そのままでいい
「パパ上様たちも倉庫に用事ですか?」
「いや、この先の宿屋の娘がショコラの友人で相談事があるというのでな。そうしたらこの騒ぎ…。覗いたまでだ。ティラミス、お前こそ何をしていたのだ?」
「パシェリを散歩にと思いましたらトリュフに倉庫に預けてある薬草を一つ引き出してきて欲しいと頼まれまして…。そうしたら子供たちにもおもちゃやら剣やら本やら引き出してきてと言われて…」
ティラミスは両手を広げてうんざりした顔をする。数が多くてお手上げのようだ。
「一応紙に書いてはきたのですがいちいち一回ずつ並び直さなければならなくて…。めんどうです。いっそ手紙のように電話一本で品物を持ってきてくれれば便利なのになあ…」
俺はそれだと思った。
「なるほど!でかしたティラミス。ーーどれ、そこでまだ震えているクッキーとやら」
俺はまだ、倉庫の中央付近でしゃがみこむクッキーに呼び掛けた。
「ふぇ?」
いきなり知らないおじさんから声をかけられたクッキーはきょとんとした顔をして俺を見上げる。
「クッキーちゃん。わ・た・し・よ。わたし」
ショコラがボブの頭からちょこんと見える耳をぴょこんと御辞儀させる。
「ショコラちゃん」
見知った顔にようやくクッキーは安堵の表情を浮かべる。
「あら?じゃあ、この方が…」
ティラミスも状況を呑み込む。
「うむ。そうだ、宿屋の娘さんだ」
ティラミスはショコラとクッキーの話が一段落したのを見計らい、自己紹介をした。
クッキーの方も俺たちに長いスカートの裾を軽く指でつまみ、はじめましての挨拶をする。
「立ち話もなんです。助けて頂いた御礼もしたいので家にいらしてください」
クッキーはホウキを片手に携えるとさっきまでのか弱い雰囲気とは違い、元気に歩き出した。
「ようやくいつものクッキーちゃんに戻ったみたい」
ショコラも安心したように呟く。
「こう見えて私は魔女の出なの」
歩きながらクッキーは自分の出自を明かした。
「へえ…。それでホウキを?やっぱり空とか飛んじゃったりするんですか、ホウキで?」
ティラミスは目を輝かせて質問する。
「ううん。庭の掃除用なんだけど最近物騒でしょ?家に武器はないから護身用。ーーてか、ホウキで空飛ぶなんて物理的に無理でしょ。飛べてもダサいから絶対勘弁」
クッキーは楽しそうに笑う。
「そ、そなんだ…」
ティラミスは心のHPに大きなダメージを食らった。
いいんだ。いいんだよ、ティラミス。夢やロマンを失った現実だけを見るくたびれた大人になんてパパはなってほしくない。君はそのまま成長してくれたまえ。




