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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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役者はととのった

「そうか!ありがとう、ショコラちゃん。早速倉庫屋さんに話をしてくる」


クッキーは、何故かホウキを片手に宿屋を飛び出した。


数分後息を切らして戻ってくる。


「どうだった?」


ショコラとティラミスが肩で息するクッキーを覗き混む。


「オッケーだって」


「やったー」


それからは順調に客足も伸びていく。


手伝いも三人雇えるようになった。


「これで一息…。やれやれだね」


「うん!」


「さて、我々も手を引くか…。あとはクッキーの腕次第。頑張るのだぞ」


「お母さまのことまで面倒見てくださって…。おかげでお母さまもすっかり具合がよくなりました。なんと礼を申し上げたらよいのやら」


「なあに、困った時はお互い様よ」


俺たちはそんな会話をして帰ろうとしていた矢先であった。


「ごめんくださいまし」


「あら、お客様よ」


ショコラが入り口を振り返る。見ると、タキシードを着こなすスマートな老人が一礼をする。


「いらっしゃい。お荷物のお届けですか?」


「ええ…。私はババロア家筆頭書記官、名をエクレアと申します」


「嫌な予感のする名前がでましたね」


ティラミスが武者震いをする。同感だ。


「この度、貴殿の新しいご商売に深く感銘なされた王様がババロア家御用達の認定を与えたいとの御意向」


エクレアはここで業とらしく咳をする。


「おっ、ここが例のタクハイビンとかいうのをやっている店か…。ほとんど宿屋じゃねえか。おい、お前らここでいいぞ。全部おろしておけ!」


外でババロア・プリンスが喚き散らす。大きな物音が聞こえる。


何やら大勢の人が荷物をクッキーの家の前におろしているようだ。


クッキーが慌てて、宿屋の外に飛び出る。


俺たちもそれに続く。宿屋の二階まで届くほどの荷物が山となって宿屋の入り口に積み上がっている。


あまりの高さにクッキーは口を開けたまま絶句してしまう。


「これは御用達認定のための試験です。これを明日中に所定の場所まで届けて頂きたい。荷札に送り先の住所と名前がつけてあります」


エクレアは鼻先で荷物の山を指し示すとババロアの元へ歩み寄る。


「頼んだぞ。何せ王様の御用達になるんだからな…。あまりの有り難さに感動の涙が止まらねえだろう。ーーおやあ?」


クッキーの後ろでこそこそ顔を隠していたティラミスだったが、ババロアに見つかってしまったようだ。


まあ俺が堂々と突っ立っているから察しもつくだろうがな。


これはこれは魔王様にその娘。こんな場所で奇遇だなあ」


ババロアは意地悪そうな顔つきでティラミスの元へ歩み寄る。


ティラミスも観念したように姿を現すが目線だけは外す。


「コイツは楽しみだ。お前らがまさか関わっていたなんてな…。できませんでした、じゃあ済まないぜ。御用達の申請は依頼された任務をきちんとこなせて当然。出来なければ…。王家の顔に泥を塗ったと同じこと。牢獄行きだからな」


「な、なんてこと!」


クッキーの顔が青ざめる。


「これはお願いという名の命令だぜ?断れば死罪だってありうる。ーーもっとも俺の腹積もり一つだけどなあ、ダッハッハッハ」


ババロアはこれが権力と言わんばかりに高らかに笑い飛ばす。


「日々の業務をこなしつつこれだけの荷物を捌くなんて無理に等しいわ」


クッキーがババロアを睨む。


「そりゃあ、そっちの都合だろう?他の仕事を断りゃいいじゃねえか。こちとら王家だぞ、王家!」


「あまり品のいい王家とは思えんな…」


「何だと?魔王の分際でこのババロア様に向かって今何てほざきやがった」

ババロアの部下たちが一斉に腰の物に手をやり、低く身構える。荷物運びをしていた連中だ。鎧を着てはいるが兜の装着はない。どれも間抜けな面だ。


俺は左から順に眺めまわし余裕の笑みを浮かべる。


「これはこれはババロア様の王子殿。お気に障ったのならご容赦を。あなたほどの高い身分のお方にしては少々品のない物言いだったと……。壁に耳あり障子に目あり。この街の民がどこぞで吹聴いたしますればいずれあなたの父上や母上のもとにも届きますぞ。荷物より早く確実に・・・。そうなれば傷がつくのはあなた様の家柄。まして、我々のようなつまらないものを斬ろうとする態度。民にはどう映りましょうなあ」


