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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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知恵を絞って宅配便開始!!

お母さま、ただいま帰りました」


宿屋の入り口を入り、左手のドアを開けるとクッキーが叫んだ。


小さなテーブルと椅子が2つ。その奥にはベッドが2つ。どうやら二人暮らしのようだ。


その片方のベッドが蠢き、やつれた女性が半身を起こす。


「お帰り…、クッキー。おや、ショコラちゃんも…。それに大勢お友達まで。ごめんなさいね。こんな格好で、病気で何もお構いできなくて」


クッキーの母親はそのまま頭を下げると咳き込んだ。


「ああ、お母さま。無理なさらないで。客人は私がもてなすから」


「お構い無く」


俺は首を横に振った。


「お父様が亡くなってから。お母さまが切り盛りしてきたんだけど…。無理が祟っちゃって…。椅子をどうぞ」


クッキーは壁脇に重ねて置いていた椅子をだしてきて俺たちに勧める。


俺たちは礼を述べ、席についた。


「ねえ…、魔王様。クッキーちゃんうちのお城で雇えないかしら?そうしたらお母さまの面倒も私が見て差し上げられるし」


「うむ…」


その手もあったか。


「ありがとう、ショコラちゃん。でもね、生まれ育った家を私は離れたくないの。できればこの場所で何かしたいと思っているの。それに死んだお父様との約束もあるし…」


クッキーは紅茶を淹れてきた。


「父親と何か約束ごとをしてあるのか?」


俺はあったかい紅茶を啜った。気品のある香りが鼻に抜けていく。


「ええ…。この建物の裏手には湖から繋がる池があるの。その池のほとりは毎年キメラたちが巣作りをして、ヒナが育つまで暮らしているんだけど。もしここがなくなってしまうと、キメラたちが安心して巣作りができる場所が失われてしまうわ。ーーだから私は…」


「そう…。残念だわ」


ショコラもガッカリした様子だ。


母親はその間にも咳き込んでいる。クッキーは立ち上がると母親の背中を擦りにいく。


「それにお母さまもこの通りだし」


「よし、わかった!母親の病気の面倒はトリュフたちに任せよう。医療班たちを交代で毎日ここによこす。でないと、クッキー。お前の身がもたない」


「ええ?で、でも…」


クッキーは困惑した表情を浮かべる。


「なあに、心配するな。困った時はお互い様だ。それより…仕事の心配だろう?」


「はあ」


「キメラがいるなら話は早い。魔女にうってつけの仕事が実はあるんだ」


「魔女にですか?」


クッキーは首を傾げる。ショコラもティラミスに答えを求めるが、ティラミスもカップの縁にかじりつきながら答えを巡らしている。


「宅配便というやつだ」


俺はニヤリと笑った。


タクハイビン?」


ティラミスたちが首を傾げる。無理もない。この異世界にはないビジネスだ。


俺は大まかな仕事内容を説明した。


「なるほどね…。さすがは魔王様」


ショコラは頬杖をしてうっとりした表情を見せる。


それでも鼻の下など伸ばさないでクールを気取る俺。


そんな俺が俺は大好きです。


「でも、大きな荷物ばかり持ってこられたら…。それに遠くを指定されたらどうしたら…」


クッキーはまだ二の足を踏んでいるようだ。体を左右に揺らし、困った表情を浮かべる。


「大きさによって料金を変えるのだ。それに荷物運びなら…。裏手にたくさんいるのではないか」


そうか!パパ上様、キメラなら力もあるし、早く遠くに運べる」


「その手があったのね」


クッキーがポンと手を叩く。表情はさっきまでと異なり明るくなる。


ショコラはますますうっとりだ。


飛び込みたくなったらいつでもかかってこい。俺の厚い胸板いつでも空いている。


「ーーそれにキメラが運べない重さなら依頼主も納得するでしょうしね!」


ティラミスがクッキーにウィンクする。


俺が俺に酔いしれているうちに最後のいいところをティラミスにかっさらわれてしまった。


ま、いいか…。


ティラミスよ、ナ、ナイスフォローだ。た、たまにはやるな」


「へへへ」


ティラミスは得意気に笑う。


「善は急げだ、クッキー」


「はい。取りあえず頑張ってみます!」


クッキーは自分に言い聞かせるように胸の前で小さなガッツポーズをとって見せた。


「私もたくさん手伝っちゃうんだから」


ショコラはクッキーの周りを楽しげに廻りだす。


「じゃあ、頑張りましょう!」


ティラミスもヤル気まんまんだ。


俺たちは早速その日から準備を始めた。


看板作り。チラシの配布。キメラの飼育。


しかし、新規の商売。中々うまくはいかない。はじめの一週間は僅かに一件。


そりゃそうだ。見知らぬ人に大事な荷物をほいそれと預ける人はいないからな…。


「アイデアはよかったんだけど…。やっぱり無理なんですかねえ」


さすがにクッキーもへこたれた様子だ。


「ねえ…、クッキーちゃん。私、思うんだけど…」


ショコラがおずおずと名乗りをあげる。


「倉庫の人にまずは頼んでみれば?この街の倉庫屋さんならクッキーちゃんのことをよくご存知だし、倉庫から遠くの倉庫や人に運ぶ仕事なら皆さんの信用もつくんじゃない?」


「そうか!ショコラちゃん賢い!」


ティラミスが手を叩く。

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