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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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犯人はきっと別にいる!!

ティラミスたちは荷物の仕分けに取り掛かり、俺たちはその日の業務をこなしていく。


そして、クッキーは臨時バイトの募集に早速集まった者たちを面談していく。


ショコラとクッキーの母親はバイトたちに初めてでもわかるようにマニュアルを作成している。


こうして俺たちは各々が遅くまで準備作業を進めた。


夜食をとり、仮眠をとろうとしていたとき、俺はバイトとして採用された一人の男が気になった。


その男は一人うすら笑いを浮かべ、端の方で目立たないように踞っていた。


「どこかで見たような気がするが…」


俺は毛布を差し出して男に訊ねた。


「い、いや…。気のせいでしょう」


男はあからさまに俺から顔を背けた。


「ありがとうございます。もう寝ますので…」


男は毛布を頭から被り、横になってしまった。俺は男を起こしてまで問い詰めるまでの何かを持っていなかったのでそのままその場を離れた。


ーーそして、もう一人…。気がかりな男が存在する。


俺たちの様子を物陰から伺う人物。姿形から男であると思われるのだが顔は隠れてしまい判然としない。


ここ数日、昼間に作業をしている合間にふと気づくのだ。


何をしているかは定かではないがどうも気にかかる。


男たちとクッキーの仕事。悩みが二つも三つもあって俺は寝つかれない。

周りから寝息が聞こえるのを尻目に俺はそっと宿屋の裏手に回った。


街と草原を隔てる壁。宿屋の庭。その間にヒョウタン型の池がひっそりと存在していた。


池の中には片方の羽の中に顔を埋めて休んでいるキメラたちが数羽。微動だにせず月夜に照らし出される。


虫の鳴き声と相まって非常に風流だ。俺は暫くその様子を眺めていた。


ふと倉庫側の池の端を見ると、大きな大木が宿屋と池を守るように立派な四肢を広げていた。


「倉庫の陰に隠れていて気づかなかったが…。世界樹の木か…」


世界樹の木は人目につかない山や森にひっそり自生しているがこのような場所にあるのは非常に珍しい。


昔は人がその葉を一枚飲ませればたちまち死人が蘇生すると信じられ、人々はこの木を求め、冒険にでたという。


この木のために世界戦争さえ起こったが伝説は伝説。蘇生の話は嘘っぱち。全く根拠のないデタラメであった。


高い値で売買されたが、乱獲のために今では絶滅危惧種。滅多にはお目にかかれない。


「クエッ」


「おお、パシェリか…。すまんすまん。起こしてしまったな」


俺は池の上をすっと滑ってくるパシェリに小さな声で言った。


パシェリは陸に上がると身震いを小さくして水を弾く。俺にかからないように気を使っているのだ。


そして、律儀に俺の前までくると頭を擦り付けてきた。


「わかったわかった…。遅いからもう寝てよいぞ」


俺はもっふもふの喉のした辺りを撫でてやる。


もっともっととパシェリはせがんでくる。俺も付き合うが少々疲れてきた。


俺とパシェリの様子に気づいたのか、他のキメラたちもアクビをしながらこっちへ向かって泳いでくる。


嫌な予感がする…。


俺はたちまちもっふもふの集団に取り囲まれていた。


「ちょっま」


構って攻撃の押しくらまんじゅうに俺は弄ばれる。


俺はとうとう一睡もできないまま朝を迎えていた。


「あら、パパ上様。食事もとらずにここにいらしたんですか?」


心配したティラミスが俺を探しにきた。


パシェリが俺から離れてティラミスに甘える。現金な奴だ。


他のキメラたちも自分の主を見つけると一斉に散っていった。


それはそれで何か寂しい…。一晩中遊んでやったのに…。


「さあさあ、パパ上様も早く食事をとられて。早く荷物を片付けなければ大変な事になってしまいます」


ティラミスにせかされ宿屋の中に入るともうすでに他の者は仕事に取り掛かっていた。


忙しいときに仕事は重なるもので電話はひっきりなし。クッキーと母親はその対応におわれている。


みんなそれぞれの持ち場につき、王家とその日の荷物を捌いていく。あの男も黙々とこなしている。


俺の気のせいだったか…。俺はテーブルの上にあったパンを立ちぼうけのままかじりついた。


「あっ、おじしゃま。お早うなのです」


「お早う、マルガリータ。随分張り切っているな」


「はい。私、ドジだからみんなの足を引っ張らないようにしないとって…。昨日はおそくまで外で荷物を仕分けしてたのです」


マルガリータに任していいのか…?俺は別の心配事ができた。


「おじしゃま、いやーだあ。そんな心配な顔をして…。大丈夫ですよ。ショコラさんとティラちゃんがちゃんと間違いないかチェック・チェックしてくれたんだから」


それなら安心だ。ーーって言うか、俺、そんな露骨な顔をしていたか?


俺は頬をつねってみた。パンを頬張ったまま、俺も仕事に取り掛かる。


その日の夕方だった。仕事はティラミスたちの活躍により残すところあと僅か。


このままのペースでいけばよほど無理な荷受けさえしなければ午前中までには王家の仕事は終わるだろう。


そんな余裕をかましていた矢先であった。


凶報の電話が鳴り響く。

「ちょっと!荷物がちっとも届かないって、どうなっているのよ」


電話から離れていても通る金切り声。この電話を筆頭に「間違ってうちに知らない人から荷物が届いているんですけど」などの声が寄せられる。


「なぜ?」


クッキーは鳴り止まない電話に呆然とする。代わって対応するショコラとクッキーの母親は電話に平謝りを続けている。


ひょっとして…。また、私の…せい」


マルガリータが鼻を啜るとじんわりと目に涙を溜める。


荷物違いとなれば仕分けしたものが真っ先に疑われるのだから当然といえば当然だ。


しかし、マルガリータがいくらドジでもショコラとティラミスがチェック・チェックという二重チェックをしているのだからそれはまずないだろう。


仮にあったとしても量が多すぎる。


「だから言ったろう。マルガリータになんか仕分けを任すから料理かお茶汲みでもさせてりゃよかったんだ」


カプチーノがいきりたつ。マルガリータは両手で顔を覆い、泣き崩れる。


「カプチーノ君、そんな言い方ってないわ。マルガリータちゃんはしっかりと仕事をしていたわよ」


ショコラがすかさず反論する。ショコラにしては珍しい。


「そうです。私もきちんと見ていましたから保証します」


ティラミスはマルガリータの肩を抱き、慰める。


「だったら、なんでこうなるんだよ…。マルガリータじゃなきゃお前ら二人が犯人だろうが」


「そ、それは…」


ティラミスたちは絶句する。


「まあ、待て、カプチーノ。犯人探しは後だ。今はそんなことより荷物を回収し、配達し直すことが先だ」


「でもよう」


カプチーノは不満げに俺を鋭い眼光で睨み付ける。


「マルガリータは少し休んでおれ。近場は俺とズッキーニで今日中に何とかする。お前らは間違ったところを洗い出してくれ」

「はい…」


力なくクッキーとティラミスが返事する。


「洗いだしの間にパシェリを少し借りるぞ。ーーそれから、マルガリータ。ちょっと来い」


俺はマルガリータから色々と状況を聞き出した。


マルガリータはピンクの修道服の裾を握りしめ、ゆっくりと俺の質問に記憶を確かめながら答えていく。



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