「うう・・・」


ババロアはうろたえると配下たちに止めるように指示した。配下たちは忌々しげな顔を押し殺すように口を真一文字に結び、ゆっくりと直立の姿勢に戻る。


「それにこの荷物の量、雇える人手も精一杯。せめてもう少し時間を伸ばしていただきたい」


俺が頭をさげると、クッキーも俺の横に並びそれに倣う。渋々ショコラとティラミスが続く。


「--まあ、いいだろう・・・」


俺は俯きながら、そっとババロアの奴の顔色を窺った。悪そうな顔をしていやがる。おそらく悪いことをガッツリ思いついた顔だ。


「もう一日延長してやる。それ以上はおまけはできない。その代わりといっては何だが・・・」


ババロアは懐から金貨の袋を取り出す。投げてよこそうとしたが、思いとどまる。歩いて、クッキーのもとへくるとしっかりと手渡しした。


「これで、臨時に人を雇うがいい。そうすれば時間の問題は解決するだろう。そうだ!募集広告は僕が近くの街に張っておこう。どうせ、城に帰る道すがらだ。俺の口添えがあれば今日中に集まるだろう」


ババロアにしては優しすぎる。


「さっきのことは謝ろう。僕はこう見えて本当は優しくて、温かい人間なんだ」


目が少女漫画風にキラキラしていて気味が悪い。どう転んでもババロアは「生」優しくて、「生」温かい奴だ。油断できない。


ティラミスも生まれたてのひよこのようにきょとんとしている。


「じゃあ、邪魔するよ。--魔王様にティラミス君、健闘を祈る」


ウインクをした後馬車に乗り込み配下共々去っていった。遠のく馬車はご機嫌な感じで左右に揺れている。


「うう、なんかさぶいのです。パパ上様」


ティラミスが身を縮め、震えるとショコラとクッキーも同じ動作をした。


「この金貨で雇えても数人。あとはボランティアを募るしかあるまい」


それなら任せてください。もうすでに電話済みです。後はこの場所にいざなうのみ」


ティラミスはポケットからキメラ笛を取り出し、口に当てた。キメラは人間には聞こえない高い周波数の音や遠くの音も拾える。この笛の音はキメラを呼び寄せるのに最適の笛なのだ。


そして、この笛は吹く者によって微妙に違いキメラはその微妙な違いを聞き分けて主の笛を判断するという。


「さあ、おいで・・・。パシェリ」


ティラミスは笛をくわえたまま空の一点を凝視する。青空と雲の間から黒い点が一つ現れると、その点更に三つに増えた。そして、それぞれが線となるとあっという間に我々のもとへ四羽のキメラが降り立った。


「はい、お利口さん」


ティラミスは自分の背丈より大きくなったパシェリの喉元に手を伸ばし撫でてやる。パシェリはフカフカもっふもふの喉元の毛を震わせて目を細める。


二重瞼に長いまつげ。勇ましさの中にも女の子らしい特徴を持っている。立派に成長したものだ。


他のキメラの背中からそれぞれ人が降り立った。マルガリータ、モナカ、カプチーノだ。そしてもう一人。ひどい顔つきで倉庫屋の向こうから走ってくるトカゲ男が一匹。


「ま、魔王様・・・。馬車くらいよこしてくださいませ。ズッキーニは働く前に倒れてしまいます」


「これで役者はそろったな」


俺はにやりと笑った。


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