ええ?」


クッキーは電話口を押さえて小声で相手に何か伝えた後、頭を下げながら「ありがとうございます」と何度も礼を述べていた。


どうした、クッキー?」


「魔王様、ありがとうございます。本当に誤配を正してくださったのですね。電話はその御礼でございました」


クッキーは安堵の表情を浮かべる。


誰だ?少なくとも俺ではない。しかし、これで計画がうまく運びそうだ。


俺からも礼を述べたい。


ティラミスやショコラからも嘘からでたまことによる礼賛を受け、否定することなく有り難く頂戴した。


たまたま一件誰かが直してくれていただけかもしれないが、全部直しておいたことになって助かった。


ズッキーニにあとで確認させよう。こうなったら犯人逮捕が先決だからな。


その晩、俺とズッキーニはダミーの枕を毛布に忍ばせ、待ち伏せした。


もしバイトの中に犯人がいるなら犯人は自分の任務が失敗したことに気づいたはずだ。


そうなれば残りの荷物を必ずねらってくるに違いない。


俺たちは荷物を安全な場所に移動して、犯人を待った。


夜がしらみ始める。


犯人は一向に現れる様子がない。


まさか俺たちの動きがバレたか?


向こうだってバカじゃない。俺たちの動きに勘づいてまで荷物に近づこうとは考えないだろう。


別の方法でも考えたか?


俺がそう思っていた矢先。宿屋の扉が静かに開く。


暗がりにごそごそと蠢く何か。じっと目を凝らすと大きな人だとわかった。


やがてこちらのダミーに近づいてくると男だとわかった。


男が松明に灯りをともすと相手の顔がはっきりした。


俺が毛布を渡したあの男だ。


また荷物の宛先を変えるのかと思っていたら、違う。


男は油をかけ、松明を放った。


「そこまでだ!」


俺は隠れていた場所から男の前に進み出る。ズッキーニも俺の後ろから現れる。


「ちっ。バレたか…。だが、もう荷物はおしまいだ」


「それはどうかな?荷物ならキメラたちがこっそり宿屋の屋上にあげておいた。これはダミーだ」


「何だと?」


「つまりはお前の任務は失敗というわけだ。ーーお前、ババロアの家臣だな…。どこかで見たことがあると思ったら荷物を積み降ろししていた連中の一人じゃないか」


「くっ」


男は俺たちを突き飛ばして逃走を企てる。


「ズッキーニ、取り押さえろ!」


「かしこまりてございまする。リザードストライク!」


ズッキーニの激しいタックルが決まる。前衛といえどこのスキルを喰らえば立ち眩みおぼえ、足が数秒は止まる。後衛なら言わずもがなである。


しかし、男はものともせずに逃げていく。やはりただ者ではない。


「ズッキーニ、油断するな。傭兵としての訓練を積んでいる。タンク並のアタッカーと心得よ」


前衛のアタッカー。パーティの盾役。パラディン、ガーディアン、ベルセルク…。中でもタンクは一番防御力が高く、滅多なことではやられない。

恐らくそのクラスのアタッカーなのであろう。


「はっ!しかと心に」


ズッキーニは助走をつけると体を車輪のように回転させながら男に突進していく。


「リザード、ローリング・ ストライク!」


突き飛ばされた男が宙を舞う。


そして、地面に叩きつけられると、呻き声をあげのたうち回る。


「お前は大切な証人だからな、捕まえて後でじっくり話してもらおうか」


俺は男のもとへ近づいた。男は懐から爆薬を取り出した。


「来るな!火を放つぞ」


「確かに任務失敗となればババロアに顔向けできんな。おめおめ帰ったとしても処刑されるのがおちであろう。--しかし、死んでどうなるものでもあるまい」


男は俺の言葉を打ち消すように髪を大きく振り乱すほど振り続ける。そして、俺の言葉が終るのと同時に導線に火を放った。指先から迸ったところを見ると多少の魔法の心得もあるようだ。


「アイスブレス!」


俺が放つよりも前。男が火を放つまさに直前から男の行動を予見していた者が爆薬に向かって小さな氷の弾道を放つ。


導火線に放った火は瞬時にかき消される。湿った導火線はもう役目を果たさない。男はそれ以上の抵抗を諦め、四つん這いのまま肩で息をする。


死ぬ気になれば舌でもかめたかもしれないがそこまでの覚悟はなかったのかもしれない。助かったことに安堵した、そんな表情に見えた。


「マルガリータ・・・だな。ずっとそこにいたのか?」


俺は倉庫の壁近くに佇んでいたマルガリータを発見した。おずおずと俺たちの前に歩いてくる。


「きっとおじしゃまは犯人を捕まえようとしているのだと思いましたので、私も何かお役に立たねばと・・・。でも私は、私は・・・」


両手をまっすぐ下に伸ばしたまま握りこぶしでこみ上げる感情を堪えている。


「ああ、助かったよ。ありがとう」


めらめらと燃え盛るダミーの荷物にズッキーニといつの間にかいるパシェリが協力して鎮火にあたっていた。


「一体朝っぱらから何の騒ぎだよ。--わ、た、大変だ。おい、モナカ手伝え!荷物が」


起きてきたカプチーノが宿屋から出てきたなりで荷物の消火活動に参加する。


「おっさん、見てないで手伝えよ」


「そいつはダミーだ。荷物は安全な場所にある。だが火事は危ないからな、消すぞ・・・。どれ」

俺はブリザードの呪文をダミーに向かって放つ。2秒で消火した。


「やれやれ。驚いて損したぜ。--ん?マルガリータじゃねえか、お前まで何やってんだ。まさかお前が火つけたんじゃあないだろうなあ?」


「マルガリータちゃんはそんなことしないと思います」


間髪入れずにカプチーノの言葉にモナカが反応する。


「よくわかっているな、モナカ。そうだ、マルガリータではない。犯人はこいつだ」


俺はズッキーニが縄で縛り上げた男を指し示した。男はカプチーノの視線から首をそむける。



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